3つのキーワード

情報端末以外の物に、とりわけデータ入力側としてIoTモノを取り付ける場合、機器がもつ本来の機能はもちろん、操作性・利便性を損なわないことも必要です。

例えば、とある会議室内の温度調整の最適化を行うために、参加者の衣服に温度センサ(IoTモノ)を装着する場合、装着したモノによって、動作に不自由が生じたり、移動が制限されたり、会議途中でのセンサ電池切れが発生したりでは、温度管理にIoTを導入する意味がありませんね。

そのため、目立たない、邪魔(浪費)をしない、拘束しないといった3つの制約を可能な限り小さく実現する必要があります。キーワードとして表すならば、「省スペース」「省エネルギー」「ワイヤレス」です。

なお、本連載では、上述の様なセンサ情報取得を目的とした小規模なIoTモノをスモールIoT(スモールIoTモノ)と称することにします。

省スペース

本連載で扱うIoTモノは、小規模な機器であっても、コンピュータシステム(CPU+メモリ+入出力装置)を搭載していることを前提にしています。

加えて、アナログ⇔デジタル信号変換装置や通信装置も備える必要があります(前回の図参照)。

一方、パソコンやスマートフォン、タブレットといた情報端末に必要なキーボード(ソフトキー含む)やディスプレイは、スモールIoTモノでは利用しないことがほとんどです。

それ故、スモールIoTシステムの大部分は、半導体のみで構成することが可能です。そして、半導体集積度が向上した今日では、「CPU+メモリ+入出力装置」を含む周辺機能を1つの半導体チップで実現することが可能なのです。

こうした半導体チップを、「SoC(System on a Chip)※1」と言います。コンピュータシステムを1つの半導体チップで実現できればかなりの省スペースが実現できますね。

※1 後述する無線通信に必要なアンテナ(半導体デバイスではありません)も一つのチップ内に納め、複数の部品で構成されるシステムも一つのパッケージに収めてさらに省スペース化を図る「SiP(System in Package)」と称するデバイスも存在します。残念ながら、PSoC BLEは SiPでありません。

本連載で使用するPSoC BLE Pioneer Kitに搭載されているチップもSoCです。ただ、PSoCの場合、Programmable SoCという名前が示すとおり、SoCを構成する機能(CPU周辺機能にあたる部分)がプログラム(カスタマイズ)可能な点にあります。

図1 : PSoC(Programmable SoC)の概念図Cypress SemiconductorのWebサイトから

一般的なSoCの場合、CPU周辺機能のカスタマイズはできず、チップメーカがデザインしたものを利用します。ただし、多くの場合、スモールIoTを実現するのに必要な機能はどのメーカのSoCにも盛り込まれています。

PSoC BLE Pioneer KitにおけるIoT機能を担うのはSoCのどこかといいますと、下図の○で囲まれた部分になります。他の部分は、評価ボードとして機能させるために付加機能やアンテナとなります。

図2 : SoCは円で囲った部分(画像はCypress SemiconductorのWebサイトから)

ARM CPUのはなし

スモールIoTモノに使われるSoCの中心を成すCPUは ARM社が提供するARMコアが主流になりつつあります。ARMコアには「Cortex-A」「Cortex-R」「Cortex-M」の3つのシリーズがあります(ハイフン以降を並べると、A・R・M。狙ったネーミング!?)。

各シリーズにも、CPUの処理能力によってさらにいくつかの種類に分けられます。

各シリーズ、それぞれ得意分野がありますが、スモールIoTモノには Cortex-Mシリーズが採用されることが多いです。Cortex-Mシリーズには、主としてM0/M3/M4があります。ちなみに、PSoC BLE SoCのCPUは Cortex-M0です。

なお、ARM社は SoCデバイスそのものは製造しません。CPUデザインのみ行い、SoCはライセンスを受けた半導体メーカが製造します。SoCは、半導体メーカによって味付けされるので、搭載される周辺機能は異なるのですが(同じ機能を搭載したにしても、配置や制御方法が異なります)、採用されるCPUコアの型が同じであれば、SoCメーカによらず同じ制御方法※2となります。

ARMは、最近ソフトバンク社がグループ化した会社です。報道で大きく取り上げられたので耳にしたことはあると思います。孫さんがARMグループ化に積極的だったのは、IoTによるARMコアの需要増大が見込めることもその一つだと推察されます。

