仮想デスクトップ・アプリケーションでは、画面転送のみが行われるので、実際のアプリケーションの通信よりも必要とされるネットワーク帯域幅は少なくなる傾向にある。例えば、メールソフトを考えてみると、メールの本文や添付ファイルを端末にダウンロードするような場合に比べると画面のみが転送されるので、必要となる帯域幅は少なくなる。

しかし、その仕組み上、帯域幅が不足した場合は、デスクトップやアプリケーションのユーザービリティに大きな影響を及ぼしてしまう。しかし、ネットワーク帯域幅の増強はランニングコストに響くため、必要となるネットワーク帯域幅の検討は重要な項目となる。

ベンダーの過去の案件の情報などを基に、必要となる帯域幅を少なく見積もってしまうことがあるのだが、そこに落とし穴が存在する。帯域幅を少なく見積もってしまいがちな理由には3つあり、今回はそれぞれについて解説する。

ワークロードの変化を意識していない

動画サイトのYouTubeが開設されたのは2005年だが、長らく職場ではPC上で動画を見ることは一般的ではなかった。そのため、2010年近辺までの案件では対象となるワークロードに動画が含まれることが少なかったため、その使用帯域が意識されていない。

しかし現在では、Webで動画を見たり、動画ベースのE-Learningを受講したり、Web会議に参加したりと、大きく帯域を使用する通信が発生することも多い。

業務によっては、デジカメで撮った画像のアップロードのような、上りの通信の帯域が必要なものもある。デジカメ自体のスペックの向上に伴い、転送が必要なサイズも増大しているため、ストレスなく画像を読み込むにはそれなりの帯域幅が必要となる。

マルチディスプレイや高解像度の環境が普及していることも検討する必要がある。近年ではフルHDのディスプレイは標準と言ってもよく、過去案件での実績の解像度との差異を意識する必要がある。

また、Citrix XenApp(やMetaFrame、Presentation Server)などで過去に使用していた単一用途のシンプルな仮想アプリケーションの配信での使用帯域幅を仮想デスクトップでの使用帯域幅に当てはめてしまい、結果として、かなり過小な帯域を見積もってしまうことも散見される。

デスクトップ用途では複数のアプリケーションを同時に使用することが通常であるので、単一のアプリケーション配信に比べるとより帯域を使用することになる。

平均で見積もってしまう

通常のオフィスでの業務を考えてみると、WordやExcel を使っている間は常に大きく画面の変更が発生するわけではない。WordやExcelを使いながら考えることもよくあるため、ほとんど通信が発生しない時間が多く存在する。

その一方で、先に挙げたような動画の閲覧などのワークロードで大きな帯域が急激に使われることもある。以下に典型的な1日の使用帯域幅の推移を示す。

したがって、過去案件などの実績を基に検討する場合、1人当たりの1日の平均で見積もってしまうとピークに耐えられないサイジングとなってしまう。少なくとも、1日の全体の最大使用帯域幅を同時利用者数で割る、といった手法のほうが望ましい。その場合も上記のワークロードの変化を踏まえる必要がある。

また、仮に1人当たり100Kbpsとした場合、ある拠点で5人しか使用しないのであれば、500Kbpsとすれば良い、と考えがちだが、1人当たりのピークの値はより高い値になるため、10人以下となるような小さな拠点の場合は1、2Mbps程度を余分に追加することが推奨される。

印刷の通信フローの変化を加味していない

FAT端末の場合、拠点にあるプリンタと端末の間での印刷の通信はあくまで拠点の中に閉じるのでWANの帯域を消費することはない。しかし、デスクトップの仮想化を行うことで印刷の通信フローが変わり、印刷は以下に示すようにWAN経由となってしまうため、結果として必要な帯域幅が増加する。

印刷で使用する帯域幅は印刷量に比例するため、印刷を多く行う業務とその頻度について把握することが必要だ。例えば、人数の少ない特定の拠点で大量に帳票印刷を行うような業務がある場合、単純に人数割の帯域幅を割り当ててしまうだけでは帯域幅が不足してしまう。

望ましい机上見積もり

ここまでの議論を踏まえた上で、望ましい机上見積もりとしては、想定されるワークロードが同時に何人使用されるかを考えるべきだ。

例えば、次のようにそれぞれ利用する帯域幅を確認する方法がある。

  • 通常のオフィス業務を利用するユーザーが同時にX人
  • 動画を再生するユーザーが同時にY人
  • ネットワークプリンタに印刷するユーザーが同時にZ人

仮に通常のオフィス利用で使用する帯域幅を100Kbps、動画の再生を1Mbps、プリンタへの印刷を500Kbpsとした場合、必要となる帯域幅は「100Kbps x X人 + 1Mbps x Y人 + 500Kbps x Z人 + ピークのための1-2Mbps」となる。

峰田 健一(みねた けんいち)

シトリックス・システムズ・ジャパン(株)
コンサルティングサービス部 プリンシパルコンサルタント

サーバ仮想化分野のエンジニアを経て、シトリックス・システムズ・ジャパンに入社。
主に大規模顧客のデスクトップ・アプリケーション仮想化のコンサルティングに従事している。