総務省は2021年7月27日に「製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン」を公表しています。その内容から、製造業を主体とした企業がローカル5Gを導入する際に考慮すべき要素を確認してみましょう。→過去の回はこちらを参照。

工場へのローカル5G導入に参考となる資料

スタンドアロン(SA)運用が可能な4.7GHz帯の割り当てがなされたのを機として多くの企業が参入を表明するなど、盛り上がりを見せつつあるローカル5G。ですがローカル5Gに限らず、企業での5G活用は現在もPoC(概念実証)や実証実験レベルにとどまるものがほとんどで、具体的なユースケースがほとんどないことから企業が導入を判断しづらいのも確かでしょう。

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そうしたこともあってか総務省は、多様な場面でローカル5Gの利用を想定した技術やユースケースの実証により、ローカル5Gなどを活用した地域課題課題解決モデルを構築する「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」(当時は「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」)を2020年に実施。

19の実証から得られた結果を踏まえ、製造現場の無線通信担当者がローカル5Gを導入する際の参考資料となる「製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン」を、2021年7月27日に公表しています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第51回

    総務省が公開している「製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン」。工場へのローカル5G導入に向けた関する情報が記されている

その内容は4つの章に分かれており、無線通信やローカル5Gの基本から、工場内の電波伝搬特性や具体的なユースケースなど、具体的な活用にも踏み込んだ内容となっています。

主として製造業に向けた内容ではありますが、ローカル5Gの導入を検討している企業にとっても役立つ資料でもあることから、その内容を大まかに確認してみましょう。

1章の「工場における無線通信」では、ローカル5Gをはじめとした代表的な無線通信方式や、電波の特性に関する基礎的な情報に加え、工場で無線通信を利用する際に注意すべきことなどが記されています。

具体的には工場では複数の無線システムを用いることが多く、同じ周波数帯を活用したシステムの数が増えると電波干渉が発生しやすくなること、5Gで注目されるネットワークの遅延に関しても、工場内の機器によって許容できる遅延の範囲が違ってくることなどです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第51回

    工場では複数の無線システムを用いることから、システムが増えると干渉が発生しやすくなるとのこと。特に免許不要で利用できる2.4GHz帯は使用するシステムが多く、混雑しやすいという

2章の「ローカル5Gの概要」ではローカル5Gに用いられる周波数帯や利用できる場所、周波数帯の利用料など制度面に関する説明がなされているほか、構築するネットワークの仕組みについても、SA・NSA(ノンスタンドアロン)といった運用方式の違いに応じて図解でわかりやすく説明がなされています。

なお、ローカル5Gを活用する上で注意が必要な点として、基地局を「自己土地」と「他者土地」のどちらに設置するかによって利用の仕方が異なってくること、そして周波数によって使える場所が変わってくることなどが挙げられています。例えばSA運用が可能な「4.7GHz帯」と呼ばれる4.6~4.9GHzの周波数帯の中でも、4.6~4.8GHzは屋外での利用ができないことから十分な注意が求められるわけです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第51回

    同じ「4.7GHz帯」「28GHz帯」として括られている周波数帯の中でも、周波数によって使える場所が異なることには注意が必要だ

実証から得られた具体的な課題解決手法も

3章の「工場におけるローカル5G」ではより踏み込んで、工場でのローカル5G活用に向けた具体的な内容について記されています。その1つが、総務省が実施した工場内での電波伝搬シミュレーションの結果で、そこから得られた知見から周波数帯に応じた活用事例も示されています。

具体的には、4.6GHz帯(いわゆる4.7GHz帯)は“回折(かいせつ)”で電波が障害物の裏に回り込みやすいことから、障害物のある工場でも活用がしやすいとのこと。一方で周波数が高い28.3GHz帯(いわゆる28GHz帯)は回り込みにくいので、基地局を高い所に設置したり、ラインごとに基地局を設置するなどの対応が必要とされています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第51回

    総務省が実施した電波伝搬シミュレーションの内容と、そこから得られた知見なども記されている

それに加えて3章では、先に触れたローカル5Gを活用した実証の具体的な事例が4つ紹介されています。具体的には沖電気工業(OKI)が実施した「地域の中小工場等への横展開の仕組みの構築」や、トヨタ自動車が実施した「MR技術を活用した遠隔作業支援の実現」などで、それぞれの実証で得られた事業面での成果だけでなく、システムを構築・運用する際に直面した課題や、その解決のために取り組んだことなどについても説明がなされています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第51回

    「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」で実施された実証のうちいくつかの事例と、その成果から得られた課題や解決方法などについても説明がなされている

その内容を見ますと、無線特性を高めるため電波を受信するアンテナの本数を増やす、目的の場所に電波を届けるため指向性のあるアンテナを設置するなど、無線部分での工夫に加え、光ケーブルを増設するなど無線部分以外で対処が必要になるケースもあるようです。ローカル5Gに関するノウハウの蓄積がまだ進んでいない現状では、こうした実証で得られた情報が重要な意味を持つといえるでしょう。

そして4章は「ローカル5Gの導入方法」で、具体的なローカル5Gの導入プロセスについて説明がなされています。ローカル5G導入のためのベンダー選定から、電波の免許申請やBWA事業者との干渉調整、機器の設置から保守・運用に至るまでの簡単な流れが説明されていますが、中でも重点が置かれているのは導入前の準備・検討に関する部分です。

無線通信に詳しくない事業者がローカル5Gを導入する際、実際の導入や運用はベンダーなどに任せることが多く自ら直接手掛けるケースは少ないかと思われます。一方でローカル5Gの活用方法は企業毎に違いますし、目的を明確にしておかなければ持て余してしまう可能性もあるのです。

そうしたことからガイドラインでは「『現状の課題』と『実現したい将来像』のギャップを認識したうえで、ユースケースとして最適なローカル5Gの活用方法を検討しましょう」と記されています。現状のローカル5Gで実現できることには限界もあるだけに、何のためにローカル5Gを活用し、どのような成果を得るかを明確にしておくことが、導入の際には重要になるようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第51回

    ローカル5Gの導入に当たってはその目的を明確にし、現状のローカル5Gで実現できることを考慮した上での活用を検討すべきとしている

先にも触れた通り、ローカル5Gは大きな期待を集めている一方で、その活用事例がまだ少なく企業が導入を検討するための情報もあまり出揃っていないというのが正直な所です。それだけにローカル5Gの活用を検討している企業は、このガイドラインに一度目を通しておくとよいのではないでしょうか。