企業のITインフラやさまざまなITサービスを実現するうえで「サーバ」は欠かせない存在で、企業が求めるIT人材として知っておきたい必須知識の1つでもあります。
本連載では、「サーバとはいったいどのようなものか?」に始まり、利用方法や種類などの基礎的な知識とともに、セキュリティ対策や仮想化、サーバレスなど効率的にサーバを利用・管理するうえでのポイントといった、情報システム担当者の実務に役立つ話題を紹介していきます。
連載第5回は、NTTデータ先端技術の田﨑公平さん(監修:佐々木 亨さん)に、「オンプレミス」「ハウジング」「ホスティング」「クラウド」という4つの利用形式について解説してもらいます。
カスタマイズ性の高いオンプレミス、運用負荷軽減するハウジング
動画配信サイトやニュースサイトなど多種多様なサービスから、企業で利用する基幹システムまで、その基盤となるシステムにはサーバが利用されています。しかし、「サーバを利用する」と一口に言ってもいくつかの形式が存在します。
オンプレミスは、サーバを設置する場所まで含めて管理する形式のことです。企業が所有するサーバルームまたはデータセンターで物理サーバが管理されていることを意味します。そのため、電源の確保・部屋の気温調整・通信速度の担保などの管理は大変ですが、サーバの性能も含めて自由にカスタマイズできる柔軟性の高さが特徴です。
ハウジングは、専門の事業者が管理するデータセンターに物理サーバを設置する形式のことです。電源の確保や部屋の気温調節などの管理を事業者に任せることができるので、オンプレミスと比較して運用負荷を軽減することができます。ハウジングもオンプレミスと区別されず、オンプレミスと呼ばれることがあります。
ホスティングは、サーバをレンタルする形式のことです。オンプレミスやハウジングでは物理サーバを購入して所有しますが、ホスティングではレンタルという形で仮想化されたサーバを利用します。サーバの仮想化技術によって、1台の物理サーバ上で複数のサーバOSを起動することが可能となっています。1つの物理サーバを複数のユーザで共有することもできるので、コストを抑えられます。
クラウドは、インターネットを介してサーバOSを利用する形式のことです。オンプレミス・ハウジング・ホスティングとは異なり、クラウドではネットショッピングするかのように気軽に、かつ簡単にサーバOSを利用することができます。また、サーバOSを起動していた時間だけ支払いが発生する従量課金方式のサービスが一般的です。
サーバの利用形式を必ずしも1つに絞る必要はなく、オンプレミスとクラウドを併用した「ハイブリット構成」にすることで、オンプレミスのカスタマイズ性とクラウドの利便性を併せ持つシステムを作ることも可能です。
導入スピードが早いホスティングとクラウド
サーバ導入までの流れを比較すると、オンプレミス・ハウジングとホスティング・クラウドの大きく2つに分けることができます。
オンプレミス・ハウジングではサーバを購入・配送、ラッキング、OSインストールの工程は同じです。両者の違いとしては、物理サーバを設置する場所が異なります。ハウジングではデータセンター事業者と契約することで物理サーバを設置する場所を確保しますが、オンプレミスでは会社所有のデータセンターもしくはサーバルームを使用するため、サーバルームの拡張やラックの新設など事前準備に時間がかかるケースがあります。
対して、ホスティング・クラウドでは事業会社と契約することで、サーバOSを利用することができます。ホスティングでは利用申し込みをしてから実際に利用可能になるまで待機する必要がありますが、申し込みから1日以内に利用開始できるサービスもあるため、オンプレミス・ハウジングと比較すると導入スピードは早いと言えます。
クラウドではクレジットカードなど決済情報の登録が完了したら、すぐにサーバOSを利用することが可能となるため、最も導入スピードが早い形式になります。そのため開発や動作検証としても適しており、検証段階から実際のシステム開発へシームレスに移行することができます。昨今クラウド利用が増加している背景には、サーバの調達時間を短縮し、不要となったらサーバを即時停止できることがあります。
注意したいサーバ利用者の責任範囲 – SaaSは遵守する基準が制約に
最後に、サーバ利用者にとって重要な考えである責任範囲について説明します。責任範囲とは、サーバ利用者と契約を結んだ事業者とで分担した運用やセキュリティ対策に対して責任を負う範囲のことを指します。
