弊社刊行の雑誌「Web Designing」で連載中の「エキソニモのView-Source」は、HTMLのソースとそのレンダリング後の画面をセットで展開するという珍しいアート作品だ。レンダリング後の画面だけを見るとグラフィックデザインのようだが、HTMLソースのほうを見るとインタビュー記事が埋め込まれており、レンダリング後の画面でゲスト自体を、HTMLソースのほうでゲストとエキソニモの関係やバックグラウンドなどを知る事ができるという仕掛けになっている。

今回のWebDesigning誌面をご覧になった方は、「いったいこの作品は何だろう?」と思ったに違いない。これまでの連載では、誌面上で作品はひとまず完結していた。誌面の表に作品があり、裏面に作品のソースがあるというスタイルで、作品を楽しむことが出来たのだが、今回の作品は、少し違う側面があるようだ。

表面は、まるで25x25パズルのようで、おそらく元々は写真であったものが乱雑にブロックに切り分けられて配置されている。写っているのは人で、おそらくアルファベットが記述されているであろうことも推測できる。そんなぐちゃぐちゃなモザイク状の写真の中で、作品のURLだけがきちんと表示されている。まずはこのURLを見ろといわんばかりである。

http://exonemo.com/view-source/LaOtaku.html

実際、今回の作品もブラウザで改めて見てみることを勧めする(可能ならSafariで閲覧してほしい)。ページにアクセスすると、WebDesigningの誌面と同様の作品が表示されるものの、すぐに誌面とは違うという事がわかるはずだ。マウスカーソルを合わせると、モザイク状のブロックが回転し、正しい写真になる。そうやってひとつひとつのブロックを正しい写真として治していくと、1枚の写真が浮かび上がる。ただしこのサイトのURLはぐちゃぐちゃになってしまう。

今回の作品におけるHTML/CSS的な部分での見所は、「-webkit-transform」、「-webkit-animation」、「-webkit-keyframes」といったCSS3で搭載された機能を使ったCSSアニメーションだろう。先頭に-webkitとついているのは、SafariやChromeなどのブラウザで搭載されているページの表示用エンジン「WebKit」で使える機能であるという事を指す。ここで定義されている機能を使うことで、CSSを使ってもなめらかなアニメーションを作ることが出来るというわけだ。

しかし、個人的には見所はそこだけではないと感じている。「-webkit~」によるアニメーションは、今回の作品に深く関連する「エキソニモがパリに行ってどう感じたか」という事柄を遠ざけるためのカモフラージュに過ぎないのではないのかと思うのだ。

まず、タイトルにある「パリのとあるイベント」でというのが不可解である。「パリのとあるイベント」というのは元々の渡航の目的であろう「制作+ワークショップ+展示など」をしにいったイベントと、日本マンガのイベント「Paris Manga」どちらだろうか?

「パリのとあるイベント」という題名の本作品を見て「ふむふむ、こんなコスプレイヤーがパリにもいるのね」で終わってしまったようでは、まだ本作品の楽しみ方の一部しか体験していないと言えよう。

そもそも、彼らがパリに行ってきた理由のひとつ「制作+ワークショップ+展示など」の内容がさらりと流されているが、それはどんな内容のものであったのだろうか? そのためには、エキソニモについてもっと深くストーキングをすることから始めなければならない。以前より、何らかのアーティストのファンになるということは、少なからず精神的ストーカーになるということだという思いを抱いて来た。

そこで、今回は手っ取り早くストーキングを行なうために、Twitterを使ってみる。Twitterは、つぶやきツールであると同時に、公開ストーキングツールでもある。エキソニモの中の人のTwitterのアカウントである@1000b氏(http://twitter.com/#!/1000b)をフォローして過去をさかのぼっていくと、このイベントに行った際に、彼がリアルタイムでどう感じ、何をしたかが見えてくる。

まず、本作品が作られたのは、2010年9月下旬の頃なので、9月中に起きたイベントであろうという推測がつく。9月あたりの@1000b氏のツイートには下記のようなつぶやきがある。

どうやら、「La Gaite Lyrique」というメディアセンターのプレオープン企画のためにパリに行ったようである。それからしばらくして、以下のようなツイートがあった。

今回のParis Mangaのイベントのことがつぶやかれている。元々フランス人のコスプレを見たかったようである。

また、今回の記事では触れられていないが、パリ工芸博物館にも行ったようだ。しかし、それに関する記述があまりない。フランス人のコスプレに比べたらたいしたことなかったようである。おちゃめな写真つき。

また、パリのスマートフォン事情に関するツイートもある。

フランスに関する雑感もある。

ヨーロッパを見渡してみて感じたことのメモもいくつか存在する。これらを見た後、再度作品を見てみよう。またちょっと違う奥行きが感じられるはずだ。

アートには、それがいったいどういう文脈で作られたのかといったことを知った上で見るという見方があるが、音楽では、ライナーノーツによってアーティストの背景を知ることが出来る。今の時代は、その作品が作られた当時のTwitterをさかのぼることで、より直接的かつリアルな私的なライナーノーツを作成することが出来るのだ。こういう楽しみかたも今の時代ならではと言えるだろう。

※この記事は、『Web Designing』2010年11月号に掲載された「エキソニモのView-Source」の解説記事です。『Web Designing』本誌とあわせてお楽しみください。