今回は住宅と数学の関係についてお話をうかがいます。ひとくちに住宅といってもとても幅広く、家の設計や土地や間取りを考えるためにも数学の知識が必要です。そして、ローンのようなお金の問題も関係してきそうです。 それらのお話をまとめて聞きたいということで一般財団法人の住まい文化研究会の代表理事・主筆、石川新治さんにインタビューさせていただきました。
-石川さん、本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
-今日は住宅と数学ということで、お話をおうかがいさせていただきたいのですが、住宅って設計からお金の話まで幅広いお話になりそうですね。
人類が定住生活を始めたときから住まいの「歴史」がありますし、気候や生活習慣に基づいた「デザイン」もあります。実際の設計においては「構造計算」では数学が不可欠ですし、「材料」や「空調」などにも数学があります。
-法人のお名前は「住まい文化研究会」ですよね。どのような業務を行われているのでしょうか?
主な業務として「おうちのはなし」という住まいの情報誌を発行しています。
日本の住宅建設の現状や、家を建てたり、リフォームしたりするときに利用できる制度、デザインやインテリアの考え方、建設費内訳の見方など、幅広い情報を提供しているんです。
-どんな方に向けて発信しているんですか?
主に地域建設企業を応援したいというコンセプトで発信しています。大手にはできない地元に密着した手厚いサポートができる地域建設企業は、顧客への説明能力や資料の提供など、まだまだ足りない部分も多いんです。 家を建てるお客さまへの資料として、そこをカバーしたいという思いがあります。
-なるほど。そういう資料としては数学的な材料が必要になりますよね。
そうですね。構造や材質などはもちろんですが、ローンなどの例はわかりやすいかもしれません。
たとえば、消費税が8%にあがりました。消費税が増える部分もあれば、ローンで戻る税金もあります。そんな計算もしながら、プランづくりという図形のパズルを解くのに思案しています。しかもたくさんの解の中から、より美しいものを発見しようと必死です。
-確かに数字への理解がないと、とてもじゃないけど説明できませんよね。
ただ、すべてを数学として説明できないのも住宅なんです。法人名にも入れている「文化」というものがそれでしょうね。代数を使わない、算数のような考え方が必要になる気がします。
-算数ですか。
算数って文章題が多いですよね。数学のように数字や数式で話すには、互いに相応の基礎がないとなかなか通じないものです。でも、小学校の算数では文章で解くことを教わっています。だからお客さまには数学ではなくて、算数でお話ししてあげるのがわかりやすいんですよ。
-数字は説得力になるけれども、たしかに数字だけじゃカバーできないことも多いですよね。
数字は具体的なのかとよく思うんですよ。確かに、決められた範囲の中で決められたものを示すにはとても端的なものだと思います。でも、数学って抽象的な学問だっていうじゃないですか。
-確かにそうですね。
だから数字や数式での分析はもちろん大事ですが、人が頭の中に持っている概念のような、抽象的なものを感じ、話すことでコミュニケーションはつながるんじゃないでしょうか。住宅は数値だけではなく「文化」が大事なのです。むしろ、その「文化」の方が数学っぽいのかなぁ。
-「住まい文化研究会」に込められた意味が、なんとなくわかってきました。ところで石川さんは数学が得意でいらしたんですか?
高校生のときの理系と文系どちらに向いているかを判断するテストでは、どちらにも向いているという結果でした。建築に行けば理系も文系にも進めるということで進路を決めました。構造計算も好きでしたよ。
そして仕事って因数分解のようなものですよね。キーになる因数をつかんでから勉強すると、理解が深まります。因数分解の感覚というのは、とても役に立つことだと思います。
-因数分解って確かに考え方の基本のようなところがありますよね。
そうですね。物事の現象を因数で分解したら、とりあえず、その因数から攻めてみれば良いってこと。すべてに通じるものだと思います。
-ありがとうございました。本日は貴重なお話で勉強させていただきました。
理系的な部分も文系的な部分も両方あるというのが住宅なんですね。やはり、文系理系という分け方によって失われてしまうものはとても多い気がします。 今回の石川さんのお話のように、どちらも相互に関係し合って成り立っているものだということを、あらためて考えさせられました。住宅を構成するさまざまな要素を考えていくのも、因数分解のようなものかもしれません。 石川さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
今回のインタビュイー
石川新治(いしかわ しんじ)
一般財団法人 住まい文化研究会
代表理事・主筆
1959年生まれ、東京育ち。
明治大学工学部建築学科卒業後、住宅メーカーにて設計や営業、宣伝などを行う。
2011年に独立し、一般社団法人「住まい文化研究会」を設立。
このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。
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