ライバルのNTTが主導する「IOWN Global Forum」への参画で大きな注目を集めたKDDI。同社は光ケーブルに関する技術も多く持ち合わせており、6Gに向けその高度化に向けた取り組みも積極的に進めています。KDDI傘下のKDDI総合研究所が取り組んでいる、光ファイバーの高度化に関する取り組みを追ってみましょう。

光ファイバーの大容量化に必要な3つの技術

「IOWN Global Forum」への参画を打ち出したことが大きな驚きをもたらしたKDDIですが、同社の前身の1つであるKDDは国際通信を一手に担っていた国営の「国際電信電話」が前身。

その事業を引き継いでいるKDDIは衛星通信だけでなく、現在の国際通信の主流となっている海底ケーブルに関する事業も展開していることから、実は光ファイバーに関する技術も多く保有しているのです。

KDDIは現在、その光ファイバーに関する技術を海底ケーブルだけでなく、主力の携帯電話事業で必要不可欠な基地局やコアネットワークを結ぶアクセス網にも活用しています。それゆえ光ファイバーは固定通信に関する技術でありながら、実は5Gや6Gにも大きく影響する技術でもあるのです。

その光ファイバーも無線より大容量通信が可能とはいえ、6Gに向けてはより通信容量が増えることから、一層の大容量化が求められているのも確か。それゆえKDDI傘下のKDDI総合研究所では、光ファイバーの大容量化に関する技術開発に積極的に取り組んでいるとのことです。

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    KDDI総合研究所は2023年5月24日から実施されていた「ワイヤレスジャパン 2023×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2023」に出展。6Gに向けた無線通信技術だけでなく、光ファイバーに関する技術の展示もなされていた

同社によると、その光ファイバーの大容量化を実現するえうでは、大きく3つの技術の導入が進められているとのことです。

1つ目はケーブル内の光ファイバーの数を増やしてデータが通る道を増やす「多心化」、2つ目は1本の光ファイバーに乗せる光信号の波長を複数に増やす「WDM技術」、そして3つ目は、その波長辺りの信号速度をアップして送受信の高速化を図る「デジタルコヒーレント技術」です。

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    光ファイバーの大容量化に向けては「多心化」「WDM技術」「デジタルコヒーレント技術」の3つが挙げられるという

同社では多心化に関して、従来の光ファイバーの径を維持したまま、伝送路の数を増やす「マルチコア光ファイバー」の研究を進めているとのこと。

狭い中で伝送路を増やすと容量は増えるものの、他の伝送路に光が漏れやすくそれが雑音となってしまうことから、光ファイバーの素材や構造を変えたり、雑音が大きくなりやすい長距離の伝送時にも雑音を除去しやすくするアルゴリズムや回路を開発したりするなどして、問題の解決を図っているとのことです。

「O帯」の活用で大容量通信と低消費電力を両立

そしてWDM技術に関する取り組みとして、新たに2023年5月18日に発表されたのが「O帯コヒーレント高密度波長多重伝送」というものです。

WDM技術は先にも触れた通り、光信号の波長を増やすことで大容量化を実現する技術なのですが、周波数帯には特性があるため、それらの特性を考慮して追加する必要があるようです。

現在、光ファイバーで主に使用されているのは「C帯」(191.5~196THz)と「L帯」(184.5~191.5THz)ですが、通信量の増加によってこれら帯域だけでは不足感も出てきているとのこと。そこでKDDI総合研究所では新たな周波数帯として、「O帯」(220~238THz)に着目しているそうです。

なぜO帯なのかといいますと、帯域幅が広く大容量通信に適しているのに加え、C・L帯と比べた場合、長距離伝送時に減衰する光を増幅する光増幅器が1台で済むこと、そして周波数の違いによる速度の違いから生じる「波長分散」による雑音の影響が小さく、信号の補正処理が必要ないことなどが理由として挙げられています。

大容量化に適しているだけでなく、間に挟む機器が少ない分消費電力が抑えられることもO帯のメリットとなるようです。

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    「O帯」は従来用いていた「C帯」「L帯」と比べ、周波数の幅が広いのに加え増幅器の数が少なくて済むなど、多くのメリットがあるという

ただO帯は、デジタルコヒーレント技術を用いる際に歪みの影響を強く受け、雑音が生じやすいとのこと。

そこでKDDI総合研究所では、できる限り雑音が生じないよう信号の波長ごとの出力を最適化する「O帯コヒーレントDWDM伝送技術」や、O帯の増幅に対応した「ビスマス添加光ファイバー増幅器」を開発。

これによりO帯による130km超でのコヒーレント高密度波長多重伝送を、世界で初めて実現できるようになったそうです。

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    KDDI総合研究所ではO帯の出力を最適化する技術や、専用の増幅器を開発することでO帯が抱える課題を解決し、C・L帯以上の大容量通信を実現したとのこと

IOWNが6Gに大きく影響する技術として注目されているように、5Gより高い性能が求められる6Gに向けては無線部分だけでなく、固定部分の高度化も必要不可欠です。

モバイル通信ではどうしても無線通信関連の技術に注目が集まりがちですが、6Gを見据える上では光を軸とした固定通信技術の重要性が一層高まるでしょうし、その関心も今後大きく高まることになるのではないでしょうか。