※2 同じプログラムが動作すると言うわけではありません。周辺機能の種別やレジスタ配置が異なるからです。

省エネ

SoC化することで、3つのキーワードの中で必然的に実現できるものがあります。それは「省エネ」です。

コンパクトにまとめることで回路が短くできます。必要な回路が盛り込まれていることで、機能の追加も最低限に抑えることができます。また、最近のSoCは機能単位での電源管理も可能です。結果、省エネが実現できます。

省エネであれば、電池で駆動できて、かつ長時間動作させることが可能となります。電池交換の手間が省けます。

IoTモノが沢山配置された場合、電池交換作業も無視できない労力になってしまいます。また、逆の見方として、IoTを採用することで、電力含めトータルコストが上がってしまっては、本末転倒ですね。

究極の電源供給方法は、太陽光や振動といった「環境」から電力を得ることです。エナジーハーベストと称した分野の研究も進んでいます。

残念ながら、教材として採用したPSoC BLEキットは、太陽光では動作しませんが、動作するIoTモノも市場に出始めています。

なお、PSoC BLEは電池駆動が可能です。ボード裏面にボタン電池を装着できるフォルダが付いています。

図4 : 究極の電力源は自然環境

ワイヤレス

IoTモノは最終的にはインターネットに接続することになるのですが、 動きに制限を加えないためには、無線の方が有利です。

たとえ物が固定で可動しない場合も、複数の物にIoTモノを取り付ける場合は、配線の煩雑さを考慮すると無線の方が便利でしょう。もちろん、有線が絶対にだめということではありませんが、スモールIoTモノでの有線通信はまず採用されないでしょう。

「無線+インターネット」というとWi-Fi(もしくは 無線LAN)という言葉がすぐに浮かぶと思います。 しかしながら、Wi-Fiは コンピュータシステムにとって、ハードウェア的(必要メモリ量の増加)にも、ソフトウェア的(処理が複雑)にも負担が大きいのです。そして、Wi-Fiは高速通信利用を前提としていますので電力的負担も大きいです。

一方、スモールIoTを介して取得するセンサ等の情報は、通信速度が高速である必要はありません。更新レートも高速である必要ではなく、1秒間隔、1分間隔、場合よっては時間単位でよいケースがあります。

情報交換を行わない場合は、通信する必要がありませんので、電源供給を遮断することも可能です。したがって、通信管理と電源管理が細かくできる通信方式の方が好ましいことになります。

電源管理をこまめに行えて、消費電力を抑えられれば電池駆動を採用できるのはもちろん、電池の交換頻度を抑えることもできます。

と言うことで、無線と省エネには深い関わりがあります。

図5 : ワイヤレスベースのIoTイメージ

以上のことから、スマートIoTでは、無線であっても、Wi-Fiではなく、他の通信方式が採用されることが多いのです。もちろん、PSoC BLEもWi-Fi通信方式ではありません。

では、どんな方式なのでしょうか? ――続きは次回としましょう。

宇宙に行きました!!

プロフィール欄に書かれている「2016年12月、担当ユニットが一足先に宇宙に行き、地球を眺める。」、実現しました!!

12/9夜、種子島宇宙センターからこうとり6号の相乗り衛星として、国際宇宙ステーション(ISS)に向かって旅立たったStars-Cは、12/19 夕刻、ISSより衛星軌道に放たれ「はごろも」(衛星名称)となりました。

担当したのは、衛星全体からみればごく僅かな機能ですが、それでも、自身が手がけたものが宇宙に行き、地球を回っていると思うとワクワク感で一杯。運用期間は100日前後だと思いますが、無事使命を果たしてくれることを祈るばかりです。

最新情報を知りたい方は、Stars-Cの公式ツイッターをフォローして頂ければと思います。

その他の映像資料として、

もどうぞ。

著者紹介

飯田 幸孝 (IIDA Yukitaka)
- アイアイディーエー 代表 / PE-BANK 東京本社所属プロエンジニア

計測機器開発メーカ、JAVA VMプロバイダの2社を経て、2007年独立。組込機器用ファームウェア開発に多く従事。2015年より新人技術者育成にも講師として関わる。PE-BANKでは、IoT研究会を主宰。

モノづくり好きと宇宙から地球を眺めてみたいという思いが高じて、2009年より宇宙エレベータ開発に、手弁当にて参画。 制御プログラムを担当。一般社団法人宇宙エレベータ協会主催「宇宙エレベータチャレンジ2013」にて、世界最長記録1100mを達成。

宇宙エレベータ開発のご縁で静岡大学の衛星プロジェクトStars-Cに参画。2016年12月、担当ユニットが一足先に宇宙に行き、地球を眺める。