11月の第4木曜日 (今年は11月23日)は感謝祭、米国では元日やクリスマスと同じように誰もが仕事を休む重要な祝日である (翌日のブラックフライデーから年末商戦が始まる)。そしてローストした七面鳥を食べる"七面鳥の日"でもある。たとえば今年の場合だと、米国では2億4000万羽以上の七面鳥が育てられ、その内の4500万羽が感謝祭に食べられた (そして1カ月後のクリスマスにも2200万羽以上がローストされる)。
短期間にそれほど大量の七面鳥を用意できるのは、新鮮な七面鳥ではなく、1羽まるごとをすぐにローストできるように加工して、それを冷凍した状態で供給しているから。普段食べる鶏には成長ホルモンや抗生物質を一切使わず、放し飼いで飼育されたフレッシュなものにこだわる消費者が増え、供給の対応も進んでいる。それに比べると、感謝祭の七面鳥は質や安全が二の次になっている。こだわれば、こだわれるけど、とにかく感謝祭の卓上に七面鳥がないのを避けたい。特別なものだけど、つい手近なもので済ませてしまう。日本のクリスマスケーキに近い感じである。
加工冷凍された七面鳥は食肉大手によるものがほとんど。その業者のブランドはあっても、どのような農場で、どのように飼育されたのか確認する術はない。そのため、近年では習慣的に七面鳥を食べることを批判する声が高まっている。大量供給による安全性への不安もあるし、感謝祭に食べきれなかった七面鳥が「レフトオーバー・ターキー」と呼ばれて奥さん達を悩ませる。そんなに余るぐらい大量の七面鳥を絞めるのは「いかがなものか」というわけだ。
そんな"七面鳥の日"批判に対して、食肉大手の1つであるCargillが七面鳥の安全の透明性を高めるために、今年一部地域のサプライチェーン管理にブロックチェーン技術を採用した。同社は複数の農場から仕入れた七面鳥を処理加工し、「Honeysuckle White」などのブランドで出荷している。該当する地域でHoneysuckle Whiteの七面鳥を購入した消費者は、商品に付けられたタグに記載されているコードを、HoneysuckleWhite.comに用意された「Enter Tranparency Code」欄に入力するか、またはSMSで送信すると、飼育された農場の名前や所在地、その業者のこれまでの事業履歴といった情報を確認できる。
飼育業者の情報を消費者に提供するだけなら、ブロックチェーンを用いなくても、データベースを作成して消費者が調べられる仕組みを用意するだけで実現できる。だが、残念ながら、ここ数年の間に世界で食品不正が蔓延し、食肉業者が一方的に提供する情報だけでは、食品偽装に対する消費者の疑念を払拭できない。
ブロックチェーンはネットワーク内で発生した全ての取引を記録する「分散型の台帳」を持つ。ネットワーク全体の合意によって台帳に記録された情報の正しさが保証されるので、一度記録された飼育業者や流通のデータは、誰であっても後から変更 (改ざん)することはできない。消費者が信頼できる情報になる。食品汚染が起こった際、これまで汚染場所が特定されても、影響を受ける商品の追跡には時間が要した。全ての取引が永久的に記録されるブロックチェーンプラットフォームで、サプライチェーンの要所に記録場所を設けておけば、食品汚染の影響が及ぶ商品を速やかに追跡できるようになる。消費者も自身が購入した商品が回収の対象であるか、簡単に確認できる。ブロックチェーンの採用は消費者に安心を提供し、食品の安全を高める施策になる。
Cargillによると、2014年時点で七面鳥購入者の44%が生産・流通に関する透明性を求めていた。実際、私も毎年、感謝祭で冷凍の七面鳥を焼く度に、特別な食事を間に合わせで済ませているようなもやもやした気分になっていたので、その気持ちは分かる。今年ウチの近所でCargillの追跡タグが付いたバターボールを見つけることはできなかったが、新しい取り組みへの興味だけではなく、純粋に食材選びとして、手に入れられるなら追跡できるものを買いたいと思った。
今年8月、IBMが食品サプライチェーンの大手企業から構成されるグループと共同で、大規模なブロックチェーンのコラボレーションに取り組むと発表した。Dole、Golden State Foods、Kroger、McCormick、Nestle、Tyson Foods、Walmartといった食品関連の大手が参加している。CargillのHoneysuckle Whiteブランドの七面鳥はWalmartで販売されており、Cargillのブロックチェーン技術採用はIBMが提案した食品産業グループの新たな取り組みの一環である。食の安全に関心を持っていても、一般消費者の多くは「ブロックチェーン採用」と言われて、それで何が変わるかイメージできないと思う。感謝祭に使う冷凍七面鳥の飼育業者が「見えるようになった」というのは、ブロックチェーンの可能性を広く一般に、効果的に周知させるものになったと思う。