最近米国の複数紙による「Armが独自の半導体チップの発売を計画か?」、との記事が話題になっている。従来Armは命令セットとコア設計のライセンス供与によるIPのビジネスモデルであったが、新たな戦略として自社独自設計チップによるデバイス市場への参入を計画しているという。新展開のこの構図はArmコアのライセンスを受ける幅広い顧客に対し自身が直接の競合になる可能性を示唆している。
スケーラブルで省電力のArmの優れた特徴
今回の報道では、すでにMETAとのCPU設計においての協力が進んでおり、サーバー用CPUが最初の製品になる模様だという。
AMDやIntelのCPUと比較して、Armの命令セットはRISC(Reduced Instruction Set Computer)風の簡素なものになっていて、マルチコア構造で省電力なCPUの設計に向いていることは確かだ。
昨今のAIサーバーセンターへの投資は高額なNVIDIAのGPU購入のための投資に加え、多くのGPUコアへのタスクの割り振りには高性能なCPUが当然必要である。また、急増する電力コストを抑えるカスタムCPUの方向性も充分に考えられる。実際、METAを含む巨大ハイパースケーラーのほとんどすべてが、AIアクセラレーターの自社開発を行っており、その多くはCPU部分にArmコアを使用している。これらのカスタムチップは、BroadcomやMarvelなどのASICファブレス企業との開発協力で提供されてきたが、これをArm自身が行うことで、自らの顧客の直接の競合となることになる。
当然、業界には緊張が高まる。Armが自社設計CPUのパートナーとしてMETAを選んだ理由もよくわかる。METAはNVIDIAのGPUアクセラレーターを大量に使用しており、NVIDIAのGPUシステムにはArmのCPUコアが使用されており、Armの命令セットをベースとするコードは熟知している。しかも、サーバー用のCPUとなればGPUの次に高価なデバイスであり、その分利益率も高い。
サーバー市場で着実にシェアを拡大するArmコアデバイス
ArmコアのCPUを搭載するデバイスは、AIアクセラレーターのASICに代表されるようにサーバー市場における存在感を着実に拡大している。米国の調査会社の予想によれば、サーバー市場において2022年には約4%であったArmコア使用の大規模な半導体デバイスは、40%という高い年間成長率で拡大しつつあり、2027年には18%に達するであろうということである。
そのほとんどがハイパースケーラーが自社のサーバーのために使用するASICであることで、あまり目立たない存在だが、その伸びには著しいものがある。
実際、NVIDIAのGraceをはじめ、METAのMTIA/Artemis、MicrosoftのAzure Cobalt、GoogleのTPU、AWSのInferentia/TrainiumといったようにArmコアをCPUとして搭載するAIアクセラレーターの使用例が飛躍的に増加していく予測だ。
サーバー市場のみならず、PC市場にもその波が押し寄せる。AppleのMシリーズはMacBook市場で不動のポジションを確立し。PC市場でも、QualcommのSnapdragonなどがAI PCのブランドに括られて浸透し始めている。AI半導体をGPUベースのアクセラレーターで支配するNVIDIAもArmベースのPC用CPUを今年後半にも発表すると噂されている。
迎え撃つx86陣営の動き
従来PC/サーバー半導体市場はx86アーキテクチャーを擁するIntelとAMDの寡占状態にあったが、この状況はArmコアの進撃によって崩されつつある。
ZenアーキテクチャーのCPUでIntelのシェアを着実に奪いつつあるAMDは、過去に「K12」というコード名でArmコアのCPUを開発していたが、Zenアーキテクチャー開発へのリソースの集中をはかるために製品発表寸前でキャンセルされた。
この当時のチーフアーキテクトがAI半導体のスタートアップTenstorrentのCEOを務めるJim Kellerで、その決定を「愚かな決断」と回想しているのを彼自身のインタビュー画像で見たことがある。
そのAMDも再びArmベースの新たな製品を開発中で、このアーキテクチャーの詳細も今年の後半には明らかになる模様である。この状況でIntelは最も脆弱な状態にある。Gaidiシリーズを擁するIntelであるがAIアクセラレーターの市場での存在感は全くなく、わずかにエッジ側のAI処理を謳うx86コアのAI PC用のCPUがあるが、こちらもその普及はかなり限定的である。昨年末突如引退を表明した前CEOのパット・ゲルシンガーも、今後のIntelのCPUロードマップでのx86アーキテクチャーへの決意を再三語っていた。
Armによる独自開発CPUの市場参入はこれらの各社の動きにさらなる一石を投じることになりそうだ。