5月2日に米Microsoftが発表した薄型軽量ノートPC「Surface Laptop」(米国で6月15日に発売)に触れてきた。もしAppleのMacBook Airがそのまま強化されていたら、こうなっていたという印象だ。薄くて軽く、キビキビと動作し、コネクションはUSB Type-CではなくUSB 3.0、そしてMacBook Airに搭載されなかった高解像度ディスプレイを備える。多くのMacBook Airユーザーが望み、実現しなかった(していない)MacBook Airが形になっている。

ただ、見方を変えると古くからあるクラムシェル型のノートPCである。ハードウエアデザインとしてはSurface ProやSurface Studioが登場した時のような新世代感はない。Appleが新しい世代のノートPCとしてMacBook Airを順当進化させずにMacBook Proに歩を進めたように、これから先を見据えたらコネクタはUSB Type-Cだし、Surfaceを冠するならSurfaceペンが使いやすいデバイスであるべきという人も多いと思う。

キーボード面にアルカンターラファブリックを採用しているのがSurface Laptopの特徴、触り心地は良いが、長く使い続けるにはしっかりとしたケアが必要な印象

だからといって、Surface Laptopがデバイスとして進化していないかというと、Microsoftが主張するようにSurface Laptopの最大の魅力はバランスである。薄型・軽量でパフォーマンスが良く、そしてバッテリー駆動時間は14時間以上だ。ここで言うパフォーマンスとは、最新のCPUを搭載して処理能力に優れているという意味ではない。一言で表すと「体験」である。たとえば、Surface Laptopは閉じた状態からディスプレイを開くと、すぐに使える状態になる。ノートを開くようなアクセスの良さだ。これまでのノートPCのインスタントオンが指紋認証が普及する前のスマートフォンのようなインスタントオンだとすると、Surface Laptopのインスタントオンは指で触れてすぐにアンロックできる指紋認証普及後のスマートフォンのような快適さである。

2010年に第2世代のMacBook Airが登場した時、すでに市場に存在したモバイルノートと一見大きな違いはなく、強い個性は感じなかった。ところが、実際に使ってみると、軽快に動作してバッテリーの持ちも良い。パフォーマンスの犠牲が許容されていたそれまでのモバイルノートにはないモバイル体験を実現しており、それがMacBook Airの大ヒットにつながった。Surface Laptopも同様に、触れてみて実感できる体験の違いに価値がある。

Surface Laptopのバランスの良さは、Microsoftがハードウエアとソフトウエアのどちらも設計し、相乗効果が生まれるように最適化した結果だろう。ただし、その一環として採用されている「Windows 10 S」が議論を呼んでいる。アプリケーションのインストールがWindowsストアに限られ、そしてデフォルトのブラウザをMicrosoft Edgeから変更できない。安全性とパフォーマンスの維持にフォーカスしたWindows 10である。

Surface事業を率いるPanos Panay氏はCNETのインタビューに対して「人々は『最新のプロセッサは?』というようなことを求めるが、価値のある変更は必ずしもハードウエアの変更を必要としていない」と述べている。Surface LaptopにWindows 10 Sを組み合わせたMicrosoftのメッセージは明らかだ。安全とパフォーマンスを優先した体験がモバイルPCの進むべき方向なら、デバイスにインストールされるアプリはWindowsストアで管理されるのが望ましい。

ただ、今日のWindowsストアにはWindows向けの人気ソフトが揃っているとは言いがたく、Windows 10 Sで今、Surface Laptopを使い続けるかと問われたら、私の答えも「否」である。だから、MicrosoftもWindows 10 Proに変更するオプションをWindows 10 Sに用意したのだろう。しかも、期間限定でWindows 10 Proへの切り替えを無料にする。おそらく来月にSurface Laptopを手にして、Windows 10 Proに切り替える人が続出するだろう。でも、その結果、Surface Laptopの優れたバランスが損なわれるかもしれない。

Microsoftは今年、そうしたWindowsストアを巡る停滞した状況を変えようとしている。安全と安定したパフォーマンスの価値を伝えることで、少しずつユーザーのWindowsストアに対する意識を変え、Windowsストアを優先するユーザーを増やしながら、ソフトウエアメーカーのWindowsストアへの参加を促す。そんな好循環を生み出したい。そのきっかけとして安全を重視する教育市場からWindows 10 Sを展開するのは賢い戦略である。

今年のホリデーシーズンには、ARMベースのSnapdragonを搭載したフルWindows 10デバイスが登場する。ARMサポートの狙いとしてMicrosoftは効率的なバッテリー動作と接続性を挙げていたが、ARMベースのデバイスの長所を活かすために、Windowsストアに制約させるWindows 10 Sが条件になっても不思議ではない。これまでPCを使ってきたユーザーにWindowsストアを認めさせるのは容易なことではない。だが、それができたらARMベースのフルWindows 10デバイス、そしてMicrosoftがスマートフォンで再び勝負できる可能性が見えてくる。Windowsストア強化の成否によって、ホリデーシーズン、来年以降のWindows 10への期待感が変わってくる。