前回でご報告した産官学コンソーシアムの開発によるマルチローターヘリコプター(マルチコプター)「ミニサーベイヤー」以外にも、日本企業が独自開発したマルチコプターが「第1回国際ドローン展」には数多く展示されていた。株式会社情報科学テクノシステムや株式会社アミューズワンセルフ、株式会社島内エンジニア、株式会社エンルートなどが実機を披露した。
情報科学テクノシステムは、同社が開発した自律制御型マルチコプター「Martin M-II」や「Martin S-I」などを展示していた。同社は、写真測量ソフトウェアやリモートセンシングシステム、情報システムなどを手がけている。本社所在地は茨城県つくば市。
情報科学テクノシステムは航空機による写真測量サービスに比較的早くから取り組んでいる。2007年~2008年には有人航空機(固定翼プロペラ機とヘリコプター)による撮影、2009年以降は独自開発の無人航空機(UAV)による撮影で実績を積んできた。実機を展示した「Martin M-II」と「Martin S-I」は最新世代のUAV(マルチコプター)で、写真測量やリモートセンシング、メンテナンスなどに威力を発揮する。
「Martin M-II」は6個のローターを備えたマルチコプターである。機体の大きさは全長が147cm、全幅が133.5cm、全高が64cm、機体の重量は6.6kg。貨物の最大積載重量は5kgである。バッテリはリチウムポリマ二次電池で、容量12000mAhの電池パックを2個、搭載する。ローターを回転させるモーターの出力は600W、ローターの回転数はホバリング時に8800回転/分である。飛行時間は貨物重量が1kgのときに30分、3kgのときに20分、5kgのときに14分。最高速度は時速60km、最大飛行高度は2000m、最大対気速度は時速120km、上昇限界高度は海抜6000mである。
「Martin S-I」は4個のローターを備えたマルチコプターである。機体の大きさは全長と全幅が100.3cm、全高が41.3cm、機体の重量は3.5kg。貨物の最大積載重量は1kgである。バッテリはリチウムポリマ二次電池で、容量は9000mAh。ローターを回転させるモーターの出力は600W。飛行時間は約15分。最高速度は時速60km、最大飛行高度は2000m、最大対気速度は時速120km、上昇限界高度は海抜6000mである。
小型化と信頼性を両立させた8ローター機
アミューズワンセルフは、8個のローターを備えながら、外形寸法が75cm×75cm×40cmと小さく、重量が約3.0kgと軽いマルチコプター「zUAV」を参考出品した。アミューズワンセルフは、マルチコプターとその応用システムを開発、販売する技術ベンチャーで、2011年11月に設立された。本社所在地は大阪府大阪市中央区。
標準的なマルチコプターが搭載するローターの数は4個、6個、あるいは8個である。ローターの数が増えるほど、一般的には信頼性が高い。仮に1個のローターが何らかの不具合によって停止したとしよう。4個のローターを搭載したマルチコプターは、墜落してしまう。6個のローターを搭載したマルチコプターは、残りの5個のローターで飛行を続けることが原理的には可能である。8個のローターを搭載したマルチコプターは、残り7個のローターで飛行を続けることが可能で、なおかつ、6ローター機よりも容易に機体を立て直すことができる。
ただし、マルチコプターは1本のアームに1個のローターを取り付けているので、ローターの数が増えるとともにアームの本数が増える。すると機体の外形寸法が大きくなるとともに、機体の重量が増加する。
これに対してアミューズワンセルフが開発中の8ローター機「zUAV」は、アームが4本しかない。1本のアームに2個のローターを取り付けている。いわゆる「二重反転プロペラ」に近い構造である。この結果、8ローター機でありながら、4ローター機に近い小型化と軽量化を達成した。
「ZUAV」がユニークな点はこれだけではない。ローターの保護と離着陸の脚を兼ねた回転式のバンパーを装備した。バンパーは離着陸時点では垂直方向に立っており、飛行時は水平方向に寝ている。このため、離着陸用の脚が、カメラによる撮影画像に映り込む恐れがない。また飛行中にバンパーの向きは変えられるので、中空建造物の下を飛行するときにバンパーを垂直方向に立てることによって上方の構造物からローターを保護できる。
