AI半導体で世界市場を席巻するNVIDIAを猛追するAMDが注目されている。来月5日に予定されている第2四半期の決算発表を前にして、株価がじりじりと上昇している。

かつてCPU市場を独占した世界最大の半導体ブランドIntelを追撃したAMDは、現在では結果的にx86アーキテクチャーCPU市場をIntelと2分する存在となっている。そのAMDが現在ターゲットとするのが生成AIの爆発的成長によって、AI半導体の寵児となったNVIDIAだ。

興味深いことに、AMDとNVIDIAのGPU市場での関係は、AMDとIntelの関係に似ている。どちらの市場でもAMDが強力な2番手として追いかける存在だということだ。この2年間のNVIDIAの成長ぶりはすさまじく、追うAMDにとってNVIDIAの背中は小さくなるばかりであったが、対抗製品のロードマップが強化されるにつれ、AMDがNVIDIAのシェアを徐々に奪いつつあるのではないかというのが、来月に予定されている決算発表への期待だ。

2番手のマーケティングを見事に成功させたAMD

Intelが全盛を誇った1990年代はAMDにとっては非常に厳しい時代であった。x86アーキテクチャーCPU市場にフォーカスし、Intelとの真っ向勝負を選んだAMDではあったが、当初は製品/製造の両分野でIntelの後追い状態で苦戦が続いた。

当時のAMDは「2番煎じ」、「負け犬」などの言葉で罵倒され、AMDに残された唯一のマーケティングは「Intel製品と同等スペックで25%安い」、という価格勝負の厳しいものであった。

当時Intel互換製品を提供するブランドは10社近くあったが、AMD以外はすべて市場から脱落していった。マーケティング・メッセージで25%安いと謳ってしまえば、実際の営業現場での取引ではそれ以下の価格でやっと買ってもらうのが精一杯だからだ。それでも顧客がAMD製品を買う理由は、Intelの完全な市場独占を許してしまえば価格はさらに上がるだけだ、という危惧を抱いていたからだ。

  • 「Am486」のウェハ

    Intel互換CPUの百花繚乱時代のAMD製品「Am486」のウェハ

この状況を大きく変えるきっかけになったのが、独自開発のK7コアによるAthlonの登場であった。AMDはIntelとのハードウェア互換性を捨てて、独自の技術による実性能での挑戦に大きく方向転換した。Intel互換の制約を受けない自由な設計で性能が向上し、以前のメッセージから進化して「値段は同じだが25%性能が高い」、に変わった。

  • K5シリーズ
  • K6シリーズ
  • K7(Athlon)が登場するまでAMDを支えたK6シリーズ/K5シリーズ

この違いは大きく、確固とした技術に裏打ちされたマーケティングが成功する事例となった。その後AMDが切り込んだのはサーバー市場だった。AMDが開発したのはK8コアのOpteronだったが、コンシューマー市場よりも遥かに保守的な企業系市場では、当時業界標準となっていたIntelのサーバーCPUの独占状態に割って入るのは簡単ではなかった。

そこでAMDは目標をシェア20%と設定した。シェア20%ということは裏を返せば「5社のうちAMDを採用する顧客は1社」、ということである。そこに現れたAMDの力強い味方が独自設計のSPARCアーキテクチャーからx86への方向転換を図っていたサン・マイクロシステムズ社であった。現在ではオラクルに買収されてしまったが、当時のサンマイクロはインターネットを支える基盤システムで、サーバー界では強力なブランドであった。AMDを採用するサンマイクロが企業サーバー市場で成功すれば他の顧客もAMDを検討せざるを得ない、という考え方でサンマイクロと共同のマーケティング活動を開始した。効果はてきめんで、それまでかたくなにIntelしか採用していなかったHPやDELLがサンマイクロに対抗するためにAMDを採用した。

  • 当時、ハイウェー101に立てられたSUN Solaris + AMD Opteronの野外広告

    当時、ハイウェー101に立てられたSUN Solaris + AMD Opteronの野外広告 (著者所蔵イメージ)

2番手のマーケティングを見事に成功させたAMDのCPU製品は結局ほぼすべての顧客に採用され、現在ではx86CPU市場を2分する存在までに成長した。

新たなターゲットをNVIDIAに据えるAMD

昨年、AMDのCEO、Lisa Suは「今後のターゲットをNVIDIAとする」、と高らかに宣言した。グラフィック半導体市場で常にNVIDIAを追う強力な2番手であったAMDだが、生成AIの分野にいち早く目をつけたNVIDIAにGPUベースのAI半導体で大きく差をつけられた。

AI半導体で「強力な2番手」となるためには、まずこの2年で大きく開けられたギャップを埋めなければならない。NVIDIAとAMDを取り巻く状況は、Intelを追撃した時代とは以下のように異なっている。

  • NVIDIAを頂点とするAI市場は巨大で、市場自体が急激に拡大している
  • 技術革新のスピードが加速していて、ほぼ年一回の頻度で新製品が投入される
  • ファブレス企業が競り合っていて製造キャパシティはTSMCがほぼ一手に引き受ける
  • AI開発/運営の主体であるITプラットフォーマーが自社半導体開発を進めている

以前とはかなり異なる景色ではあるが、現在の業界にみなぎる熱気は、AMDがIntelを追撃した時代を思い出させる。業界標準を打ち立て、市場をほぼ独占するNVIDIAを追撃するAMDの2番手のマーケティングが通用する理由は充分にある。まずは、業界の利益をすべて吸い上げたように見えるNVIDIAの業績だ。この巨額の利益の源泉は顧客である巨大プラットフォーマーであり、これらの顧客がこの状態を維持させ続けるとは考えにくい。

最近NVIDIAも出資する新興クラウドブランドCoreWeave社が、NVIDIAの最新チップBlackwell Ultraを採用したサービスを開始するという発表があった。最新チップをまずは傘下のクラウド提供者に出荷するというビジネスモデルは、NVIDIAと顧客との間に競合関係を生じさせる。これはIntel Insideキャンペーンで顧客のブランドを乗っ取ろうとしたIntelと構図が似ている。

また、AMDはNVIDIAが独占するCUDAの開発環境とはまったく異なるオープンなROCm環境で対抗する。これにより顧客は競合との差別化が図りやすくなる。半導体製品としては破格の高額な単価も、AMDにとっては有利に働く。価格勝負になっても充分利益が出る基盤がある。

AMDはMETA、Microsoftを始めとして大手顧客の取り込みで着々と実績を上げていて、最近OpenAIとの半導体共同開発の構想も発表した。AMDの今後の成功は独自技術のロードマップの着実な実行と、顧客ニーズを取り込んだマーケティングにかかることになる。

Intelとの熾烈な競争で磨きをかけたAMDの「2番手のマーケティング」はいよいよこれからが本番となる。