小売店や仲介業者に商品を出すことなく、主にECサイトを通して自社企画の商品を顧客に直接販売するD2C(Direct to Consumer)ビジネス。これを手掛けるスタートアップが国内外で増えてきている。

11月末よりレザー製品ブランド「objcts.io(オブジェクツアイオー)」の販売を開始したZokeiも、国内D2C型スタートアップのひとつだ。

Zokei代表取締役 沼田 雄二朗氏

ECサイトとオフィス併設ショールームを組み合わせることで実店舗のコストを削減し、製品価格に還元。また、顧客からダイレクトにフィードバックを回収しながら製品改良を繰り返す、PDCA型の製品開発を実現している。

今回は、Zokei代表取締役 沼田 雄二朗氏と、製品開発責任者の角森 智至氏に、製品のこだわりから立ち上げのきっかけ、D2Cのメリットまでお話を伺った。

15回の試作を経て究極のバックパックが完成!

objcts.ioの第1弾製品として今回、ノートPCやタブレットなどを持ち歩くのに適したビジネスユース向けのバックパックが正式に販売開始となった。

会社の設立は、2015年4月。正式販売に至るまでには、プロトタイプの製作からフィードバック回収までのPDCAサイクルを繰り返し、15回もの試作を行うなど「かなりの時間と労力を掛けた」(角森氏)という。

objcts.io製品開発責任者の角森 智至氏

「最初の販売モデルは、軽量化のために布地とレザーのコンビで製作しました。価格は現在の製品の半額程度でしたが、ユーザーからは同じ価格帯の他社製ナイロンバッグと比べて割高感を感じてしまうという声をいただきました。

最新モデルではフルレザーになっています。サイズも当初からやや大きくなりました。ユーザーの声に完全に従うというわけにはいきませんが、数十個程度の少量販売を繰り返し、フィードバックをいただいて、それをもとに企画を考え直す、ということを繰り返してきました」(沼田氏)

ドレープが特徴のSoft Backpack。モダン・ラグジュアリーというコンセプトの下、革の素材を活かして設計された (撮影:Zokei)

製品のコンセプトは「モダン・ラグジュアリー」。沼田氏は現代におけるラグジュアリーという感覚について、『PUBLIC Hotel』の創設者の話にとても共感したと話す。

「彼は、ホテルのラウンジに関して、見た目が豪華なカップでコーヒーを出すよりも高速な無料Wi-Fiを提供していることの方が大切と考えているんです」

続けて、「自分も、現代の”イノベーター”と呼ばれている人たちに対して、インターネット社会において最低限必要となる機能性を備えたラグジュアリーを提供しようと考えました」とコンセプトを説明。現代のビジネスマンが求めるラグジュアリーを突き詰めた結果、「機能性」がキーワードであると考えたのだ。

objcts.ioのバックパックは、ノートPCやタブレットなどを持ち運べるようクッション性や防水性、軽量性などの機能を備えている一方で、素材に本革を利用することで高級感のある印象を与えることに成功している。

PCを持ち歩くビジネスマンを想定し、クッション性、防水性、軽量性を追求している

ビジネスシーンでの利用を想定して、長方形をベースとしたシンプルなデザインとなっているが、カジュアルな服装のときでも違和感なく持てるよう、あえて少し崩したシルエットを採用しているのもポイントだ。

このシルエットをつくりだすために上部と下部で芯材の素材を変えるなど、見えないところまでこだわり抜かれている。沼田氏は「機能性を持たせながら、使うたびに感性が豊かになるような、人の美意識に訴えかけるようなものをどうやったらつくれるか、試行錯誤をしてたどり着いた製品です」と自信をみせる。

土屋鞄出身者で挑む、ガジェットに特化した製品づくり

会社設立前には、土屋鞄製造所(土屋鞄)にてブランドマーケティングやSNSアカウントの立ち上げ、ECサイトの開発などを担当していた沼田氏。2013年に渡米し、約1年間ニューヨークでD2Cスタートアップのリサーチを行った。

多くのD2Cブランドに出会い「日本でも近いやり方でブランドを立ち上げたらおもしろいのでは」という思いが徐々に湧いてくるなか、土屋鞄のSNS企画で角森氏と共に製作したガジェット用小物の数々を思い出したという。

「『職人がガジェット用のサンプルをつくってみました』と土屋鞄のSNSに投稿してみたところ、ユーザーにとてもウケたことがあったんです。Facebookでは3万以上のいいね!がつきました。しかし土屋鞄ではガジェット向けの商品をつくらないという方針があったので、だったら別にプロジェクトを立ち上げて、D2Cでガジェットに特化した製品を本格的に展開したらおもしろいんじゃないかと考えたのが、会社を立ち上げたきっかけです」(沼田氏)

オフィス兼ショールームに展示されている商品の一部。VRヘッドマウントディスプレイ専用ケースや革素材ケーブルバンドなどが並ぶ

製品開発責任者の角森氏も、沼田氏と同じく土屋鞄の出身者だ。同社では、ランドセルや財布などの製品開発から、生産、品質管理までを一貫して行っていた経験がある。いわゆる「鞄職人」だったが、当時の生産現場にiPadやEvernoteを導入するなど、テクノロジーの活用にも積極的に取り組んだ。

現在はテクノロジーに明るい角森氏ならではの発想で、日々ガジェットを活用しているイノベーターたちをエンパワーする新しい製品をデザインしている。

ユーザーの生の声を拾えるD2Cだからこそできること

現在はECサイトとオフィス併設ショールームを組み合わせた販売形態をとっているobjcts.io。今後はコワーキングスペースやカンファレンスの会場などでも展示を行うことで、起業家や技術者をはじめとするイノベーターへのアプローチを進めていきたい考えだ。

こうしたD2Cモデルを採用するメリットについて沼田氏は、「ダイレクトかつリアルタイムにお客さまの声を反映させられる点です。生の声をもとに改良を進めるからこそ出てくる製品にぜひ期待していただきたいです」と説明する。

まずは第1弾製品であるバックパックをしっかりと売って軌道に乗せるため、来春には新色の発売も予定されている。一方で、objcts.ioの先鋭的な価値観を発信すべく、VRヘッドマウントディスプレイやドローンのケース、コードレスクリーナーのコート型パーツケースなどの開発も進めているのだという。

コードレスクリーナー専用収納ケース。クローゼットにしまうことを前提に遊び心を交えてデザインされた

「まずは自分たちに共感してもらえるコアなお客様を集めて、濃いブランドにしていきたいですね。そのために、買ってくれた人が口コミで広げていってくれるような、お客様に共感してもらえるものづくりに引き続き取り組んでいきたいと思っています」(沼田氏)