「Making “Social” Social Again(ソーシャルを再びソーシャルに)」。ブログ文化を切り拓いた「Blogger」、140文字でのつぶやきを世界に広めた「Twitter」、そしてパブリッシングプラットフォーム「Medium」などを設立し、成功に導いてきたエヴァン・ウイリアムズ氏(Ev Williams)が、新たなソーシャルサービス「Mozi」を発表しました。「テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏」の過去回はこちらを参照。
シンプルなソーシャルアプリ「Mozi」
発表投稿のタイトル「Making “Social” Social Again」は、トランプ氏の「Make America Great Again(MAGA:アメリカを再び偉大に)」をもじったものです。
Moziは、人と人とのつながりを構築するためのシンプルなソーシャルアプリです。写真や動画の投稿、いいね、フォローといった機能は一切ありません。連絡先アプリと連携し、友人や大切な人が同じ場所(またはイベント)にいることを知らせるのが主な機能です。
たとえば、Appleの開発者カンファレンスWWDCのパブリックビューイングに当選してシリコンバレーを訪れるとして、Moziに登録していれば、他の参加者や現地に住む友人に通知が届きます。同じイベントに参加していたことを後から知って残念に思うのをなくしてくれるサービスです。
Moziに対して、Twitter登場時のような「新しい何か」にワクワクする感覚を覚える人は少ないかもしれません。しかし、ウイリアムズ氏がMoziを開発するに至った経緯を知ると、さまざまな考えを巡らせるきっかけになります。
ソーシャルメディアは本来の目的を見失い、単なるメディアへと変質
ウィリアムズ氏が「Mozi」のアイデアを思いついたのは、50歳の誕生日パーティーの招待者リストを作成していた際に、アラフィフという自分の人生のステージに見合った友人関係を築けていないと感じたことがきっかけでした。
スタートアップでの多忙な日々、コロナ禍、そして自身の内向的な性格も影響し「成功すれば人は自然と集まってくる」という考えに陥っていたそうです。その結果、希薄なつながりが広がるばかりで、連絡先は重複や古い情報に溢れ、本当に大切な人とのつながりへの投資が不十分であることに気づいたのです。
それは、もう1つの現実的な問題を浮き彫りにしました。オンラインでつながれるサービスが数多くあるにもかかわらず、個人的なソーシャルネットワークを管理する方法が見当たらないということです。
初期のFacebookは個人のリアルな人間関係を反映し、友人の近況を伝えてくれるソーシャルネットワークでした。しかし、それは長くは続きませんでした。
人間が本質的に社会的な存在であることを考えると、ソーシャルな製品がインターネットを支配するのは当然のことのように思われました。10年から15年前、それは必然のように感じられました。しかし、実際には別のことが起こりました。ソーシャルネットワークは「ソーシャルメディア」へと変わっていき、自分が選んだ人々の情報を受け取る場であったものが、いつしか、注目を集めるための無秩序な競争の場となりました。そしてユーザーもほとんどが、友人たちの投稿よりも、四六時中「コンテンツ」を作成しているインフルエンサーを面白いと感じ始め、ソーシャルメディアは、本来の目的を見失い、単なるメディアへと変質してしまいました。
日本でもソーシャルメディアの影響力が注目を集めるようになりましたが、米国ではすでに伝統的なメディアと同等、あるいはそれ以上に重視し始めた分野も出てきています。
たとえば、先週バイデン政権のデジタル戦略室が主催するクリエイターや業界関係者向けのホリデーパーティが開催され、インフルエンサーを中心に500人以上が集まりました。クリエイターは経済成長のドライバーであるだけではなく、世論を動かす存在としてホワイトハウスも注目しているのです。
「私たちは明らかに何かを失った」 - ウイリアムズ氏
ウイリアムズ氏は、こうしたソーシャルメディアのメディア化を一概に否定しているわけではありません。
正直に言うと、この進化には良い面もあると思います。それは別の機会に触れたいと思います。しかし、私たちは明らかに何かを失いました。
ソーシャルメディアにソーシャルを求める人たち、特にプライベートなソーシャルネットワークを必要としている人たちにとって「つながる」ことが困難な状況が生まれています。そこで「ソーシャルネットワークとは何か」を考え、自己顕示欲を満たすための場ではなく、純粋に人間関係を深めるためのプライベートな場としてMoziは開発されました。
Moziは連絡先アプリと連携するので、コンタクト情報が常に最新の状態に保たれます。もう1つの大きな特徴は、プライベート性の高さです。
データはすべて暗号化され、プロフィール、計画、その他の情報は一切公開されず、情報は相互の連絡先を持っている人との間でのみ共有されます。さらに、共有範囲を「親しい友人」のみに限定するなど、柔軟な共有設定が可能です。現在は無料で利用できますが、収益モデルとしてプレミアム機能を有料化するフリーミアムを考えているそうです。
この2年間で、ウイリアムズ氏の生活は大きく変わったとのことです。古い友情を再構築し、新しい友人関係も築くことで、個人的な成長と癒しの時間を過ごすことができたと語っています。
でも、それはアプリのおかげではなく、人間関係を優先し、時間を投資した結果です。「テクノロジーは人間の本質的なニーズを完全に解決するものではありません」と述べているように、人間関係を充実させるためにMoziは必ずしも必要ではありません。
しかし、ソーシャルメディアの進化に疑問を持つ多くの人々が、Moziのようなツールを活用してより豊かな関係を築くことが可能です。Moziの狙いは、ソーシャルネットワークとソーシャルメディアが混同される中で、「ソーシャル」の在り方を見直すきっかけになることです。
プライベートなパーソナル・ソーシャルネットワークが区別されて適切に管理されることは、メディアの一部として消費されるようになったソーシャルメディアにも新たな視点をもたらすかもしれません。「つながり」という概念の再定義が起こるのか、Moziの成長を注視していきたいと思います。