ノキアは2024年7月11日、同社が取り組む5Gや6Gなど最新のテクノロジーやソリューションを紹介する「Nokia Amplify Japan」を開催しました。
5Gのネットワーク整備は着実に進んでいる一方で、新たなユースケースの開拓が進まず収益化の面で非常に大きな課題を抱えている5Gですが、ノキアはその解決策としてどのような考えを持っているのでしょうか。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。
技術面では十分役割を果たしている5G
通信機器大手であるフィンランドのノキアは2024年7月11日、日本に向け同社の最新技術などを紹介するイベント「Nokia Amplify Japan」を実施。5Gの現状と6Gに向けた同社の取り組みに関する説明がなされたほか、同社の最新プロダクトやソリューションに関する展示やデモなども実施されていました。
-
ノキアは同社の最新技術やソリューションなどを紹介する「Nokia Amplify Japan」を2024年7月11日に開催。会場では「MWC Barcelona 2024」で発表されたプロダクトの展示などもなされていた
通信トラフィックが今後も伸び続けるという5Gの現状、そして通信に利用するデバイスがスマートフォン以外にも広がることなどを考えると、今後5Gでは性能的に不足する部分が多く、6Gの導入が必要不可欠になってくるとのこと。そこでノキアは現在、6Gの研究に力を入れているそうです。
その6Gの実現に向けては、AI技術のさらなる活用や、多数のアンテナ素子を用いて大容量通信を実現する「Massive MIMO」の高度化など、さまざまな技術の活用による高度化の実現が検討されているようです。
一方で、5Gでは4Gをベースとしたノンスタンドアローン(NSA)運用と、5Gの設備のみで運用するスタンドアローン(SA)運用が混在し、NSAからSAへの移行が進まないなどの課題が生じていることから、6GではSA運用に一本化し移行を一気に進める方向での検討がなされているとのことでした。
そして、6Gの実現に向けた議論や研究はITUや3GPPなどの標準化団体で進められているのですが、携帯電話業界の現状を見ると見ると6Gに向けた前向きな取り組みが進んでいるというより、その前段階にある5Gが大きな課題を抱え、事業が停滞しているというのが正直なところです。
ただ、ノキアの説明によりますと、5Gは技術面で着実にその役割を果たしているといいます。それは5Gで最も早く実現するとしていた高速大容量通信に関して、標準化当初掲げていたLTEの20倍となるキャパシティを、周波数帯の利用拡大やMassive MIMOの導入などによって実現していることです。
中でもノキアの機器で整備されたNSA運用の5Gネットワークは、欧米で高いパフォーマンスを発揮しているといいます。
その一方で、大きな課題となっているのが5Gの新たな価値を創造し、収益化につなげることです。5Gの新たなユースケースを開拓できていない現状、多くの携帯電話事業者は5Gをスマートフォンのトラフィックを吸収するためだけに活用しているため、スマートフォンの利用料金以上の収入を得るのが難しい状況にあります。
RANやネットワークを外部に開放する新たな収益手段
ではノキアは、5Gの収益化に向け何が必要としているのかといいますと、1つ目はやはりSA運用への移行、ひいてはネットワークスライシングによる新たなサービスの創出となるようです。
今回のイベントでも、インドのリライアンス・ジオや独Tモバイルの米国法人(TモバイルUS)など、SA運用とネットワークスライシングで先行している企業の取り組みが紹介されており、ネットワークに積極的な再投資をしてSA運用に移行することこそが、5Gを収益化に結び付ける鍵の1つだとしています。
2つ目はAI技術の活用であり、より具体的な取り組みになるのが「AI-RANアライアンス」です。これは2024年2月に、ノキアのほかソフトバンクやエヌビディアなどが参加して設立されたもので、基地局などのRAN(Radio Access Network、無線アクセスネットワーク)にAI技術を導入することで、新たな通信プラットフォームの創出を目指す取り組みになります。
そのAI-RANアライアンスでは、AI技術の活用によるRANの運用効率化だけでなく、RANのリソースを通信以外の用途に活用することも目指しています。
深夜などRANが使われていない時間帯の余剰リソースを、例えばAIの学習など別の用途に活用することで、ネットワーク以外の収益手段を得ることが検討されているのです。
そしてもう1つが、通信事業者向けのAPI(Application Programming Interface)となります。これは携帯各社のデータやネットワークを、APIを通じて外部のアプリケーションやサービスなどでも活用できるようにする仕組み。
他のさまざまなシステムと同様にAPIを提供することで、利用に応じた課金による収益化が期待できることから、通信業界では注目を集めている取り組みとなります。
しかし、通信事業者におけるAPIの活用はなかなか進んでいません。ノキアの説明によると、通信事業者側からすると単独では提供できるサービスが限られ、APIの収益化に向けた取り組みができていなかったこと、開発者から見た場合通信会社によってAPIが異なることから汎用的なアプリケーション開発が難しい、開発ツールの使い勝手が悪い、日本ではそもそもAPIプログラミングに対するIT能力やリテラシーが低い……など多くの課題があったとのことです。
そこでノキアでは、ネットワークAPIを抽象化してアプリケーション開発者に開放する「Network as Code」というソリューションを提案しているとのこと。
ノキアがSaaS(Software as a Service)でそのプラットフォームと開発者向けポータルなどを提供し、アプリケーション開発者に提供することで、APIを利用しやすくし通信事業者の収益化につなげていく取り組みを進めているそうです。
ノキアの一連の取り組みからは、5Gの収益化に向けてはユースケースの開拓だけでなく、インフラそのもの企業などに活用してもらうことでの収益化も進められつつある様子がうかがえます。
そうした取り組みが実を結んで、携帯各社が収益をスマートフォンに依存している現状を大きく変えられるかどうかが、業界全体の成長を考える上でも大きな意味を持つと言えそうです。