そして制御ボードを冗長構成とし、電子回路の故障にきわめて強くした。メインとバックアップの2つの制御ボードがあり、メインの制御ボードに不具合が生じたときは、バックアップの制御ボードに切り換えて飛行を継続できる。
「zUAV」の仕様(暫定仕様)は、飛行時間が30分、バッテリの容量が20000mAh、貨物の最大積載重量が約3.0kgである。無線通信周波数は操縦用が2.4GHz、画像データ伝送用が1.2GHz。
アミューズワンセルフはこのほか、初めて開発したマルチコプター製品「αUAV」も出品していた。「αUAV」は8個のローターを8本のアームに取り付けた標準的な8ローター機である。外形寸法は99cm×99cm×45cm(ローターを除く)、重量は約3.5kg(離着陸用脚とバッテリを除く)。飛行時間はバッテリの容量が8000mAhのときに約15分。積載可能な貨物の最大重量は約2.5kg。マイクロフォーサーズシステムの1600万画素カメラを標準で搭載する。
空中から地表を撮影して三次元形状を構築
島内エンジニアと神戸清光システムインスツルメント、クラボウ(倉敷紡績)の共同出展ブースでは、島内エンジニアが開発したマルチコプター「Magpie 960A」を出品していた。島内エンジニアは地盤調査や土質試験、航空測量などを手がけている。本社所在地は佐賀県佐賀市。神戸清光システムインスツルメントはマルチコプターや測量計測機器などの販売代理店で、国内外の企業が開発した各種のマルチコプターを販売している。本社所在地は兵庫県神戸市中央区。クラボウは、2枚以上の地表撮影画像データから三次元立体形状(三次元位置座標データ群)を構築するソフトウェア「Kuraves-MD(クラヴェス・エムディー)」を扱う。扱っているのは同社のエレクトロニクス事業部である。
「Magpie 960A」は6個のローターを備えており、フレームの直径は100cm、重量は6.5kg(カメラとジンバル、バッテリを含む)。カメラはソニーのNEX5Rである。自律制御システムは中国DJI製。展示ブースでは、マルチコプターに載せたカメラで空中から地表を撮影し、「Kuraves-MD」によって三次元地形図を構築するソリューションをアピールしていた。
飛行時間が50分と長いマルチコプター
MTS&プランニングとエンルートは、4個のローターを備えたマルチコプターと、6個のローターを備えたマルチコプターを実機展示していた。株式会社MTS&プランニングは、テレビ番組の制作や放送機器の販売などを手がけている。本社所在地は福島県福島市。株式会社エンルートは、産業用無人機の設計と製造、販売や無線操縦機器(ラジコン機器)の輸出入と製造、販売などを手がけている。本社所在地は埼玉県ふじみ野市うれし野。2015年3月3日に両社は、業務提携と協業の開始を報道機関向けに発表した。MTS&プランニングの本社がある福島で、マルチコプターの生産と販売に関する協業を始めている。
展示会では、エンルートが開発した4ローター機「QC730」や、6ローター機「CH940」などを出品していた。「QC730」は、大きさが72.8cm(モーターの対角軸間距離)と比較的小さく、重さが2.5kg(バッテリやカメラなどを除く)と軽い。貨物の最大積載重量は4.0kg。バッテリはリチウムポリマ二次電池で、容量は490Wh。飛行時間は50分とこのクラスのマルチコプターとしてはかなり長い。自律制御システムには、米3D RoboticsのAPMを使用している。
「CH940」は、大きさが幅99.9cm×奥行き87.3cm×高さ51.4cm、モーターの対角軸間距離が94.0cm、重量は2kg(バッテリを除く)とかなり軽い。バッテリはリチウムポリマ二次電池で、容量118Whの電池パックが2個。飛行時間は約15分である。自律制御システムには、米3D RoboticsのAPMを使用している。貨物の最大積載重量は約6kgである。
(続く)