失敗を糧にして成功へ - そのSNSは何のため?

Nextiを公開して2日間でなんと1,000人、4日間で2,000人が参加した。「トライアルの段階で期待感を高めておいたので、面白そうと思った人がいたのと、招待されて面白いと感じた人たちが口コミで広めてくれたためでしょう」(富松氏)。社内ポータル上での告知なし、口コミのみで広がっていった。

ただし、この成功もいきなり手に入ったものではない。「1カ月に1件くらいしか質問がこない、誰も見ないQ&A……など、多くの過去の失敗をよく知っている人がリスペクターにいました。それらの反省を踏まえたおかげで無事スタートできたのだと思います」(中沢氏)。

成功に至った理由として、運営チームの意識が高かったこともあるし、環境面、つまり全社員がパソコンを持っているなど基本的インフラが整っていたという面もある。しかし一番大事なことは、「なぜSNSをしたいのかという目的意識」と中沢氏は主張する。「目的のための手段がSNSではない会社もあるでしょう。運営は誰が担当するか、招待制などをどうするかなどは、社風とか問題意識、目的意識と直結するので、そこをはしょっていきなり作ってしまうと失敗すると思います」。

スモールスタートでパッケージ利用

SIerでもあるNTTデータであれば、自社で社内SNSを開発することも可能だったが、「今回はユーザとしての立場にこだわった」という竹倉氏。選んだパッケージは他社での導入事例も多い「ビートプロ」(ビートコミュニケーション)

使用製品はビートコミュニケーションのビートプロだ。自社で作ることも考えたが、スモールスタートでできるだけ早く始めたかったため、既成パッケージを導入することにしたという。「機能はオーソドックスなものがあれば良いと割り切って、むしろ使い方やサイトの雰囲気を決めるのに時間を使いたかった。あくまでユーザーの立場で、自分たちが欲しいと思うSNSを実現することに注力しました」(竹倉氏)

さまざまなパッケージ商品を比較検討し、費用面や機能面、数千人から1万人単位の規模で使っても動くパフォーマンスと実績を重視して選んだという。「SIの会社であり社員の要求水準が高いので、高負荷時のレスポンス悪化やサーバダウンは避けたかった。ビートコミュニケーションは当時、唯一負荷試験をしていました。今でもまったくストレスなく動作しています」(同氏)

Q&Aで業務も改善 - Know-Whoが身近な情報に

「Q&A」は何でも質問ができるコーナーだ。使い方がわからず数日間放置されていたので、リスペクターズがお手本的に書いていった。一番最初の質問は「最近誉められたことありますか?」というもの。これに対し、「誉める文化がない」「誉めることは大事だ」などと多くの社員が盛り上がった。結局、サクラ的行為は実質3、4日で終わり、パワーユーザーが現れて自然に回り出した。いまだに1日1件以上の質問が出続けており、回答も6、7件はつく。さまざまな立場の人が質問や回答をしており、回転のスピードも速く、この仕掛けのおかげで部署をまたがって瞬時に情報を集めることができているという。

使い方はとくに決めず、自由な発想に任せた。そうするうち、当初設定していなかった使われ方もされるようになった。ある人が、Q&Aで「ペットボトルのキャップを集めると世界の子どもにワクチンを贈れるプロジェクトがある」と呼びかけたところ、賛同者が集まりコミュニティ化したという。その結果、2カ月間で2万5,000個のキャップが集まったそうだ。

Q&Aは、業務にも役立っている。業務上で知りたいことがあった時は"Q"の形で投げかけることで、他の社員たちから回答が付き、それを元にお客様にスピーディに回答ができるようになったのだ。回答のひとつひとつは重厚ではないが、「○○さんが知っている」「××部署に資料がある」のように、" Know-Who情報"が積み重なることで、結果的に答えに素早くたどり着けるケースが多い。ほかにもナレッジマネジメントのサイトはあるのだが、うまく回答にたどり着くこともできない社員もいる。そんなときにQ&Aを使えば詳しい人が見つかりやすいため、若手社員が利用するケースも多いそうだ。

Q&Aは、トップページの最上段という"一等地"に新着の5件が出るようになっている。オン/オフ関係なく出てくるので、敷居が低くなる効果もあるという。「社内にはQ&A専用サイトもあり、その分野のスペシャリストが回答してくれていたのですが、組織としての責任上、上司にも見てもらってからの回答となるため、時間がかかっていました。これまであったさまざまなナレッジマネジメントツールは、そもそも多くの社員の目に触れにくかったことが活性化しない最大の理由だと考えています」(竹倉氏)

人脈強化に効果あり

Nextiができたことで、他の面でも効果があった。たとえば、社内で初対面の人と打ち合わせがある場合などは事前に調べておく。略歴や趣味、人脈などを見るうち何らかの共通点が見つかるので、話のきっかけに使うのだ。また、打ち合わせで一度でも一緒になったことがある人なら、Nextiで仲間申請しておくと、たとえ1年会えない場合でも、つながりができて相談しやすくなる効果もある。人脈の強化に役立っているというわけだ。

「社内でのロールモデルの発見にも使われているようです」と中沢氏は語る。「1部署の人数は20 - 30人ですが、女性はそのうち1割くらいしかいないため、気軽に相談できる同性の先輩が近くにいないことが多くありました。しかしNextiなら、出産などのときもモデルとなる先輩女性を見つけることができるのです。各職場にばらばらにいるだけだったのが、今は女性しか入れないコミュニティなどで話し合うことができています。人事部などに聞くこともできますが、『その制度は実際に使った?』『使ってみて実際どうなの?』ということを聞ける場所として、活発に利用されていますね」。

さらに理解を深め、グループSNSへ

一度問題になったのは、自分のプロフィールにプロフィール写真として不適切な画像を使用していた人がいたことだ。「その人の人脈リストを見ると知り合いの知り合いだったので、お願いして注意してもらいました。管理者から直接注意などはしませんでした。周知は結局しましたが、注意の仕方にこだわったのです。結局、不適切な画像の使用は自浄作用でなくなりましたね」(富松氏)

また中沢氏は、「部署的に認知のムラがあるので、情報発信する人にもっと増えてほしいですね。また、今後はNTTデータ単体ではなく、NTTデータグループまで広げていくことが可能か、その場合どういうやり方がよいのかについても考えたいと思っています」と言う。また、現場の部課長があまり入っていないため、理解が進んでいないのも今後の課題だ。

今後、年代や会社というセクショナリズムを超えて、社内SNSが今以上に活用される日を楽しみにしたい。