マルチコプターのハードウェア構成
前回では、マルチコプターの飛行原理を簡単に説明した。今回はマルチコプターのハードウェア構成と、操縦方法の基礎を解説しよう。
マルチコプターの本体は主に、フライトコントローラ、受信モジュール、バッテリ(二次電池)、ESC(Electronic Speed Controller)、モーター、プロペラなどで構成される。マルチコプターの動作中は、地上の送信機(「プロポ」と呼ぶことが多い)から無線で送られた操作信号を受信モジュールで受け取る。受け取った無線信号はフライトコントローラに送られる。フライトコントローラは送信機の指示にしたがってESCにモーターの制御信号を出力する。ESCは制御信号を受け取り、モーターを駆動する。具体的には、モーターの回転速度を変更する。
フライトコントローラはマルチコプターの根幹となるユニットで、マイコン(マイクロコントローラ)とセンサー群、GPS受信モジュールなどで構成される。マイコンには、センサー群が取得した信号とGPS受信モジュールが取得した信号が常に入力される。これらのセンサー群から取得したデータに基づき、マイコンはESCに適切な制御信号を出力する。
センサー群には、3軸ジャイロセンサー(3軸角速度センサー)、3軸加速度センサー、気圧センサー、磁気センサー、超音波センサーなどがある。3軸ジャイロセンサーは、前後の傾きと左右の傾き、回転の角速度を検出し、機体の姿勢と動きを把握する。3軸加速度センサーは、前後方向、左右方向、上下方向の加速度を検出する。気圧センサーは、気圧の違いから機体の高度を把握する。磁気センサーは方位を検出する。超音波センサーは、直下に超音波を発信して反射信号を検出することで、対地距離を把握する(地上に近い高度でのみ、使用する)。
マルチコプターのバッテリには普通、リチウムポリマ二次電池を使う。リチウムポリマ二次電池は、重量当たりのエネルギー密度が高い。このため、軽量化を重視する電動ラジコンヘリで、標準的に使われてきた。マルチコプターでは、電動ラジコンヘリ用のリチウムポリマ二次電池を流用していることが少なくない。
ESCも、電動ラジコンヘリで標準的に使われているユニットである。フライトコントローラからのモーター制御信号を入力、モーター駆動電流を出力とする。信号電流の増幅も担うので、電動ラジコンヘリのコミュニティではESCを「アンプ」(「増幅器」の意味)と呼ぶこともある。
ESCの特徴に、電源供給機能がある。バッテリから電力を取り出し、フライトコントローラに電源を供給する。そしてフライトコントローラは、受信モジュールに電源を供給する。こうすると電源ユニットを省けるので、機体を軽くできる。
ESCは基本的に、1個のモーターを駆動する。このため、4個のモーターを備えるクアドコプターでは、4個のESCが必要となる。この場合、電源供給機能を備えたESCは1個だけで、残り3個のESCは電源供給機能を持たない、という構成になる。
モーターの数が6個あるいは8個と多くなると、数多くのESCを搭載することはコスト増と重量増になり、あまり好ましくない。そこで最近では、モーターの数に相当するチャンネル数のPWM出力機能を備えたマイコンを採用することで、1枚の小型ボードで複数のESCを置き換えたマルチコプターが登場している。
マルチコプターの操縦原理
先に述べたように、マルチコプターの操縦には「プロポ」と呼ばれる送信機を使うことが多い。「プロポ」はプロポーショナル・コントロール・システムの略称で、操作用のスティックを動かした量(移動量)に比例して速度が上昇する。マルチコプターの操縦に使う送信機には、電動ラジコンヘリ用の送信機を流用していることが多い。
送信機が操作信号を無線でマルチコプターに送信すると、マルチコプターの受信モジュールが操作信号を受け取る。この信号がフライトコントローラとESCを経由して、複数のモーターを適切に駆動する。
送信機には左右2つのスティックがあり、操縦者はスティックを上下あるいは左右に動かすことで、機体を操作する。操作には、「スロットル(昇降)」、「ヨー(回転)」、「ピッチ(前後進)」、「ロール(左右進)」がある。前回に説明したような回転速度制御を、操縦者が意識することはない。
左右2つのスティックの操作には、2種類のレイアウトがある。1つは日本で普及している「モード1」、もう1つは海外で普及している「モード2」である。直感的に分かりやすいのは「モード2」だと言われている。右のスティックの上下が前後進、左右が左右進に対応しているからだ。ただ日本の電動ラジコンヘリではモード1が普及しているので、日本語の参考書や専門雑誌などは送信機をモード1の操作で説明していることが多い。
(続く)