コラム『ウィジェットマーケティング最前線』は、ソニー グループ戦略部門 事業戦略2部 FLO:Qプロジェクト室 室長 竹下直孝氏による執筆です。竹下氏のプロフィールについてはページ下部をご参照ください。

そもそも"ウィジェット"の定義とは?

まず最初に、皆さんは「ウィジェット(widget)」の意味をご存じですか? また「ウィジェット」をご自身で利用されたことはありますか? 一般的に、ウィジェットとは、「ウェブ上やPCのデスクトップ上などで動作する、小型のアプリケーションソフト」のことで、ガジェット(gadget)とも呼ばれています。

そもそも、ウィジェットは当初、PC上で起動する時計やカレンダーなどローカル環境で動くものが中心でした。そして、2005年頃から、RSSリーダーや天気予報など、ウェブ上の情報/コンテンツを表示できるものが登場。さらには、ブログやSNSの日記上に直接表示(貼り付け)でき、ユーザー間でコミュニケーションできるものが登場し、その概念は一気に広がりを見せたと言えます。今では、様々な環境で「ウィジェット」や「ガジェット」という名のもと、多くのサービスが展開されています。 上記を踏まえて、再度ウィジェットを説明するなら

  1. ウェブ上にあるコンテンツの表示やユーザー同士を結び付ける機能を持つアプリケーション
  2. Flash等の技術進化に基づき、機能性/デザイン性が非常に高い
  3. ウェブやPCデスクトップを中心に、現在では、ネット接続が可能な携帯電話やテレビといったデバイス上でもサービスが提供されている

以上のようになるのではないかと思います。

マーケティング手法として注目が高まるウィジェット

「FLO:Q(フローク)」ウェブサイト

私達は、2006年10月に「FLO:Q(フローク)」というサービスをリリースして以降、ウィジェットを利用した新しいマーケティングについての啓蒙活動を行ってきました(関連記事)。 リリース当初は、その言葉の難しさ、または、サービスの馴染みの薄さからなのか、そもそもウィジェットに興味を持ってもらうことすら難しい状況がありました。ところが、時間の経過と共に状況は一転。2008年に入り、メディアでは明らかに「ウィジェット」という言葉を目にするようになり、私自身も色々な場で企業のPR担当の方にお会いした際、「ウィジェットのことを知りたい!」ということで声をかけていただく機会が増えました。

即ち、「ウィジェット市場」というのは、この2年間で急激な成長を遂げた「生まれたて、かつ、未だ発展途上」だと考えています。

市場の成長にともない、ウィジェットに新しいマーケティング手法としての注目が高まっている中、一方で、事例紹介の少なさや社内での有用性の説得など、多くの課題とともに「ウィジェットを自社の製品やサービスのマーケティングに効果的に利用するためにはどうすればよいのか?」と考えている方も少なくないと思います。

そこで、本企画では、初めてウィジェットマーケティングを実行する際に参考となるよう、市場環境の整理等の基本的な内容を網羅しつつ、有識者からの生の声もご紹介しながら、FLO:Q(フローク)上で多くのパートナー企業様とウィジェットマーケティングを実践している私達なりの視点で、ウィジェットマーケティングの基本的な進め方とその課題について、4回に渡ってまとめていきたいと思います。

トレンドは「ウェブ貼付け型」ウィジェット

まず、今回が第1回となりますが、次回以降のベースとなるように、ウィジェットマーケティングを検討する際に必要となる「ウィジェットタイプとサービス概要」についてまとめたいと思います。

下図にあるように、現状、ウィジェットが展開されている環境を2本の軸で分類してみました。

ウィジェットタイプとサービス概要

ヨコ軸は、ウィジェットタイプとして「ウェブ貼付け型」と「デバイス常駐型」、タテ軸は、ウィジェットの利用シーンとして、個人で楽しむ「パーソナルユース」とリアル・ウェブ問わず複数メンバーで利用する「共有/コミュニケーション」というように設定しています。ここに各サービス環境をマッピングして4つのグループに分け、その特性を以下にまとめました。

  1. ブログ/ソーシャルネットワークサービス……ウェブ上での個人間での共有+コミュニケーション
  2. PCデスクトップ/マイページ型サービス……PC利用をベースにしたパーソナルユース
  3. 携帯/スマートフォン/パーソナル機器……モバイルデバイス上でのパーソナルユース
  4. テレビ……リビングデバイス上での新しい情報取得/共有

