家具・インテリアショップのWest Elmが好調だ。売上が右上がりの伸びで、新しい店舗は順調に立ち上がる。この追い風に乗って同社は全米くまなく店舗を展開する……と、多くのアナリストが予測していた。ところが、CEOのJim Brett氏は、そんな大方の予想を笑い飛ばすような一手を打ってきた。
West Elmは2002年にWilliams-Sonomaの子会社としてサンフランシスコに設立された。最初はカタログから始まり、ニューヨーク市ブルックリン区のダンボ地区に1号店をオープン。店内にはモダンでスタイリッシュなアイテムが実際の家のようにディスプレイされていて、ライフスタイルセレクトショップとして評価されている。
面白いのは同じWest Elmでも、店舗によって雰囲気が異なることだ。それはオーナー店主のように、個人の裁量で店作りや商品の調達を決められる権利が各店舗のマネージャーに与えられているためだ。ローカリゼーションを重んじており、マネージャーはそれぞれの街の文化にあった商品をチョイスし、またローカルアーティストからも調達してユニークな店を作り上げている。
West Elmとしては、同社が扱う家具やインテリアに興味を持つ人にもっと商品を届けたい。もちろんオンラインストアも展開しているが、実際に質感などを確かめて購入したいという人は多い。オンラインストアにはオンラインストアの長所があるが、オンラインストアでは満たされない体験がある。Appleが実店舗のApple Storeを展開するのに似ている。
そこで冒頭の問いである。West Elmはローカル小売店をもっと増やすべきなのか?
CEOのBrett氏は小売店を増やし過ぎると、West Elmのようなブランドは急速に輝きを失うと考えた。ブランドの哲学やコンセプトを深く理解して顧客をもてなせるマネージャーやスタッフが追いつかなくなる。そこで小売店を増やす代わりに「West Elm HOTELS」というブティックホテル(デザイナーズホテル)の経営に乗り出した。
宿泊施設にはWest Elmの家具とインテリアが用いられ、West Elmの店舗と同じようにマネージャーがその地域の個性を引き出すようにデザインする。宿泊客が宿泊中に使用して気に入ったものは、アプリまたはWebサイトから購入できる。宿泊料は175ドルから。ブティックホテルとしては手頃な料金になるが、宿泊料はロケーションによって異なり、スイートルームは400ドルを超える。最初のホテルは2018年後半にオープンする予定だ。
West Elm HOTELSはショールームのような役割を果たすが、West Elmは顧客が商品を試せることを重視しているのではない。ブランドに顧客を引き付ける”One Of A Kind”の体験を提供すること。だから、West Elm HOTELSは、ホスピタリティ管理&開発のDDKとのパートナーシップで展開する。
West Elmの実店舗を訪れる顧客は、店のデザインや雰囲気を楽しみ、スタッフの接客に満足してリピーターになる。商品を購入するためなら、オンラインストアの方が便利なことが多い。空間と体験で違いを生み、顧客との接点になるのがWest Elmの小売店の役割である。それはホテルも同じであり、だからホテルにもWest Elmの小売店と同様の効果が期待できる。
実はWest Elmだけではなく、高級家具・装飾品のRestoration Hardware、オシャレなスポーツクラブEquinox、オバマ大統領が愛用していることで知られる高級時計のShinolaなども2~3年内にブティックホテルを開業をする計画だ。分野は異なれど、いずれもブランドを確立しており、顧客との強いつながりを重視している。こうしたブランドが今、体験を軸に様々な形でブランドの魅力を広げようとしている。
ホテル経営のいろはを知らない門外漢が安易に手を出して成功するはずがないという人もいる。たしかに、予備知識なしで、高級ホテルチェーンのサービスを期待して泊まったら戸惑うこともあると思う。だが、トラベル産業でAirbnbが急成長を果たせた大きな要因の1つが”ユニークな宿泊体験”である。West ElmやEquinoxのホテルと聞いただけで一度は泊まってみたくなる人は多いと思うし、門外漢だからこそ従来のホテルでは真似できない体験を作り出せる。