WSJ.comのパーソナルテクノロジーコラムニストJoanna Stern氏が公開した「Snapchat Explained…Using Snapchat」という約3分のビデオが分かりやすいと評判だ。ビデオは左側にスナップを固定して、右側でその作り方を説明するようになっている。確かにSnapchatを始める前にこれを見ておいたら、いきなり挫折せずに済みそうだ。

Snapchatはスマートフォンで写真やビデオを共有したり、メッセージを交換できるサービスである。「一定時間で消えるメッセージ」が特徴。メッセージが残らないから、勢いで恥ずかしいメッセージを送ってしまっても大丈夫……そんな感じで、ティーンエイジャーを中心に順調にユーザーを増やしてきた。ComScoreによると、2014年末時点でSnapchatユーザーの45%が18歳~24歳。34歳以下なら71%に達する。ティーンエイジャーや大学生のコミュニケーションツールとして、かつてのFacebookのような存在になっている。

若い層への浸透では圧倒的なSnapchat(出典: comScore Media Matrix)

当然、そんなツールなら使ってみたいと思うおじさん達が出てくる。でも、使いこなせない。ユーザーインタフェース(UI)が、これまでの常識に照らし合わせたらユニーク過ぎるのだ。UIの原則、例えばひと目見ただけで機能や可能なアクションが分かる「見つけやすさ」とか、何が起こるか予想できる「フィードフォワード」などにことごとく反している。起動したら、いきなりカメラの撮影画面が現れ、意味不明なボタンが散らばり、何をしたらいいのか、一体これで何ができるのかさっぱり分からない。1月16日時点のApp Storeのレビューは、210,000件中で1つ星が83,500件だ。

しかし、ティーンエイジャーや大学生の間に広まっているのは事実である。UIの原則は普遍的なものだから、若い層にとってもSnapchatのUIは分かりやすいものではないはずだ。違いがあるとしたら、コミュニケーションツールに対する関心の差だろう。SnapchatのUIを理解するハードルは高いが、友達同士で教え合えば乗り越えられる。今よりもシンプルだったころにSnapchatはティーンエイジャーに浸透し始め、それから口コミで使い方が広まり続けてきた。一方でUIの分かりづらさが他の世代の参入を阻み、これまでにない若い層のコミュニティが形成されている。

今年の大統領選はSnapchat選挙に?

SnapchatのUIは分かりづらいが、ひどいアプリではない。ユニークなアプリであり、そしてユニークなサービスである。使い慣れてくると、メッセージが残らないこと(= 証拠隠滅)だけで好まれているのではないことが分かる。

Snapchatには、Twitterのフォロワー数やFacebookの「いいね!」のようなユーザーの利用を促すための仕掛けが組み込まれていない。これは機能がまだ実装されていないのではなく、意図的なものだと思う。インタラクションがすべてなのだ。

ユーザーはフォロワー数やいいね!のような数字に神経をすり減らされることなく、気軽にスナップを交換できる。スナップやメッセージのやり取りがすべてであり、ユーザーは見てもらえるスナップや面白いスナップを作ろうとクリエイティビティを発揮する。分かりにくいUIは、使い慣れてみるとインタラクトしやすいUIであり、こっちの方がUIとして正解なんじゃないかとも思えてくる。

Facebookが大学生のSNSから台頭したように、若い層に普及したネットサービスはやがてネット全体に広まっていくと期待できる。だから今、Snapchatに世代を超えた注目が集まり始めている。またSnapchatは、最も効果的に若い層にリーチできるツールである。マーケティングツールとしてはもちろん、今年は大統領選挙の年であり、「2016年の選挙は、Snapchat選挙になるか?」というような議論も広がっている。

2016年はSnapchatの飛躍の年になるだろうか?

SnapchatのCEOであるEvan Spiegel氏が「The Late Show with Stephen Colbert」に出演したときに、Colbert氏は「Snapchat選挙か?」と尋ねた。18歳~24歳の層は、CNNやFox NewsよりもSnapchatを通じて共和党の討論会をフォローしていた。その質問に対して、Spiegel氏は以下のように答えた。

「Snapchat選挙などではない。でも、政治家の声を有権者に届け、また人々が限られたニュースからだけの知識ではなく、もっと豊かに政治について学べる機会を作り出せていることには満足している」

若い層はSnapchatを通じて選挙に関する情報や意見を交換している。でも、それはSnapchat選挙ではない。つまり、Snapchatを効果的に利用している政治家は少ないということだ。SnapchatはSnapchat内でのインタラクションがすべてであり、Snapchatで効果的にメッセージを伝えるにはSnapchatユーザーとしてアピールしなければならない。しかも、ただSnapchatに入り込むだけでは、誰にも見られない広告を貼っているに過ぎない。

スナップはオプトインであり、詳しく見るかは受け取る側次第。興味を引かれたらストーリーを開くだろうが、そうでなかったら開かれることなく、やがて24時間後には消えていく。そんな手間をかけてまでSnapchatを選挙運動に利用しようという政治家は少ない。

昨年Facebookの買収提案を拒否、独自の成長を目指すSnapchat

だからといってSnapchatをあきらめるのも、もったいないことである。選挙に限らずブランドのマーケティングでも同様だが、インタラクションがすべてのSnapchatにおいて、スナップを開く人はコンテンツに興味を引かれ、自らの判断で動いている。そうしたユーザーにリーチするには、クリエイティブなコンテンツを作り、そして提供し続けなければならない。時間も労力もかかるが、強い関心を持つ人と1対1または1対多で関われる可能性の価値は大きい。

今は主に18~24歳にリーチする手段として注目されているが、Stern氏の解説ビデオが出てきたように世代を超えてSnapchatユーザーが広がりそうな兆しが見える。時間はかかると思うが、そうなるとSnapchatのユニークなバイラル効果は決して軽んじることができない存在になる。