ハンバーガーチェーンのWhite Castleが、Miso Roboticsの調理アシスタントロボット「Flippy」を試験的に導入する。採用の決め手は、調理場のスタッフの密を抑えられ、毎月2000ドルで休まず安定して働いてくれることだ。

Flippyはハンバーガーレストランのグリルやフライヤーの調理を自動化するロボットアームだ。Misoは2016年設立。CaliBurgerやドジャースタジアムとのパートナーシップを通じて実際の店舗に導入してもらいながらFlippyの開発を進めてきた。今年から本格的な展開に乗り出し始め、2020~2021年の目標としてファストフードチェーン大手との契約を掲げていた。中西部やニューヨーク地区を中心に13州に展開するWhite Castleに本格的に導入されるようになったら目標達成といえるだろう。新型コロナウイルスの影響でドライブスルーのみの営業を強いられているWhite Castleは、完全営業再開を見据えたオペレーションの見直しに着手しており、Flippyの効果に期待を寄せている。

Flippyには、3Dビジョンセンサーやサーマルセンサー、クラウドベースの機械学習技術が用いられている。ハンバーガーのパテを鉄板に置き、タイミングよく返し、焼き上がったパテをバンズに乗せる。鉄板の状態が悪くなったら、自分の判断でスクレーパーに持ちかえて鉄板を磨く。グリル前の調理をすべて任せられる。

  • ドジャースタジアムでチキンを揚げるFlippy、油が汚れたらかす揚げに持ちかえて油かすなど取り除く

    ドジャースタジアムでチキンを揚げるFlippy、油が汚れたらかす揚げに持ちかえて油かすなど取り除く

調理ロボットというと、ハンバーガーのCreatorや以前にこのコラムで紹介したZume Pizzaのように、すべての調理工程の自動化に取り組んでいる会社もある。そちらの方が話題性が高く、味は及第点ぎりぎりといったレベルでも、注文から受け取りまでが短時間でスムースだったり、スタッフの時給が高いためサービスが非常に良いといったメリットを実感できた。ところが、すべての調理を自動化するソリューションは苦戦を強いられている。食に関してはロボットが作る無機質なイメージを受け付けられない人が多く、自動化のメリットが評価されていない。今年1月にZumeがロボットピザ事業から撤退、今はフードデリバリーとそれに適したパッケージングを手がけている。

ロボットがすべてを調理するハンバーガーは、ロボットが調理できる範囲に料理の柔軟性が限られる。対して、Flippyのような調理工程の一部を自動化するソリューションは、ロボットが人をアシストする調理場になり、人が作っていた店の味を保ちながら自動化を取り入れることが可能だ。それでも、ロボットが厨房でパテを焼いていることに対するお客さんの心理はネガティブに働く。自動化で人件費を削減して利益を増やせる可能性があっても、ロボットの導入によって売上が下がるかもしれない。自動化が得策になるのかレストランにとっては悩みどころだ。

そうした状況が新型コロナウイルスの感染拡大の影響で変わってきている。飲食店も消費者も安全を優先するようになり、ロボットを活用するメリットを認めるようになった。例えば、22種類の食材からサラダをカスタマイズできるサラダバーロボットを開発・提供するChowboticsは、新型コロナ自粛が始まってから販売が60%上昇。同社の顧客である大学や病院だけではなく、グローサリーストア、シニア向け施設、国防省など様々な分野から問い合わせを受けるようになった。食材を自分で合わせられるセルフサービス形式のサラダバーがすべて閉じられ、それでもフレッシュな食材でサラダをカスタマイズしたいという要望は根強く、サラダバーロボットの需要が高まっている。

Miso Roboticsは、これから2年が調理の自動化に対する意識を変えられる大きなチャンスになると見なしている。自動化によってピーク時に混雑する調理場の密を抑えられ、ハンバーガー作りの作業をより正確に管理できるようになり、そしてより多くのスタッフを店内の衛生対策に充てられる。自動化は厨房スタッフの仕事を奪うのではなく、Flippyの導入をきっかけにファストフードのオペレーションを改善できる。このチャンスにプラス循環を起こせるように、同社は「2000ドル/月」にこだわったマーケティング戦略で勝負に出た。

2016年時点のFlippyの価格は初期費用だけで1台5万~8万ドルだった。自動化の可能性を試してみるためにレストランがポンと投資できるような金額ではない。年内に登場する新モデルは、レールを使ってより少ないスペースで柔軟に動けるため調理場に導入しやすく、1台2万~3万ドル+1500~2000ドル/月(サービス料金)で提供する。ハンバーガーのファストフードの場合、営業時間の長さや州の最低時給額で異なるが、グリルスタッフの人件費は4000ドル/月を超える。その半分のコスト、2000ドル/月に抑えられるなら、多くのレストランが調理ロボットの導入を検討するようになる。1台3万ドル+1500ドル/月(サービス料金)なら、5年間使い続けたら月々のコストが2000ドルを下回る。自動化に関心のあるレストランなら試してみたくなる。目標は、初期投資なし、2000ドル/月のサービス料金のみでの提供。機能を省くことなく、導入の柔軟性が増すように小型・低コスト化を進め、2021年の実現を目指す。