オンプレミスでは自社で管理しているためサーバルームを含むすべてが責任範囲になります。そのため電源や空調管理だけでなく、サーバルームの指紋認証による入退室管理などのセキュリティ面も責任範囲に含まれます。
対して、ハウジングではサーバルームの管理は事業者が行うため、物理サーバ以上が利用者の責任範囲になります。またハウジングではデータセンターに運用担当者が常駐しており、サービスによっては障害発生時に初動対応してもらうことも可能です。特に24時間稼働させるシステムの場合は、オンプレミスだと自社で運用体制を敷くことが難しいため、ハウジングが採用されるケースが多いでしょう。
ホスティングでは利用者が物理サーバをレンタルするため、物理サーバより上のOSやケースによっては仮想化などのソフトウェア全般が責任範囲になります。専用サーバではなく、1つのサーバを複数人でシェアする共有サーバを使用する場合はクラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)と同じ責任範囲になります。
クラウドではOS、ミドルウェア、アプリケーション、データが対象となり、4形式の中では最もサーバ利用者の責任範囲が小さいです。さらに、クラウドでの責任範囲は利用するクラウドサービスによって異なります。IaaSはOSとミドルウェアも責任範囲に入りますが、PaaS(Platform as a Service)はアプリケーションとデータのみ、SaaS(Software as a Service)はデータのみと、サーバ利用者の責任範囲が小さくなります。
一見、責任範囲が最も狭いSaaSのほうが、サーバ利用者の運用負担が少なく、最適な選択肢のように見えますが、オンプレミスであれば利用できる機能がSaaSでは利用できないなどの制約も発生します。例えば、データ保護の観点で国内にデータを保管する要件がある場合、データの格納場所を指定できないSaaSは利用できません。そのためサーバ利用を検討する際には準拠するべき法律やコンプライアンス、機能も含めて、どの利用形式を採用するか考えなければなりません。
ハイブリッド構成はいいとこ取り? 幅広い知見が必要になる運用面の課題も
サーバ利用者目線で見ると、クラウドはOSより上のレイヤーの運用に専念できるため、オンプレミスなどと比較して運用負担が少ない形式です。クラウドのシェアが広がっている背景には、サーバ管理者の運用負担が軽減されているからだと言えるでしょう。ただし、責任範囲とサーバ構成のカスタマイズ性はトレードオフの関係になるため、どの形式でサーバを導入すべきかについては、利用ケースごとに十分検討する必要があります。
責任範囲とカスタマイズ性を両立させるのが、オンプレミスとクラウドによるハイブリット構成です。しかし、ハイブリット構成ならではの課題も存在します。
例えば、オンプレミスとクラウド間でレイテンシの小さい通信を求められるケースでは、オンプレミスサーバを設置するデータセンターの場所から検討することもあります。運用面ではオンプレミスとクラウドの両方の知見が必要になるため、運用コストが大きくなる場合もあります。
このようにサーバの形式を選択するためには、導入スピード・システム要件・法律・コストなどさまざまな面から判断する必要があります。
執筆:田﨑公平(たさきこうへい)
NTTデータ先端技術に入社してから、AWS(Amazon Web Services)を用いたシステム開発に携わり、クラウドシステムの構築から運用保守まで経験。クラウドの特性を活かし、クラウドシステムにおける運用保守の自動化を推進。現在はオンプレミスシステムのクラウドシフト案件に従事。
NTTデータ先端技術 Altemista(アルテミスタ)テクノロジーコンサルティング室 デジタル推進担当
監修:佐々木 亨(ささきとおる)
天体物理を専攻し、博士号を取得。研究活動中に利用していたサーバに興味を持ってNTTデータ先端技術へ入社。オンプレミスのシステム開発経験を経て、自社のクラウドを利用したマネージドサービスの立ち上げを経験。現在はクラウドを活用したシステムの開発提案から保守運用までマルチに従事しつつ、後進の育成に注力している。
NTTデータ先端技術 Altemista(アルテミスタ)テクノロジーコンサルティング室 デジタル推進担当