アマゾン ウェブ サービス ジャパンは6月1日から3日間にわたり、「AWS Summit Tokyo 2016」を開催した。100を超えるセッションが行われる同イベントでは、AWSクラウドに関する最新動向やさまざまな事例が紹介された。

本稿では、3日目に実施された講演「ファームノートの挑戦。Internet of Animalsで切り拓くこれからの農業」をレポートする。

掲げるビジョンは「牧場を、手のひらに。」

ファームノートは、「牧場を、手のひらに。」をビジョンに掲げるITベンチャー企業だ。農業の経営効率化を推進するクラウド型牛群管理システム「Farmnote」を開発・提供するとともに、「Internet of Animals」の世界を実現すべく、センシング技術の開発やAI(人工知能)の活用にも取り組んでいる。

ファームノート代表取締役 小林 晋也氏

ファームノート代表取締役 小林 晋也氏

講演には、ファームノート代表取締役の小林 晋也氏が登壇し、同社におけるクラウド活用事例が披露された。

小林氏が北海道帯広市で最初に起業し、スカイアークを設立したのは2004年のこと。同社は、CMSインテグレーション事業を主にMovable TypeやSalesforceの導入などで企業を支援する。

その経験を生かし、氏が2013年に始めた新事業がファームノートだ。同社が提供するFarmnoteでは、牧場に関わる全ての情報を”手書きのノートのようにかんたんに”扱えるようにすることがコンセプトとなっている。

同事業の背景として、小林氏は「北海道は全国トップの農業産出額を誇り、十勝では日本の牛乳の1割を生産しています。しかし、最近になって牛の数は減少しており、生産が不安定になっているのです」と北海道の酪農事情を解説。「そんな酪農家の仕事の効率を上げられたら」という思いから生まれたのが、Farmnoteなのだという。

経営状況をリアルタイムに見える化する、Farmnoteの3つの特徴

同システムの大きな特徴は3つある。まず、「すぐに誰でも使える」こと。Farmnoteは酪農家がこれまで使っていた紙のノートをデジタルデバイスに置き換えたもので、UIも酪農に特化している。例えば、酪農においては牛の発情を管理することがとても重要になる。そこで、Farmnoteではあらかじめ「発情ボタン」を用意。発情した牛を見つけたら発情ボタンをタップし、必要な情報を入力するだけで発情データを登録できるのだ。こうした酪農専門の機能が、酪農家にとっての魅力になるという。

また、2つ目の特徴は「クラウドを介して、いつでも・どこからでもデータを参照できる」ことだ。これにより、現場でスマートフォンを取り出し、目の前にいる牛の情報を確認するといったことも可能となっている。マルチユーザーに対応しているため、データをスタッフ同士で共有することも簡単だ。業種によっては当たり前にやっていることかもしれないが、アナログなやり取りが主体だった従来の酪農業では、こうしたやり方が普及していなかったのである。

3つ目の特徴は「予定と異常を教えてくれる」こと。すなわち、リマインダー機能である。例えば「今日は○頭発情する」といった牛の情報が通知されるため、それに合わせて実施すべき作業を忘れることがない。また、カスタムリストを作って牛を登録し、生産管理も行える。

これにより「牧場の健康状態」がわかるのもポイント。牧場経営において妊娠率は非常に重要で、妊娠する牛の頭数を増やすと生産性が上がることが知られている。Farmnoteでは登録した牛のデータを元に、将来の頭数の増減を予測した頭数推移レポートを作成・閲覧することも可能だ。

小林氏は、こうした考え方で経営状況をリアルタイムに把握することの重要性を語り、「牧場経営の見える化を進めるべきです」と提案した。

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