太郎の造形、蒼風の造形、ざっくりしたことしかお伝え出来ませんでしたが、その二人に共通する、うねる曲線、荒々しい大自然や命を想起させる造形。そのようなものが突然に、四角く切り取られた部屋や床の間、ギャラリーや街角に現れたとき、僕の心はグッとくるんですよね。それは僕だけに起こる心の現象じゃないと思っているのですが、どうなんでしょ?読者のみなさんはどうですか?ぜんぜんグッとこないですか?
僕が、流木を買ったり部屋に置いたりしている理由は、彼らの作品を買えないから、その代用品にしているんでしょうかね。逆のことも言えて、太郎や蒼風の作品は簡単に伐採できないような樹木、神が宿っているようなそこから絶対動かしてはいけないような巨大樹木の代用品として、さらにそれらを超えたようなものを自らの手で造形しようとしていたように思われます。
以前、書いたように、僕らの世代、大阪生まれの僕にとっての岡本太郎初体験は太陽の塔でした。そしてもうひとつ、PLの塔のお話もさせていただきましたが、僕はこれらの二つの塔の中間地点くらいにある街で幼少から青年期を過ごしたんです。大人になってから知ったのですが、PLの塔の造形には勅使河原蒼風がからんでいたようです。
だから、僕は今、心配しております。太郎や蒼風の造形論を展開するつもりが、単なる、自分の個人的なトラウマ造形話を披露しただけに過ぎないのではないか……。
いや、これは僕だけの話じゃない。と、思うことにします。みんな同じように思っている、思ってなくても心の隅に眠らせてるだけ! そう思うようにします。それはなぜかというと、彼らの作品が国際的な広がりをみせ、今なお語り継がれるものだからです。(蒼風さんは少々忘れられがちですが、いつか復活しそーです。)
ではこのへんで「岡本太郎生誕100年記念 造形の美にせまる」シリーズを終わります。
最後に、 太郎さん、100歳おめでとうございます。 太郎さんのすばらしかったところは、太郎さんの芸術がごく一部の業界や狭い分野で展開されたのではなく、大阪の片田舎の食卓まで降りてきてくれたことです。 底に顔のあるグラスや、テレビ番組、窓の向こうの鯉のぼりや飛行船にいたるまで、芸術なんて分野にはまったく無縁の少年の視界に入ってきてくれました。 サンキュ~~~~~!
タナカカツキ
1966年、大阪府出身。18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。キリンジのアルバム『BUOYANCY』など、CDのアートディレクションも手掛ける。