新年あけましておめでとうございます。
ITSearch+では「2017年新春インタビュー」と題し、「IoT」を軸に携帯3キャリアの法人部門トップインタビューを行いました。IoTの本質とは何か、携帯3キャリアの戦略からIoTをベースに、次の打つべき手は何かを見出していただければと思います。今回は番外編として、佐野正弘氏がIoT時代のMVNO「ソラコム」の玉川憲氏に話を聞きました。

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数あるMVNOの中でも、IoT向けにターゲットを絞ってAWS(Amazon Web Service)を活用することで、安価かつ柔軟性の高い通信サービス「SORACOM Air」を提供するソラコム。2016年はKDDIに同社の技術を提供して「KDDI IoTコネクト Air」を展開したほか、米国を足掛かりとして海外進出の発表、LPWA(Low Power,Wide Area)の1つである「LoRaWAN」を用いた通信事業など、1年を通じて大きな注目を集めてきた。

一方でIoTはまだまだ具体的な製品や事例がまだ少なく、期待感が先行している状況だ。そうした状況下で、ソラコムはどのような取り組みをもって一層のビジネス拡大へとつなげようとしているのだろうか。代表取締役社長の玉川憲氏に、2016年の振り返りと2017年に向けた取り組みについて話を聞いた。

ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏

新サービスの継続投入で信用を得てビジネスを拡大

ソラコムは2015年9月にSORACOM Airのサービスを開始しており、昨年はおよそ1年が経過したことになる。玉川氏によると、昨年末時点で250社のパートナーと4000以上のアカウントを獲得、「導入に時間がかかると踏んでいたが、1年目としては非常に早く立ち上がった」と評価する。その理由としては、特定の業種に特化しない水平型のプラットフォームであり、オープンで柔軟性の高いサービスを提供していることが挙げられるようだ。

だがもう1つ、設立間もないベンチャー企業であるソラコムの事業が急速に立ち上がった要因として、玉川氏は「自社で設けてきたさまざまなマイルストーンを着実にクリアし、継続的に新サービスの提供を進めてきた」ことを挙げる。

「1つのサービスをリリースしただけでは駄目。継続的にサービスを提供することで、きっちりやることが重要だ」と玉川氏は話しており、優れたサービスを1つ用意しただけでなく、その後もサービス拡張に向けた取り組みを継続してきたことが、信用を得る上でも重要なポイントとなったようだ。

実際ソラコムでは、サービス開始当初から新サービスを10個、新機能を28個立ち上げたとのことで、中でも「SORACOM Canal」や「SORACOM Direct」など、セキュリティを担保しながら顧客のシステムとソラコムのプラットフォームを接続するサービスを提供できたことは、「セキュリティを重視する法人から信頼を得る上で重要な意味があった」と話している。

十勝バスやパルコ、日本交通、ヤンマーなど、中小・大手問わず多くの企業からの採用事例が既に多く出てきていることも、ソラコムが注目される大きなポイントといえる。そうした導入事例の中でも、玉川氏が印象的だったと語るのは、東急ハンズのポイント端末の事例だという。

一般的に、決済やポイントなどを扱う端末はセキュリティ上の懸念からインターネットに接続させられず、有線で専用線を引くケースが多かった。だが「SORACOM Canal」を用いて無線ながらも閉域網で接続することで、タブレット端末をポイント端末にできるようになったことは、非常に意味のある取り組みだったとのことだ。

また玉川氏によると、R&Dや新規事業開拓などの段階においても、ソラコムのサービスが利用されるケースが多いという。実際、IoTのサービスを展開したいが、大手キャリアのM2Mサービスでは価格が高く、導入にリスクがあるとして断念した企業などが、低価格かつ少数の契約で始められるソラコムのサービスに注目するケースが多いとのこと。

また現場サイドの人物から見ても、ソラコムのサービスは通信をIoTの開発パーツの1つとして導入しやすく、実績がありオープンな仕様であるため、情報も多く出揃っているというメリットがあるという評価を意味にするという。手軽に導入でき、「とりあえずやってみたい」というニーズを満たせることが、ソラコムのサービスが採用される大きな要因になっているといえそうだ。

大企業との協業はどのような影響を与えたか

ソラコムが昨年大きな注目を集めた要素の1つには、やはり未来創生ファンドからの出資やKDDIとの協業、そしてAWSのパートナープログラムで、テクノロジーパートナーの上位階層である「アドバンスド」と「IoT コンピテンシー」を取得するなど、大企業から高い評価を得たことが挙げられる。この点について、玉川氏はどのように捉えているのだろうか。

玉川氏は「IoTは複数の業界がか関わる、いわば『総合格闘技』。ITでも通信でも、家電でもない、新しいジャンルだと考えている。特定の業界を最初から意識して事業展開している訳ではない」と話す。玉川氏はAWSに在籍していた過去から、AWSのオープンなクラウドインフラとして、分け隔てなく透明感のあるイノベーティブなビジネスに共感を得ていた。そうしたことからソラコムでも、あくまで特定の業界の枠組みにとらわれない、IoTを支えるプラットフォームビジネスを展開していく考えを示している。

だがそれでも、大手企業と協業したり、評価を受けたりすることは「1つの業界に与えるインパクトが違ってくる」と玉川氏は話す。自動車や通信、クラウドなどの業界から注目され、ポジションを獲得していくことが、新たなビジネスやパートナーシップにつながると、玉川氏は捉えているようだ。

そうした大企業との協業によって生み出された成果1つに、KDDIのネットワークにソラコムのコアネットワーク「SORACOM vConnec Core」を導入し、サービスを開始した「KDDI IoTコネクト Air」がある。ソラコムは既にNTTドコモのMVNOとしてSORACOM Airを展開しており、順調に成果を重ねてきていることから、一見するとKDDIと協業し、SORACOM Airと同種のサービスを提供する必要性は乏しいように思える。

だがこの点について、玉川氏は「我々は元々ソフトの会社であり、インフラ投資できる規模の会社ではない。通信を提供する上でパートナーの存在は不可欠」と答えている。ソラコムはネットワークを提供するMVNOとしての顔は確かに持っているものの、同社のビジネスのコアはクラウドを活用したソフトウェアによるプラットフォームであり、通信回線ではない。

「テクノロジーこそがソラコムの価値であり、それがパートナー企業のネットワークで使ってもらえるのは嬉しいこと」と玉川氏は話しており、通信においても特定のネットワークにこだわることなく、パートナーとの協業を積極的に進めていきたい考えを示している。