スポーツは得意じゃなくても、スポーツ選手データを見るのが大好きな人っていますよね。今日はそんなスポーツデータを扱っている会社、データスタジアム株式会社におじゃまします。ビジネスとしてスポーツデータ、数学のにおいがしますね。データスタジアム株式会社のベースボール事業部アナリスト、金澤慧さんにお話をうかがいます。

-本日はよろしくお願いします。まずは御社の事業について教えていただけますか?

はい。データスタジアム株式会社はもともと野球チームを強くするために、野球に関するデータ作りを中心に行なっている会社でした。現在は、野球、サッカー、ラグビー、バスケットボールを中心に、幅広くスポーツの分析システムを取り扱っています。データを統計的にみて分析し、評価指標や試合予測につながるデータを作るのです。たとえば、「チームをどうやって強くするか」や「対戦相手がどんなチームか」などです。

そのデータをプロ野球チームやJリーグクラブ、そしてメディアに提供しています。メディアに提供したデータは、テレビの試合速報やPCサイト、携帯アプリなどに使用されます。

また、試合終了後は細かいデータを分析して、新聞や雑誌コラムなどに提供します。最近は野球のテレビ中継などで投手の配球位置などが表示されますよね。あれは弊社から一部のデータを提供させてもらっています。

-スポーツデータってそんなに広く活用されているのですか。金澤さんはその中で野球を担当されているんですよね?

はい、私はアナリストとして野球を担当しています。野球のデータはもともと身近なものですが、データでスポーツを見るのが好きな人は意外と多いので、潜在的な需要がまだありそうだと感じています。

-なるほど。スポーツのデータって他にもさまざまなことに応用できそうですね。

そうですね。私たちは統計関連の学会とも共同で研究を行っていて、弊社のデータを統計教育に役立てる試みをしています。大学の演習講座にもなっているんですよ。たとえば、実際の野球選手のデータを使って、この投手を右バッターと勝負させるにはどこに投げればいいかということを分析しました。

また、ある特定のサッカー選手がフィールドの中で最もプレーしているエリアはどこなのかを明らかにする、という研究もあります。これはとても新鮮な視点で、私たちもいろいろと勉強させてもらっています。

-教育にも役立てているとは、すごいですね。

教育機関との関わりはけっこうあるんです。大学の研究室に選手データを貸し出して分析してもらったりもしています。たとえばある選手がAチームからBチームに移籍したとき、いままで対戦しなかったAチームの選手との対戦が発生しますよね。その場合の未知の成績をデータで予測します。

-本当に研究所のようなお仕事ですね。プロの試合で使われているソフトなどはあるんですか?

私もアップデートに関わっているのですが、選手データの集計が簡単にできる「ベースボールアナライザー」という弊社のソフトがあります。これはプロチームだけでなく、アマチュアのチームでも使用して頂いています。

-そのソフトはどのように使うのでしょうか?

選手の名前を選択すると、その選手の今年のデータが出てきます。

左右球種別分析画面(ホームからセンターへの配球図)

打球分析画面

-これはすごい情報量ですね!

これを見ればその選手の配球や飛球の統計データが分かります。たとえば投手がどの球種を得意にしているかを知ることができたり、戦術的にあの選手をどう打つか、あるいはあの選手にどう打たれないか、ということをカウント別に分析することができたりする、それがこのツールの強みですね。

-しかし、これだけのデータ量があると、整理して実践的に落としこむのがたいへんそうですね。

そうですね。実際の現場でデータを生かすということになると、あまり複雑な話を選手にしても伝わらないんですよね。この場面ではストレート、この場面では変化球、といったように、断定してあげることのほうが重要なんです。数値をアドバイスに変換するというところが、チームの力量になってくると思います。

-どう伝えるか、というのはとても難しい作業ですよね。言葉の選び方や説明の順序など、そこにもテクニックが必要です。

私たちも言語化しやすくなるように、データを加工する作業を求められます。テレビなどはとくに分かりやすさが重要ですし、言葉で補足することも大切ですからね。

-金澤さんは統計の勉強もされていたのでしょうか。

大学は経済学部でしたので、統計はある程度はやったという感じですね。その後、筑波大学の体育研究科(現・人間総合科学研究科)を修了しました。学生時代は地域スポーツクラブの研究を行なっていて、その際に統計を使うことはありました。

-数学はお得意でしたか?

算数は得意だったと思いますね。ただ、高校からは文系だったので、数学はそこまで深くやったわけではありません。ただ、確率などは好きでしたよ。

-そういえば、金澤さんご自身も野球をやっていらしたんですか?

はい、高校まで野球をやっていました。大学でも野球サークルに入っていました。だからプレーヤーとしてデータを取ったりするのは好きでしたね。

ただ、高校野球のレベルだと対戦相手のデータはなかなかないので、おもに自分のパフォーマンスを改善するためにデータを使っていました。そこは、毎回対戦相手が決まっているプロとは違うところですよね。

-本当にデータ野球にどっぷりですね。いつごろから野球データに興味を持たれていたのでしょう?

イチローと野村監督のID野球が対戦した頃から興味はあったので、20年ほど前、小学生だった頃になりますね。当時から資料集めなどをやってみたりはしていたので、現在もそれがそのまま仕事になっている感じがあります(笑)。

-そんなに昔からですか! 現在のご職業はまさに天職なんですね。

今は、ウェブという誰もが自分の分析を発表できる場所があり、データ自体も集計しやすい環境があると思うので、その意味でスポーツデータを扱う場は広がっているでしょうね。スポーツデータが楽しめる時代になってきたと思います。

-新しいスポーツの楽しみ方ができる時代ですね! 本日はありがとうございました。

取材をしてみて、金澤さんは自分で新しい職業を作り出した人のように思いました。スポーツが好き、そして統計にも興味がある、その2つの領域を結ぶことによって生まれた、新しい仕事をしていると言っていいのではないでしょうか。数学というのは他の分野と結びついて実践的な力を発揮する側面がある、本当にいろいろなことに興味を持つことは大切なんですね。

金澤さん、スポーツデータと数学の貴重なお話をありがとうございました!

今回のインタビュイー

金澤 慧(かなざわ けい)
データスタジアム株式会社
ベースボール事業部アナリスト
1984年福島県出身。
筑波大学大学院体育学研究科(現・人間総合科学研究科)を2009年に修了後、大学時代にアルバイトをしていたデータスタジアム株式会社に入社。
趣味は高校野球観戦。

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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