ウィジェットをマーケティングツールとして活用する場合、上記(グレーの矢印)のように、デバイスをキーに個々のユーザーとのリレーション強化を目指すか、またはWebを介して広く新たにリーチを取るか、という戦略が、現在のところは有効のように思います。ただし、「企業が個人に対して直接的にリーチを行なう/行なえる」という点については、ウィジェットというメディアの共通の特性であり、企業サイドとしては、それぞれの基本的な特性を把握し、どのようにマーケティングに活用していくかが課題となります。

現状のウィジェットマーケティングのトレンドとしては、明らかに「ウェブ貼付け型」が主流です。

中でも、日本では個人ブログとの連携、欧米ではソーシャルネットワーク上の個人の日記やプロフィールに対応したウィジェットに、それぞれ多くのマーケティング利用事例が見られます。

これらは、「ターゲットに即して、できるだけ多くのユーザーにリーチし、さらに、ユーザー間で自律的に情報が広がっていく」というメディア特性が、企業ニーズにマッチしているからだと思います。

米国のウィジェットマーケティング事情

Hat Trick Media CEO Niall Kennedy氏

日本の企業でマーケティングを担当されている方であれば、国内のウィジェット市場の現状についてはなんとなく肌で感じている方もいらっしゃるかと思います。一方で、米国のウィジェット市場については、多くの方々はあまり馴染みがなく、時折メディアで情報を目にする程度で、実情を知る機会は少ないのではないでしょうか? 米国では2007年より、ウィジェット関係者(企業中心)によるカンファレンス「Widget Summit」なるイベントが定期開催され、互いに情報共有を行なっています。こういった点においては、日本より先行していると言えるでしょう。

そこで、米国ウィジェット市場の現状について少し触れておきたいと思い、有識者にアプローチしてみました。今回、コンタクトしたのは「Widget Summit」の主催者で、Hat Trick Media(ウィジェットを含むウェブコンサルティングを手掛ける)のCEOであるNiall Kennedy氏(HP)に、米国ウィジェット市場の現状について、以下のようなコメントをいただきました。

2008年は、米国のウィジェット市場に大きな変革が訪れた年であった。それは、「iPhone」と「OpenSocial」の登場により起こったものである。両者ともに、開発者(Third Party)への仕様の公開とサポートを提供したことで、多くのコンテンツプロバイダーが続々と市場に参入し、一気に市場が拡大した。結果として、ウィジェットが次世代のコンテンツ・ディストリビューション・チャネルと強く認識された一年となった。(Niall Kennedy氏)

といったように、新しいサービスやデバイスの登場により、直近の情勢が一気に変化する(=予測できない変化が突如として起こる)というのがウェブの特徴と言えます。現時点でのトレンドとは別に、2009年以降、日本のウィジェットマーケティング市場においても、いつこのような大きな変化が起きてもおかしくない状況にあります。そこで、次回以降、ウィジェットタイプごとに、もう少し詳しくサービス概要や事例紹介などを踏まえて現状を把握しながら、2009年の新しいトレンド(変化の兆候)についても説明を行ないたいと思います。

次回のテーマは「先行するブログ/SNSにおけるウィジェットマーケティングの現在と未来」です。

著者プロフィール : 竹下直孝

2001年 ソニー株式会社に入社。インターネットサービスを手掛ける部門に属し、利用したコミュニティサービスに関する事業企画を担当する。2005年に有志で「新しいネットメディアの開発」をコンセプトに、ウィジェットサービス「FLO:Q(フローク)」プロジェクトを発足。06年10月にブログパーツサービスを、07年11月にはPCデスクトップ・ウィジェットサービスをリリース。2009年1月現在、ブログパーツはサービス全体で月間1.8億インプレッションを保有、独自の広告モデルを展開中。デスクトップウィジェットについても、昨年末に10万ダウンロードを突破し、本格的にビジネスメニューの提供を開始。さらに、1月から国内で発売されるパーソナルコンピューター「VAIO」の新機種に管理ソフト「FLO:Q Widget Manager」のプリインストールを開始した(※一部、機種を除く)。