アクションカメラのGoProが270人の人員削減を発表した。この発表を受けてGoProの株価は上向いたが、同社は昨年に全社員の約15%に相当する200人以上の削減を行っている。昨年登場したHERO5は同社の製品開発力が感じられる新製品だっただけに、GoProユーザーとしては2度目の削減が、その強みに影響しないか気になる。

ここ数年のGoProの苦戦を振り返ると、コンテンツサービスをもう1つの柱に成長させられなかったのが痛かった。業績悪化の大きな原因の1つがコンテンツサービスであり、リストラ策においてオリジナルコンテンツを制作するエンターテインメント部門が閉鎖されたが、うまくいかなかったとはいえ方向性は間違っていなかった。近年カメラ市場では構造のスマイルカーブ化が進んでおり、その変化に対応できる会社や企業が成長し、逆の場合は苦戦している。GoProは敏感にスマイルカーブ化に反応したものの、残念ながら成果を出せずに後者に甘んじている。

1990年代の初めにPC産業の変化に関して唱えられた「スマイルカーブ」だが、その後のインターネットによる産業構造の変化を予見するものになった。

スマイルカーブは、1990年代にAcer創業者のStan Shih氏が唱えた電子機械産業の収益構造の変化を表す言葉だ。初期のパソコン市場ではパソコンを組み立てて販売するだけでも高い収益を上げられていたが、市場が成熟するにつれて低価格競争が起こり、そうしたビジネスの収益率は悪化する。そしてIntelのようなパソコンの進化に関わる部品や技術の開発を手がける企業やMicrosoftのようなOSを提供する企業、ブランド力を持ったPC企業などに利益が集中し始める。その変化をY軸を付加価値、X軸をバリューチェーンの上流工程から顧客に届ける川下へと続くグラフで表現すると笑っている口のようなU字型のスマイルカーブになる。

パソコン市場が成熟してくると、パソコンを組み立てて販売するだけのビジネスは収益率が悪化、Macのようなブランド力のあるパソコンが良好な収益を維持。

カメラ市場の場合、スマートフォンのカメラ機能の高性能化で、カメラメーカーが廉価帯や普及価格帯のカメラで強みをアピールしにくくなった。一方でスマートフォンのカメラ機能は画質でカメラに迫り、撮影した写真をすぐにレタッチ・加工できる手軽さ、クラウドサービスに直接アップロードして共有できる接続性、アプリを通じた様々なサービスとの融合など、様々な付加価値をユーザーに提供している。スマートフォンには負けないカメラの強みとして、ハイエンド帯の圧倒的な画質が残されているが、いかんせん高価なハイエンド製品の需要は限られる。

今日のカメラ市場の下流において付加価値を提供して成功しているのがInstagramやSnapchatである。今月初めに運営会社Snapの上場が大きなニュースになったSnapchatは、消えるコンテンツ、フィルター/ステッカー/落書き、ライブストーリーなどサービスとソフトウエアを強みとしている。Spectaclesというメガネ型のビデオカメラ搭載カメラを販売しているが、それもSnapchatというサービスを活かすハードウエアである。そんなサービスとソフトウエアのSnapが自身を「カメラ会社」と表現するのは、スマイルカーブ化する今日のカメラ市場の川下において、ソフトウエアとサービスこそがカメラの価値となっているからだ。

今日のカメラ市場では、川上においては撮像素子など要素部品を提供する会社、川下においてはスマートフォンで便利に撮影できる時代に即したサービスやアプリを提供する会社が好調。

GoProとSnapを比べて「ハードウエアに勝るソフトウエア」と指摘する人が少なくないが、そう言い切れるほど単純ではない。たとえば、Appleは主にハードウエアから収益を上げているハードウエアの会社といえるが、ソフトウエアやサービス、デザインから付加価値を引き出してハードウエアの販売を伸ばしている。市場の成長と共にスマイルカーブ化に向かう変化にうまく対応できているかがポイントなのだ。

SnapとGoProは、スマイルカーブ化への対応で明暗が分かれる適例になったが、スマイルカーブは電子機器産業だけではなく、広くIT関連産業において産業構造の変化と成長するビジネスを見極めるモデルになる。たとえば、今週大きな話題となったIntelによるMobileye買収も、IT化する自動車市場の未来を見据えたスマイルカーブ化への対応と考えると153億ドルという大型買収の成立に納得できる。

スマイルカーブ化はいずれ自動車市場も変える?