放課後に学校で子供を遊ばせたり、サッカーの練習の時など、雑談しながら待っている親の間で話題になることが多いトピックが「教育」。米国ならではと思うのが、勉強や習い事以外にパーソナルファイナンスを身につける方法で親が頭を悩ませていること。日本育ちの私は小学生の時に、おこづかいやお年玉を自分で管理するために自分名義の口座を郵便局に作らされた……と言うと、「それじゃダメだ」と返ってきた。「殖やしたり稼ぐことを知らずに節約だけ身に付けても不十分だ」と……、「エッ」と思ったが、その影響で日本人は大人になって個人金融資産作りでリスクを取らず、預貯金を重んじた会計になっているのかもしれない。それは良い面もあり、悪い面もあるが、今のように老後に向けた十分な資産形成が不透明になってくると、金融のチカラと怖さを早くに理解し、生涯にわたって経済的に豊かな生活を送れるように、彼らの言う"安全にリスクを取れるようになる金融教育"が大事なのかとも思う。
誤解のないようにつけ加えておくと、米国人に比べて日本人の金融リテラシーが劣っているとは思わない。米国の方が高かったらサブプライムローン問題なんか起きなかっただろう。むしろ、サブプライム問題の震源地になったことで、お金の流れや金融の知識といった金融リテラシーに強い関心を持っている人が増えているように感じる。
そんな子供にたくましい金融知識を持たせたがる米国で今、子供やティーン向けのバンキングサービスが急成長している。
JP Morganと提携する「Greenlight」がAndreessen Horowitzが主導する2億6000万ドルのシリーズD資金の調達を完了、評価額が23億ドルに跳ね上がった。2020年9月のラウンドから倍近い上昇だ。また、「Current」もAndreessen Horowitz主導のシリーズDで2億2000万ドルの資金を調達、評価額は22億ドル。こちらは前回のラウンド時の7億5000万ドルからほぼ3倍である。そして、「Step」がGeneral Catalyst主導のシリーズCラウンドで1億ドルを調達した。Stepには、決済フィンテックのStripe、俳優のウィル・スミスやジャレッド・レトといった著名人が投資している。また、Appleも4月20日に開催したスペシャルイベントで「Apple Card Family」を発表した。
今成長している子供やティーン向けの金融サービスがどのようなサービスかというと、ざっくり説明すると保護者が管理できるデビットカード/クレジットカード、そしてモバイルバンキングだ。Greenlightの場合、保護者がスマートフォンアプリを通じて、子供のカードにお金をチャージする。お小遣いのように毎月決まった金額の送金を設定することも可能。子供がお金を使った時にリアルタイムで通知を受け取ったり、買い物できる店を設定できるようにするなど細かく管理できる。「Greenlight Max」という未成年が投資に挑戦できるアカウントも用意している。
Currentは、Greenlight同様のサービスからスタートし、働く10代の若者向けの銀行口座という役割に拡大、そして個人用当座預金サービスも開始した。子供の年齢が上がるのに合わせてより機能的なバンキングサービスを利用でき、最終的には個人用当座預金へとステップを進めていける。暗号通貨のサービス導入も計画しているなど、モダンな金融サービスに軸足を置いたサービスだ。利用者数は300万人。
Stepはデビットカードとクレジットカードのメリットを組み合わせたサービスを実現しているのが特徴。ティーンエイジャーがカードの使い方やお金の使い方を学びながら、早い段階からクレジット履歴を積み上げられ、大人になった時に高いクレジットスコアからスタートできる。利用者数は150万人だが、その多くを過去6カ月で獲得している。
面白いのはこうしたサービスの利用が親から子供より、友達がStarbucksなどでの支払いに使い始めたのを見た子供が親にねだって広がっているということ。金融教育になると言われたら、親は同意せざるを得ない。
今の子供たちは現金を使わない生活に違和感がなく、ゲームで仮想資産にも慣れている。13歳以上でスマートフォンを持っていたら、おこづかいを現金でもらうよりApple Cashなどでもらった方が便利と思っている。むしろ、親の世代の方が近くに支店がないネット銀行やモバイルの金融サービス、仮想通貨の取り引きに抵抗を覚える人が多い。子供にお金の使い方を身に付けさせるという理由でApple PayやGreenlightなどを使い始めて、逆にそのメリットに親の世代が気づいて自分達もキャッシュレスやモバイルバンキングを活用し始める。親の世代の学びにもなっている。