IoT向けのモバイル通信サービスを開拓し、国内だけでなく海外へも事業を拡大している、KDDI傘下のソラコム。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。

同社も5Gのネットワークを活用したサービスの提供を開始していますが、IoTに向けた5Gの活用が大幅に進んでいるとは言えないのが実状です。IoTでの5G活用に向けて何が必要とされているのか「SORACOM Discovery 2023」における同社の発表内容から確認してみましょう。

「NB-IoT NTN」を活用した衛星IoT通信を発表

MVNO(仮想移動体通信事業者)としてIoT向けのモバイルサービスやソリューションを提供しているソラコム。2017年にKDDIに買収され同社の傘下となって以降も順調に事業を拡大して「SORCOM IoT SIM」の契約数は500万を突破し、国内外で多くのパートナーを獲得するなど順調に事業を拡大しています。

同社は2023年7月6日に、年次イベント「SORACOM Discovery 2023」をオフラインで開催。それに合わせる形で多くの新しいサービスを発表しています。

その中には、ここ最近急速に注目を集める「生成AI」を自社サービスに取り込んだり、生成AIをIoTに活用するための研究を進めたりするなどの取り組みも見られましたが、やはり注目されるのは通信に関する取り組みでしょう。

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    ソラコムは「SORACOM Discovery 2023」の開催に先駆けて記者向けの説明会を実施。通信から生成AIに至るまで、さまざまな新発表がなされている

なかでも、5Gに関連したものとなるのがNTN(非地上系ネットワーク)に関する取り組みです。同社は、2022年にスイスの衛星通信事業者であるAstrocastらの衛星メッセージングサービスを活用し、衛星通信を利用したメッセージングが利用できる機能を技術検証用のTechnology Previewとして提供するなど、ここ最近衛星通信のIoT活用を積極的に進めていました。

しかし、導入のしやすさや柔軟性の高さは標準化がなされているセルラー技術に優位性があるのも確か。そこで今回のSORACOM Discovery 2023では新たに米国の衛星通信事業者であるSkylo社と協業し、3GPPのリリース17に準拠した「NB-IoT NTN」を活用したIoT向け衛星通信に取り組むことを発表しています。

NB-IoT NTNは、LTEベースのIoT向け通信規格の1つ「NB-IoT」をNTN向けに拡張し、地上ではカバーできない場所に向けたIoT通信サービスを実現するもの。3GPPの標準化仕様のうち、Release 15以降が「5G」となることから、Release 17で定義されたNB-IoT NTNは、ある意味で5Gの多数同時接続を実現する要素の1つともいえる訳です。

そしてソラコムでは、NB-IoT NTNに対応したSkyloの衛星通信ネットワークを活用することで、汎用の機器を用いながらもソラコムのプラットフォームを活用したIoT通信が利用できるとしています。こちらもまずはTechnology Previewでの提供となるようですが、IoTに向けた衛星通信の本格展開につながることに期待したいところです。

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    ソラコムは3GPP Release 17で定義された「NB-IoT NTN」に対応した衛星通信事業者のSkyloと協業し、セルラーベースの衛星IoT通信に取り組むことを明らかにした

環境整備に時間を要するIoTでの5G通信

そのほかにもソラコムでは、今回のSORACOM Discovery 2023に合わせていくつかの発表をしています。

通信に関連するところでいえば、通信モジュールとSIMを1つのチップに集約する、SIMの次世代技術「iSIM」への正式対応やモジュールの提供、そしてローミングの仕組み上、従来のサービスでは長期的利用に制約があるブラジル市場に向けた新たなプラン「planP2」などが挙げられるでしょう。

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    通信モジュールにSIMを搭載して1チップ化した「iSIM」への正式対応も発表。写真はソラコムが取り扱う村田製作所製のiSIM

その半面、気になるのは衛星通信以外で5Gに関する新たな発表が見られなかったこと。ソラコムでは2021年より、KDDIのノンスタンドアローン(NSA)運用の5G回線に対応した「planX2」の提供を開始していますが、一連の発表内容を見るに5Gを活用した具体的なユースケースや、5Gに関連するサービスの進展などを見ることはできませんでした。

現在のIoTのニーズはセンサなど小容量通信が圧倒的に多いですし、現在の5Gも仕様的に高速大容量通信に重きが置かれており、IoT向けの多数同時接続に関する進化がまだ途上です。

それゆえIoT向けとしてはLTE-MやNB-IoTのような4G向け通信の方がニーズが大きいだけに、ある意味やむを得ない部分はあるでしょう。

ただ、産業用途が多いIoTは5Gで広がりが期待される領域とされているだけに、やはり年数が経って現在もなお5Gの具体的な活用を目にすることができないことは非常に気になります。

IoTで5Gの活用が進まない理由についてソラコムの代表取締役社長である玉川憲氏に聞いたところ「5Gに対応する通信モジュールや、デバイスなどもまだまだ数が少ない」と話しており、環境が整うのに時間がかかっていることが普及を妨げる要因になっているとの認識を示していました。

一方で玉川氏は、IoTでも5Gが「ポテンシャルはあると思っている」とも話していました。最近ではネットワークカメラのように、IoTでも映像などの大容量通信を必要とするニーズが高まっており、そうした大容量通信を欲する機器の利用が増えれば状況が変わる可能性がありそうです。

実際、ソラコムでもネットワークカメラのソリューションとして手軽に導入できる「ソラカメ」を2022年より提供しているほか、新たにRTSP/RTPに対応したネットワークカメラをソラコム経由でクラウドに安全に転送できる「SORACOM Relay」を新たに提供するなど、より大容量通信を必要とするニーズに応えるサービスの充実を図っています。

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    ソラコムでは低価格のネットワークカメラを活用したソリューション「ソラカメ」など、ネットワークカメラに関するソリューションの強化も進めている

そうしたサービスが広まり、5Gが得意とする高速大容量通信のニーズが高まっていけば、IoTでも5Gに対する関心が高まって普及が進むかもしれません。