米国で最も人口比率が大きい世代をご存じだろうか? 日本人の感覚だとベビーブーマー世代が思い浮かぶが、米国ではその子どもの世代であるミレニアルズがベビーブーマーを上回っている。1980年代から1990年代の中頃に生まれて、今は大学生から30代半ばまでの世代だ。さらにミレニアルズに続く、今のティーンエイジャーを中心としたいわゆるZ世代もベビーブーマーを上回る規模になっている。ミレニアルズとZ世代は、ブロードバンドが当たり前のように存在する環境で成長してきた。ネットリテラシーの高い世代であり、モバイル/スマートデバイスを使いこなすことに長けている。そんな世代が米国では、単純に数で消費動向を左右する存在になっている。

9日の米Appleの「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus」の発表を見て、真っ先に思い浮かんだのが「ミレニアル世代・Z世代向けへのシフト」だ。2007年に初代iPhoneが登場してからしばらくはPCを母艦に同期して管理するスタイルが長く続き、画面サイズが4インチのiPhone 5sまでのiPhoneは携帯電話を片手で操作するコンパクトさを重んじたデザインだった。それはPC・フィーチャーフォン世代にとって、なじみやすい使い方であり、デザインだった。

でも、もし今ミレニアルズに毎日持ち歩きたいモバイルデバイスを設計させたら、どうなるだろう。通話よりもメッセージ、コミュニケーション手段としてビジュアルを駆使し、ブラウザではなくアプリでインターネットを利用する。ゲームは専用機ではなくタブレットかスマートフォン、音楽や映画はストリーミングという世代である。そんなライフスタイルにフィットするスマートフォンとなると、これまでのiPhoneのようなデバイスにはならなさそうだ。

スマートフォン市場を開拓したiPhoneはフィーチャーフォン世代に一気に浸透したために、逆にフィーチャーフォン世代が持つハンドヘルドデバイスの常識にしばられているようなところがあった。画面サイズが最たる例で、iPhoneユーザーからは片手で操るには大きすぎるiPhone 6/6 Plusに対する不満の声も少なからず聞こえてくる。でも、ミレニアルズやZ世代が最大のユーザー層になった今、それらのライフスタイルを前提にしたものにスマートフォンがシフトするのは自然な進化である。

9日の発表会でAppleはiPhone 6/ 6 Plusの説明に長い時間を割いたものの、通話機能にほとんど触れなかったことが示すように、"電話としてのスマホ"の優先順位はかなり低い。アプリやブラウザ、メディア機能、カメラの使いやすさが求められる。だから、今回iPhone 5s/5cも引き続き販売されるのは廉価市場対策に加えて、フィーチャーフォン世代対策という意味合いも含まれるように思う。

4.7インチの「iPhone 6」と5.5インチの「iPhone 6 Plus」

Androidスマートフォンはとっくに大型化に踏み出している。だからといって先行するAndroid端末がミレニアルズの心をつかんでいるかというと、それには疑問符が付く。そもそもAndroid端末の大画面化はメーカー同士がスペックを競い合った結果であって、ミレニアルズ以下の世代を意識したものではなかった。画面が大きいほど良いということではなく、今あるテクノロジを使って、今のスマートフォンの使われ方に最適なサイズは何かという問題だ。iPhoneは周回遅れの大型化参入になったが、大画面とバッテリー動作時間のバランス、ストリーミング世代が求めるネットワークサポート、大きな画面を使いやすくするUIといった完成度の高さは、さすがAppleと思わせる。

革新の実現に飢えるミレニアルズ

ミレニアルズ以降の世代の特徴はネットリテラシーだけではない。モノの考え方や社会意識の違いも上の世代と異なる。彼らは9/11や2つの戦争を体験し、そして社会に出るタイミングで金融恐慌と大きな不況に直面した。人口の増加で大学が不足して学費が高騰し、卒業した時には不況で職を得られずに借金だけが残るという苦労を味わった人も多い。そうした経験から個人の価値を重んじ、大手企業の看板を盲信しない傾向が強い。例えば、食べ物に新鮮な食材やオーガニックを選ぶ人が多い。

1981年から20000年に生まれた10,000人以上からデータを集めた「The Millennial Disruption Index (MDI)」によると、ミレニアルズが最も不信感を抱いているのが「銀行」である。自分たちの体験から大手金融機関の威光を信用せず、コミュニティに根付いたサービスを提供していれば小さな地方銀行であっても、その価値を評価する。MDIでは過半数が大手銀行のサービスに「違いはない」と答え、3人に1人が「90日以内に銀行を変える準備がある」としている。でも、地銀はサービスを利用できる地域が狭かったり、オンラインサービスが乏しいとうようなデメリットも多い。だから、そんな短所を解消するようなスタートアップによる改革に期待し、またApple、Google、PayPal、SquareといったIT企業の金融サービスにも高い関心を示している。

スマートフォンはすでに成熟したデバイスと見なされ始めているが、それはPC・フィーチャーフォン世代のものさしで測った場合だ。若いミレニアルズはもっと貪欲に、先週に紹介した「ソフトウエアが世界を飲み込む」ような変革を求めている。そこにイノベーションのチャンスがある。6月にAppleが開催したWWDC 2014で、CEOのTim Cook氏はiOS 8を「アップストア発表以来、最大のリリース」と表現した。iOSなのにアップストア発表以来とは妙な例えだが、ミレニアル世代やZ世代がユーザーの中心になったスマートフォンの第二幕の幕開けと考えたら納得できる。