日本初の通信機器メーカーとしても知られる電子部品・通信機器の大手メーカー沖電気工業(以下、OKI)にも社内SNSが存在する。どのように活用され、どんな効果を上げているのか。ユビキタスプラットフォームカンパニー ユビキタス技術第二部 堀田正利氏、同塚本牧生氏に話を聞いた。

たこつぼ化の解消に「CoP」

OKIの社内SNS導入を牽引した堀田正利氏

2005年、研究部門のナレッジアセスメントを実施してわかったことがある。技術者が「たこつぼ化」していたのだ。情報は持っていても出さないし共有もしない。そもそもOKIがカンパニー制になったのは、2000年くらいのこと。プロダクトでつながっているカンパニーどうしこそ交流があるものの、そうでなければ隣のカンパニーでも何をしているのかもわからない状態だった。それぞれのカンパニーの中で、技術者は話す者もいないまま、たこつぼ化するしかなかったのだ。

これを問題視し、2006年には、カンバニー横断ソフトウェアビジョン作成ワーキンググループ(WG)が作られた。研究部門行動変革WGも結成され、いかにしてナレッジマネジメントを行うかが話し合われた。勉強していく中で、見つかった考え方がある。エティエンヌ・ウェンガーの実践コミュニティ(Community of Practice、通称CoP)、つまり、あるテーマや関心、問題などを共有し、持続的な相互交流を通じて、ある分野の知識や技能を深めていく人々の集団のことだ。

「これこそまさにSNSだと思いました。たこつぼ化を解消するためにも良い方法だと思ったのですが、そのときは負けてしまって。勝ったのは、ビジョンを元にしてオフサイトミーティング(職場での立場や肩書きを抜きにして、気軽に真面目な話をするミーティングのこと)的な話し合いをしようということでした」(堀田氏)。

そのころ、研究所には、技術者が労働時間の20%を自分の好きな研究に当てられる「ハッピーフライデー制度」、別名「技術者天国制度」が導入された。堀田氏がそれを利用して社内SNS作りに取り組もうとしたところ、SNS作りを業務にするよう上層部から通達がやってきた。社内SNS上でサービスの宣言をして反響を確認し、事業所の会議室で週1回開かれる"サロン"で議論を重ねながらアイデアを形にしていき、良いものができたらサービスとして開始しようということになったのだ。これが、OKI社内SNS「OK!SNS」の始まりとなった。ここでの成功を踏まえ、現在は、「Crossba(くろすば)」(「cross」は「交」の意、「ba」は「場」の意)という企業向けSNSパッケージとして商品化もされている。

OKIの"技術者天国"構想。既存のコミュニティをベースに、異なる部署/カンパニーに属する技術者たちが、いかにナレッジを共有できるようにするかがポイントだったという

クライスラーでも採用された実践コミュニティ"CoP"。部門ではなく、関心/興味がある分野で技術者どうしがつながれるようにする

「お楽しみ」にしたくて招待制に

OKI社内SNSである「OK!SNS」は、2007年3月から構築し始め、6月にオープンした。対象はOKI本社とグループ企業全体なので、最大で2万人強となる。そのうち、現在は2,000人くらいが参加している。割合は、OKIが55%、グループ会社が45%だ。年齢比は20代が2割で、30代/40代は3割ずつ、50代以上になると少なくなる。「アクティブユーザーはほぼ毎日ログインしています。また、全体の3 - 4割は書き込みをしています。未投稿の人たちも60%近くいますが、発言する割合は比較的多いと言っていいかもしれません」(塚本氏)。

ファシリテータの1人でもある塚本牧生氏

「"お楽しみ"にしたかったので、あえて招待制にしました。あらかじめ少ない人数で最初にコンテンツを作っておき、じわじわと人を増やしていくやり方を取ったのです。社内mixiと言われており、1人入るとその周りに一気に広がる傾向にありますね」(堀田氏)。

ファシリテーターは4人くらいおり、塚本氏いわく「最初は意識的に発言していましたが、盛り上がっているので、今はあえてする必要がありません」と言う。OpenPNEを利用して自作し、一部カスタマイズして、ソーシャルニュースやアンケート、ファイルの共有機能などをつけて使っている。ちなみに、ソーシャルニュースはDiggによく似た仕組みを持つPliggを利用している。

コミュニティの利用は業務と趣味とが半々だ。業務系での使われ方は、やはりソフトウェア技術者の情報交換が多く、Q&Aも新技術に関してが多い。 運営開始から1年経ち、全社横断プロジェクトや、チームや部署での利用が増えてきたという。

"CoP"は社員には内緒!?

堀田氏の考えは、「暗黙知はカジュアルなコミュニティでこそ生まれ育つ」というものだ。「実践コミュニティ(Community of Practice)を作り出すことが目的だったのですが、いきなり大上段でCoPを掲げても難しいし、利用する側は引いてしまうと考えた」という。

そこで、最終目的については社員には言わず、face-to-faceでのコミュニケーションが大事という部分をアピールして導入したという。「社内SNSは、社歴が長くて電話一本で仕事を進められる人、つまり社内人脈の知識がある人には要らないものでしょう。しかし、そういう知識を持たない新入社員などには意味を持ちます。ただ、秘密にしてあると言っても、すでにこのことはメディアで話しているので、それを見た社員には『聞いてないよ!』と思われるかもしれませんが(笑)」

カジュアルなコミュニケーションこそ大切

OKI社内SNS「Crossba」のホーム画面。mixiによく似たトップ画面で、カジュアルなイメージ

堀田氏いわく、「会社のオフィシャルサービスではないところが大事」という。「合理化の嵐で失われたものがあります。カジュアルなコミュニケーションにこそ、その失われたものがあると思ったのです。オフィシャルサービスになると、昨日食べたものなどを気軽には書けなくなってしまう。そこで、社内SNSはあくまで、"ボトムアップで生まれたカジュアルコミュニケーションを提供するボランティアの場"としたのです」

しかし、ただのアンオフィシャルと違うのは、社長公認を取っておいたことだ。つまり「オーソライズされているがオフィシャルではない」ところがポイントなのだ。社長公認であることが、上の世代などへ浸透させるには重要な鍵となる。「オーソライズしておいたことで、マネジメント層の地位の人が招待してくれるようになりました。そうなることで、信頼性が高まります。技術者層は技術者である自分から呼んだりもしましたね」

OKIの社内システムはすべて統一IDで入れるようになっている。しかし、社内SNSはログインIDをわざと変えた。インフォーマルさを強調するためだ。イントラなどのオフィシャルサイトなどでの宣伝をしていないのもそのためだ。ニックネームはつけられるが、利用は実名性。通常はニックネームしか出ないが、本人ページには、名前や所属などが会社のデータベースから引っ張ってきて表示されるようになっている。書き込みの内容にはとくに制限はなく、自身の責任の下に書くようにとされているそうだ。

次回は、社内SNSを普及させるために堀田氏らが採った"あの手この手"について聞く。

【基本データ】

  • 特徴: mixiに似せた棲み分けSNS
  • 使用製品: OpenPNE
  • 使用時期: 2007年6月
  • 利用者: 登録ユーザ数2,060名、アクティブユーザ約570名(2008年7月時点)。OKIとOKIグループ会社社員すべてが対象
  • ファシリテータ: あり(4名)
  • 参加方法: 招待制
  • アクティブ率: アクティブユーザ(全体の約35%)はほぼ毎日ログイン。コミュニティ数約300、業務と趣味ちょうど半分ほど。ヒット数約9,000ページ/日、投稿数約250投稿/日、累計投稿数約7万8,000(2008年7月時点)