今年3月にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場したRoblox Corporation。"ゲーム版のYouTube"と呼ばれるゲーム「Roblox」を運営している。マルチプレイ対応のオンラインゲームを作成して公開でき、それらを基本無料で遊べる。日本での知名度はまだ低いものの、欧米では知らない小学生男子を見つけるのが難しいほど浸透しており、8月24日時点で時価総額が500億ドルを超えた。複数のAAAタイトルを持つElectronic Arts(約400億ドル)やUbisoft(約66億ドル)を上回っている。

その好調なRobloxに関して、Robloxエコノミーを分析したPeople Make Games(PMG)のYouTube動画「Investigation: How Roblox Is Exploiting Young Game Developers」(調査:Robloxが若いゲーム開発者をどのように搾取しているか)が議論を広げている。AppleのApp Storeの基本30%のストア手数料が高すぎると言われ、独占的な運営が批判されて訴訟に発展しているのに、Robloxはなんと約75.5%も得ているというのだ。開発者取り分はわずか約24.5%。それでも800万人を超える開発者がRoblox向けの体験を開発し、Robloxの体験は2,000万を超えている。「ブラックすぎるゲーミングプラットフォームなのに、なぜ?」というわけだ。ちなみにRobloxはゲームを"ゲーム"ではなく体験(Experiences)と呼ぶようになった。メタバースやコミュニケーション、仮想イベントなど、ゲームに限らない体験への展開を踏まえた呼び方だと見られている。

  • Robloxの開発者向けページの情報によると、Robloxの取り分は開発者(27%)よりも少ない26%、他はアプリストア(App StoreやGoogle Playなど)の手数料、ホスティング費用、プラットフォーム投資などに費やされている

    Robloxの開発者向けページの情報によると、Robloxの取り分は開発者(27%)よりも少ない26%、他はアプリストア(App StoreやGoogle Playなど)の手数料、ホスティング費用、プラットフォーム投資などに費やされている

さて、Robloxのゲーム収益化の仕組みはApp Storeなどの売り上げ分配とは異なる。Robloxでは全ての取り引きに「Robux」というゲーム内通貨が使われており、Robuxと現金の交換レートの差で手数料などが徴収される。

具体的には、プレイヤーがRobuxを購入する場合、交換レートは4.99USドルで400Robux、99.99USドルで10,000Robuxとなっている。では、逆に開発者がアイテムの販売などから得たRobuxをUSドルに換金する場合、100,000Robuxで開発者は約350USドルしか得られない。100,000Robuxを購入するには約1,000ドル(約10万9,000円)が必要になるのにだ。交換レートに大きな差がある。

しかも、現金への換金は100,000Robux(1,250USドル:約13万7,000円相当)から。マルチプレイヤーオンライン仮想ユニバース「Entropia Universe」は100ドルから、「Second Life」は10ドルからとなっており、それらに比べるとRobloxは開発者が現金収入を得られるまでのハードルが高い。さらに、Robloxで収益化プログラムを利用する開発者は月額4.99ドルからのプレミアサブスクリプションを契約しなければならない。

Robloxでは比較的簡単にゲームを作成して公開できるが、Robloxで頻繁に遊ばれるのはトップ200のゲームであり、2,000万以上のゲームがある環境でそこに食い込むのは容易なことではない。プレイしてもらうには、インフルエンサーに紹介してもらったり、またはRobloxの広告を利用するなどマーケティングも必要になる。PMGの動画では、11才の少年を含む複数のRobloxゲームの開発経験者がインタビューに応じている。Robloxでは誰でも簡単にゲーム開発をビジネス化できるように見えるが、資金力のある開発者に牛耳られた世界であり、収益化できるゲームを構築できる可能性は「ほぼゼロ」とコメントしている。

そんなゲーム開発者に過酷な環境なのに、なぜRobloxは2,000万を超えるゲームをホストできているのだろうか。まず、Robloxは欧米でコロコロコミックのような存在になっている。ティーンエイジャーや大人が下らないと思う漫画に小学生が爆笑するように、Robloxでは「なぜこれに…」と思ってしまうようなゲームに小学生が熱中している。例えば、スプラトゥーンもどきのペイントゲームがRobloxにはある。スプラトゥーンをプレイする年代にはもの足りないゲームだが、スプラトゥーンの操作や仕組みにまだついていけない子供にはむしろ"スプラトゥーンもどき"の方が楽しめる。

そんなゲームだから開発自体はそれほど難しくない。簡単にアイディアを形にできる。Robloxは物理エンジンのプロジェクトから誕生した。Robloxについて、2018年にマーケティング担当バイスプレジデントのTami Bhaumik氏が次のように説明している。

「子供達が自分の経験を発展させられる仕組みです。子供達が他の子供達のためにゲームを開発することが当初からの目的でした」

Robloxは収益化の機会を開発者に提供するゲーミングプラットフォームである前に、子供達がプログラミングやゲーム作りを学べる教育目的のプラットフォームであり、そのために必要なツールや環境を基本無料で提供している。それを維持していく費用をRobuxの仕組みから得ている。

しかし、デイリーアクティブユーザーが4,000万人を超え、ビジネス機会を求める開発者の参入が相次ぐようになった。そうした開発者の視点でこれまでのRobloxの仕組みは、ゲーミングプラットフォームとして開発者と共に大きな成長を目指せる環境ではない。

  • 昨年末、映画「レディ・プレイヤー1」に触発された宝探しイベント「レディ・プレイヤー2」がRobloxで開催された

Robloxで遊ぶ子供達の成長に合わせて、これからティーンエイジャーも満足できるようなゲームをプレイできるようになればRobloxの新たな可能性が広がる。だが、従来のコロコロコミックのような魅力は薄れる。LEGOは子供の知育玩具から購買力のある"大人のファン"を引き付ける製品に舵を切って事業を拡大させたが、Robloxはクリエイターエコノミーのインキュベーターのような存在であり続けるのか、それともティーンエイジャーや大人も夢中にさせる体験プラットフォームに変わっていく道を選ぶのか。岐路に立っている。