仮想デスクトップ・アプリケーションでは、画面転送のみが行われるので、実際のアプリケーションの通信よりも必要とされるネットワーク帯域幅は少なくなる傾向にある。しかし、いくつかの原因から必要な帯域幅よりも少なく見積もってしまうという落とし穴がある。。
前回は、帯域幅を少なく見積もってしまいがちな理由として、「ワークロードの変化を意識していない」「平均で見積もってしまう」「印刷の通信フローの変化を加味していない」を紹介し、これらを考慮した上での帯域幅の見積り方法を説明した。今回は、帯域幅を減らすための手段を紹介する。
帯域幅を減らすための設定とチューニング
ここまでで、正攻法としての考え方を示したが、製品の機能やチューニングなどで必要帯域幅を減らしたり、制限したりすることも検討できる。
まず、製品の設定では、画質や送信するフレームレートを低い設定とすることで必要な送信帯域幅を減らすことができる。ただし、これについてはユーザーが許容される品質とのバランスが重要なため、パイロットでのユーザー検証などで検討する必要がある。
フレームレートについては、通常のオフィス用途では12~15fps程度で十分だが、動画の再生やその他なめらかに動く必要のあるコンテンツの再生が含まれる場合は、FATクライアントと比較してどうしても動きがカクカクしてしまう。Eラーニングなど、業務で使用する動画は文字などが中心で動きが少ないものが多いので比較的許容されることが多いが、注意が必要だ。
セッション辺りで使用可能な帯域幅を制限することで、動画の閲覧ユーザーなど帯域を多く使うセッションの上限を設定することもできる。設定によっては、接続元の端末のIPやホスト名に応じて帯域幅制限を設定し、特定の拠点だけあらかじめ多くの帯域幅を使用できないようにすることも検討できる。
また、各社それぞれ対応している機能は若干異なるが、帯域幅の消費の多い動画について端末側で再生することで帯域幅を節約できるほか、SkypeなどのWeb会議は仮想PCを介さずに端末間で通信することで、上りと下りのオーバーヘッドを減らす機能などがある。
OS側のチューニングもいくつか検討の余地がある。画面の変化量を減らすために、Windowsのメニューのアニメーション効果などをオフにしたり、アプリケーションのスプラッシュスクリーンの表示をオフにしたりなどの方法がある。これらについては、VMwareやCitri社からそれぞれ最適化のためのガイドやツールがリリースされているので、参考にしてチューニングを行う。
最適化のためのガイド http://www.vmware.com/resources/techresources/10157 http://support.citrix.com/article/CTX140890
ネットワーク側での対応
帯域幅を減らすには、上記のような仮想デスクトップ・アプリケーション製品側の設定だけでは限界があり、ネットワーク側での対応も必要になる。
単純に帯域を増やす以外にも、ネットワーク機器のQoS機能でバーストの通信が多く発生する印刷の通信だけ絞るというような対処も可能だ。印刷の通信はどうしてもバーストの使用帯域が多くなるので、この対処は効果的だ。
WAN最適化装置を導入することも検討できる。WAN最適化装置は比較的印刷の通信の圧縮率が高いものが多いので、印刷の通信が多い場合はコストパフォーマンスがよい。画面転送の通信自体は大きく圧縮することは難しいが、WAN最適化装置はTCPレベルの最適化や輻輳の制御などの機能を持つものが多いので、結果としてスムーズな利用が可能になる。 また近年、複数のWAN回線を束ね、使用するアプリケーションによって動的に回線選択できる技術(SD-WANなど)も登場しており、このような技術を使用することで、仮想デスクトップやアプリケーションに必要なWAN帯域を確保しつつ信頼性も確保できるため、仮想デスクトップやアプリケーションの導入に際してのWAN回線の見直しを行う際に検討してもよいだろう。
次回は、クライアント仮想化を活用したインターネット分離を設計する際のポイントについて解説する。
峰田 健一(みねた けんいち)
シトリックス・システムズ・ジャパン(株)
コンサルティングサービス部 プリンシパルコンサルタント
サーバ仮想化分野のエンジニアを経て、シトリックス・システムズ・ジャパンに入社。
主に大規模顧客のデスクトップ・アプリケーション仮想化のコンサルティングに従事している。