総務省でいわゆる「周波数オークション」の導入に向けた議論が進められていましたが、その結果、今後5Gでの割り当ての主流となるミリ波などの割り当てに際してのみ、周波数オークションを選択できるようにするという方針が打ち出されています。なぜ、周波数オークションの導入が限られた周波数帯のみとなったのでしょうか。

周波数オークションは一部の帯域に限定

電波の周波数免許をオークションで落札する、いわゆる「周波数オークション」。

すでに、諸外国では導入されているものの、日本では導入がなされてこなかったことから、総務省が2021年に「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」という有識者会議を開催し、導入に向けた議論が進められていました。

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周波数オークションはある意味、高いお金を出せば周波数免許が手に入る非常に分かりやすい仕組みなのですが、一方で携帯電話会社からしてみれば免許取得にお金がかかり予算不足でネットワーク整備が進められなくなる、資本力のある携帯電話会社が免許を買い占めてしまうなど、デメリットも少なからずあります。

それゆえ、議論の中では携帯電話会社によって導入の賛否が大きく分かれ、どのような方向性で取りまとめがなされるのかが注目されていました。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第84回

    周波数免許を割り当てる際の仕組みとして、現在の比較審査方式に加え、諸外国で一般的なオークション方式の導入の検討が進められてきた(出展:総務省「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」取りまとめ概要)

総務省は2022年11月25日に同検討会の取りまとめを公表しているのですが、その内容を見ますと従来の割り当て方式に加え、割り当ての際にエリアカバーの義務を課すなど一定の条件を付与した「条件付きオークション」も選択できるよう検討を進めるとしています。

従来の比較審査をすべて周波数オークションに置き換えるのではなく、割り当てる周波数に応じて周波数オークションも選べるよう検討していく方針のようです。

では一体、どのような周波数帯を割り当てる際に周波数オークションを用いようとしているのか?といいますと、ミリ波などの「高い周波数帯」や、ダイナミック周波数共用などを用いた「他の無線システムとの周波数共用が必要となる周波数帯」などが、条件付きオークションを選択できる対象となるようです。

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    ミリ波や他のシステムと共用となる帯域の割り当ての際、比較審査方式に加え周波数オークションが選べるよう検討を進めることとなったようだ(出展:総務省「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」取りまとめ概要)

プラチナバンドのように携帯電話会社にとってニーズが非常に高い、低い周波数帯の免許割り当てに周波数オークションを導入してしまうと、落札価格が非常に高騰してしまう可能性が高いことから、携帯各社の負担を増やさないためにもオークションを高い周波数帯に限定するという考え方は分からないでもありません。

しかし、報告書を確認しますと、総務省はその理由として、5Gや6Gにも大きく影響してくる別の理由を挙げています。

条件緩和でミリ波などの利用を促進したい狙いも

それは対象となる周波数帯が“使いにくい”ことです。

ミリ波などの周波数が高い帯域は、障害物に弱く広範囲をカバーするのに適していませんし、ダイナミック周波数共用などを用いた帯域は利用できる時間や場所に大きな制約が生まれてしまうことから、携帯電話会社にとって非常に使いにくいものであることは確かです。

実際、楽天モバイルがプラチナバンドの再割り当てを求めて議論が非常に過熱した一方、ダイナミック周波数共用が必須とされた2.3GHz帯の免許割り当てには楽天モバイルだけでなくNTTドコモやソフトバンクも名乗りを上げず、その不人気ぶりが露わとなっていました。

また、ミリ波に関しても、ローカル5Gの動向を見ていると大半の企業がサブ6の4.5GHz帯の活用に力を注ぐ一方、ミリ波は遠くに飛びにくい上に4Gとの一体運用が求められ、コストがかかることもあって関心がほぼ失われている状況です。

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    今後割り当ての主体となるミリ波など高い周波数帯は、広い範囲をカバーするのに適していないことから、現状人気のない周波数帯となっている

ですがそうした周波数帯は、帯域幅が広くより一層の高速通信が可能であるなどのメリットも備えています。

とりわけ日本は高い周波数帯を活用した無線通信に関する研究が進んでいることから、総務省はそうした周波数帯を有効活用した事業やサービスの創出を進め、日本の強みを生かしたいと考えているようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第84回

    2022年5月25日より実施されていた「ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2022」のNICT(情報通信研究機構)の展示より。日本は6Gでの活用が期待されるテラヘルツ波など、高い周波数帯を活用した無線通信技術の研究に強みを持つという

それゆえ、周波数オークションを導入するのには、ミリ波のように扱いにくいが高いポテンシャルを持つ周波数帯の活用を促進する狙いが大きいようです。

実際、周波数オークションの導入にあたっては、全国をくまなくエリアカバーすることなど、従来の比較審査で必須項目となっていた条件を緩和することが視野に入れられており、落札した周波数帯で新たなサービス創出ができるよう、柔軟な運用ができることを重視していくようです。

もっとも周波数オークションに関する議論はこれで終わった訳ではなく、今後はオークションの具体的な制度設計について議論がなされていく予定です。

その中ではオークションの内容だけでなく、落札額が過度に高騰しないこと、特定の事業者に免許が集中しないことなどの対策についても議論がなされていくものと考えられ、そこで各社がどのような反応を見せるかは気になるところです。

なお、総務省としては2025年度末までに5G用として割り当てることを想定している4.9GHz帯、26GHz帯、40GHz帯などの割り当てに際して周波数オークションを導入することを目指している様子です。

それゆえ、具体的な制度の導入にはまだ時間がかかるものと見られますが、周波数オークションの導入は携帯電話市場にも小さからぬ影響を与える可能性が高いだけに、議論の行く末が今後大きな関心を呼ぶことは間違いないでしょう。