米ハンバーガーチェーン最大手McDonald'sが、米小売り最大手Walmartのスーパー内店舗の多くを閉鎖する。4月9日にWall Street Journalが伝えた。

Walmart内のMcDonald'sは長年、買い物に付き合いたがらない子供の首を縦に振らせる理由になってきた。家族連れで食事するぐらい長居してくれたら、スーパーの売り上げもあがる。小売りとファストフードの巨人は1994年から米国を代表する互いのブランド力を利用し合い、3,570カ所あるWalmartのスーパーセンター内に、ピーク時にMcDonald'sは約1,000店舗を展開していた。それが今夏に約150店舗に削減される。

McDonald'sとWalmartの関係が悪くなったわけではなく、どちらかの業績の悪化でもない。新型コロナ禍にあって、どちらも事業は好調である。

だが、モバイルとオンラインコマースの時代を迎えて、目指す事業モデルやサービススタイルが異なり始め、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとしたビジネスモデルの見直しで袂を分かつ形になった。McDonald'sはモバイルとドライブスルーに力を注ぎ、Walmartは実店舗を持つ強みを活かしながらオンラインストアの成長を加速させる。

  • 決定倫理の学習を通じて、レストランごとに人気アイテムを表示するMcDonald'sのドライブスルーのデジタルメニューボード

    決定倫理の学習を通じて、レストランごとに人気アイテムを表示するMcDonald'sのドライブスルーのデジタルメニューボード

Starbucksの台頭で旧勢力になりかけていたMcDonald'sは、McCafeを展開したり、モバイルオーダーに対応して若い世代の利用客の取り戻しに努めていた。2018年には一部の店舗に、タッチ操作で注文と支払いを済ませられるセルフオーダーキオスクを試験的に導入。顧客の反応が良かったことから本格的に採用し始めた。また、2019年にはパーソナライゼーションやレコメンデーションの技術を開発するDynamic Yieldを買収した。ストアで探しものをしている顧客に対して、その人が興味・関心がありそうな情報を提示するAmazonのレコメンデーションのような機能をハンバーガーチェーンで実現しようとしている。全店舗の利用データを分析し、同じメニューを注文する人が共によく選ぶオプションを勧めたり、モバイルアプリやセルフオーダーキオスクで効率的にオーダーするのをサポートして顧客体験を高める。効率性が向上すれば、朝やランチの混雑する時間帯でも注文の行列が伸びることなく、次々にオーダーがさばかれる。ファストフードに求められる"より速く"を、より快適な体験で利用できるように改善している。

  • 専用のピックアップスペースで安全に、すばやく便利な体験で商品を受け取れる「エクスプレスピックアップ」

そして昨年、新型コロナ禍をきっかけにコンタクトレス(接触を抑えられる)な利用体験の導入に乗り出し、コロナ禍において売り上げの70%を占めるようになったドライブスルーを強化する店舗改革を打ち出した。利用者がオーダーをすばやく済ませられるようにメニューを見直し、注文と受け取りがボトルネックにならないようにドライブスルーレーンを再設計。一部の店舗では、オーダーを受ける役割に音声アシスタントを試験的に採用し始めた。それは人員やコストの削減を目的としたものではなく、調理や商品の受け渡し、清掃・管理、サポートなどに従業員を多く割り当てるリソースの再分配である。将来的には、モバイルオーダーのお客さんが店の近くまでやってきた段階で調理を開始して最高の状態で手渡せるエクスプレスピックアップ、アプリでオーダーしてすばやく抜けられるエクスプレスドライブスルー、店内飲食スペースのないドライブスルー/ピックアップ/デリバリー専門の店舗などの実現を計画している。

McDonald's専用の駐車スペースやドライブスルーがないWalmart内の店は、そうした店舗改革に対応しきれず、昔ながらのサービスのまま売り上げが下降していた。多くのWalmart店を閉鎖するのはビジネス的判断に徹したものである。

では、McDonald'sが撤退した後のWalmartのスペースがどうなるかというと、Walmart内にはピザチェーンのDomino'sが約30店舗を展開しており、Domino'sのほか、KFCやタコスチェーンのTaco Bellなども運営するYum! Brandsが関心を示しているという。

しかし、Walmartは家族向けのファストフードにこだわらず、この機会にユニークで、時代と地域性にフィットする活用方法の導入を考えているようだ。その1つがGhost Kitchens Brandsだ。ホットドッグのNathan's、サブマリンサンドイッチのQuiznos、シナモンロールのCinnabonなど、様々な外食ブランドのメニューをセントラルキッチンで調理して届ける。新型コロナ禍におけるデリバリーで成長したビジネス形態が実店舗展開を強化し始めた。Walmart利用者はモバイルや端末を使って注文して商品を受け取る。様々な外食チェーンが並ぶショッピングモールのフードコートで食事をするように、QuiznosのサンドイッチとCinnabonのシナモンロールを組み合わせて注文するというようなことが可能。他にも、Hissho Sushiが入るところもある。スーパー、企業、空港、大学などにスシ折を提供しているスシ卸売りの米国大手だ。ジャンクフード色のイメージを変えられ、近年のベントー人気にも応じられるものになる。

  • Walmart店内にオープンしたGhost Kitchens、仮想フードコートのようなサービスを提供する

WalmartからMcDonald'sが消えるのは、長年Walmartを利用してきた人達にとって大きな変化であり、”撤退”のマイナスイメージを思い浮かべる人が少なくないと思う。しかし、これは新型コロナ禍後の成長を目指した決別である。コロナ禍以前からモバイルやEコマースへの対応に取り組んできた2社にとって、コロナ禍の逆境が大胆な決断を下すチャンスになり、それを実行に移した結果、いち早い回復を実現している。

ワクチン接種の対象年齢が間もなく撤廃される段階に近づいて感染者数が減少し、米国では再オープンへの期待が高まっている。コロナ禍以前のようにビジネスを行えるようになったらドライブスルーやデリバリーは下火になるという声もある。そうなるサービスも少なくないだろう。だが、そうならないサービスもある。なぜなら、McDonald'sやWalmartが目指しているのは、コロナ禍以前のサービスより快適な体験を利用客が得られるポストコロナ禍のサービスだからだ。