外国語学習プラットフォーム「Duolingo」によると、1月13日、同サービスで中国語を学ぶ米国ユーザーが前年同日比で216%も増加しました。この背景には、TikTokが米国で禁止される可能性が影響していると同社は見ています。
App Storeランキングのトップに躍り出た「小紅書(RedNote)
1月19日に米国でTikTok規制法が発効され、ByteDanceがTikTokの米国事業を売却しない場合、同サービスは米国内での提供が禁じられる可能性があります。TiKTokの差し止め請求が連邦最高裁判所で認められる可能性、トランプ氏が大統領就任後に大統領令で効力を停止する可能性もありますが、TikTokの先行きは不透明なままです。
この混乱の中、「小紅書(RedNote)」という別の中国製ソーシャルメディアプラットフォームの存在が米国のTikTokユーザーの間で共有され、ほぼ一夜にして小紅書は米国のApp Storeランキングのトップに躍り出ました。
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1月13日時点で、小紅書はAppleの米国App Storeで無料アプリのトップに躍り出ました(ちなみに2位はTikTokを運営するByteDanceの別のソーシャルメディアアプリである「Lemon8」です)
小紅書はInstagramとPinterestを融合させたようなアプリで、中国語が標準言語となっています。近年、ゲームやアニメなど中国発のコンテンツに米国人が触れる機会が増えており、TikTokからの移行先を真剣に考えなかればならなくなったのを機に、Duolingoで中国語の短期集中コースを受講する人が増加し始めたのではないか、と推測されています。しかし、この背景にはもっと複雑な要因が絡んでいそうです。
米国企業を巻き込む動き
TikTok禁止はユーザーよりもクリエイターに大きな影響を及ぼします。The Imformationによれば、新型コロナ禍で急成長した米国のクリエイター経済は2022年から2023年にかけて縮小しましたが、2024年には再び増加に転じました。
広告主がインフルエンサーマーケティングに多くの予算を割いていることが主要因であり、広告事業が大きく成長しているTikTokはクリエイターにとって非常に重要な収入源となっています。
現在、小紅書にアカウントを作成しているユーザーがそのままとどまるかどうかは不透明です。TikTok禁止が現実になった場合、多くのユーザーはInstagramのReels(リール)やYouTubeのShorts(ショート動画)に移行するでしょう。
TikTokの禁止が迫る中、Instagramのトップであるアダム・モッセーリ氏は、オリジナルコンテンツを優先するランキングアルゴリズムやアプリのアップデートを進める方針を示しています。
巨大テック以外の米新興企業もこの機会を活用しようとしています。ニュースレター・メールマガジンを配信するプラットフォームSubstackは1月14日、すべてのパブリッシャーにライブ動画機能へのアクセスを展開すると発表しました。この機能では、ライブ配信後にAI生成によるクリップが作られ、配信者はそれを他のソーシャルメディアで共有できます。
Substackはまた、少し前に「TikTok Liberation Prize」(TikTok解放賞)を発表しました。賞金は2万5,000ドルです。「トレンドを起こすTikTok動画を作れるクリエイティブな才能」を対象に、再生回数の多さではなく、影響力を基準に、例えば他の人にメンションされたり、視聴者をSubstackに招待した参加者が勝者になります。
さらに、中国当局がイーロン・マスク氏にTikTokの米国事業を売却するという選択肢を検討しているとBloombergが報じました。この可能性は、前回のトランプ政権でTikTokが米国事業の売却を要求された時にも人々の話題になっていましたが、当時はジョークの1つでした。それが4年半を経て、TwitterがXになり、TikTok買収の可能性もジョークではなくなっています。
「禁書」を求める人々の心理が働く
このように、TikTokの禁止を巡って「難民」を受け入れるための受け皿がいくつも用意されているにも関わらず、中国語学習を始めてまで小紅書にサインアップする米国人が増えています。
それは「ソーシャルメディアのコミュニティは用意されるものではなく、クリエイターやユーザーによって作られるもの」という意思の現れと言えそうです。TikTokの成長に対し、模倣することしかできない米国企業に対する不満も含まれているでしょう。
これまでの経緯を考えると、小紅書が一時的にTikTokの代わりになっても、同じ問題の繰り返しになるだけです。今の状況は「禁書」を求める人々の心理を思い起こさせます。歴史上、禁止された本やメディアは、しばしば逆に人々の関心を煽り、より広く読まれることになりました。
ソーシャルメディアは単なる技術やプラットフォームではなく、そこに集う人々が作り上げる文化そのものです。TikTokを巡る米国の動きは、規制や買収の枠を超えて、ソーシャルメディアの未来とその価値観を問う論争へと発展しつつあります。