SAFeは、アジャイル開発をすることが目的ではなく、今までと異なるやり方でビジネスのスピードを上げていくフレームワークです。特に大人数でのプロダクト開発で、複数のAgileチームが連携してスピードを上げていくには、元の組織のやり方を変える必要もあります。この組織的な変革の中心を担うのが「LACE(Lean-Agile Center of Excellence)」と呼ばれるチームです。
今回解決する課題
今回解決する課題は、以下の3つです。
- B-4:DXを推進すべき経営層/管理職層がレガシーなマインドを抱えたままで、適任なリーダーが育てられていない
- C-3:顧客/親会社の関係者とIT/開発のメンバーがフラットな立場で開発を進められていない
- D-1:DXに適した人材が不足している
最近、「Change Agent」という職種が注目を浴びています。組織がDXのような組織変革を進める際、その変革を後押しする存在です。「組織改革の当事者」というよりも触媒のような立場で組織に関わり、組織がうまく変化できるようにすることが責務になります。P.F.ドラッカー氏の書籍『ネクスト・ソサエティ - 歴史が見たことのない未来がはじまる』(発行:ダイヤモンド社)で生まれた言葉で、同書の中ではその役割(ロール)について、以下のように語られています。
- 変化をマネジメントする最善の方法は自ら変化を作り出すこと
- 組織全体/全員がChange Agent に変わらなければいけない
- Change Agentが重視すべきは組織全体の思考を変え、変化を脅威ではなく、チャンスと捉えること
SAFeでは、このChange Agentのロールを担うチームをLACEと呼んでいます。LACEになるためには、「SPC(SAFe Program Consultant)」の教育を受け、SAFeの知識を得た上で、組織改革に取り組み始めます。
LACEの役割
LACEの責任は、以下のように定義されています。
- ビジネスの必要性、緊急性、変革のビジョンを伝えること
- SAFeの実施計画の策定と組織変革のためのトランスフォーメーションバックログの管理
- エグゼクティブ、マネジャー、リーダー、アジャイルチーム、およびプロダクトオーナー、プロダクトマネジャー、スクラムマスター、リリーストレインエンジニアなどへのトレーニングと調達
- バリューストリームワークショップのファシリテーション、およびAgile Release Train(ART)立ち上げと支援
- ARTメンバーへのコーチングとトレーニングの実施
- PI(Program Increment)プランニングやI&Aワークショップなどのイベント参加
- SAFe Community of Practiceへのコーチング
- 大人数間のコミュニケーション促進の活動実施
- ゲストスピーカーを招いてイベント実施や社内事例の発表
- 外部コミュニティとの連携
- リーンアジャイルマインドの継続的な教育と推進
- リーン予算、リーンポートフォリオ管理、契約、人事などのSAFeのプラクティスの実践を社内の他の領域に拡大
- 恒久的な改善活動の確立をサポート
LACEは数人で構成されるAgileチームの一つであり、PI期間を通じてチームでこれらの責任を果たします。一見すると「PMO(Project Management Office)」と似ていますが、推進することが組織改革に準じていることに加え、サーバントリーダーシップの上で、これらの活動を遂行することが求められるため、マインドなど大きく異なるスキルセットが必要になる場合があります。
LACEの立ち上げ
先述の通り、Agileチームの一つであるLACEは、PIを通じて成果を発揮していきます。とは言え、実際どのように活動を進めればよいのでしょうか。
LACEの活動は、他のチームと同様にワーキングアグリーメントを通じて活動の共通認識を深める必要があります。その一つが、「LACEキャンバス」と言われるキャンバス形式の成果物です。LACEキャンバス作成はワークショップ形式で実施されます。そのプロセスは、以下の通りです。
- LACEのミッションステートメント作成:LACEの活動方針を宣言形式で記載する。特に「なぜ」を明確にすることで活動の目的の整合性と透明性を担保する。
- LACEの責任範囲の具体化:LACEの活動範囲の責任範囲を具体化する。ミッションステートメントは主な責任範囲を示すが、チームごとのより具体的な活動範囲を明示することで、チームの共通認識を深める。
- 重要なステークホルダーの特定:LACEが活動を進めるにあたって、「興味」と「影響力」の強さ・弱さで四象限のステークホルダーマップを作成し、LACEチームとステークホルダーとの関係性をより具体化する。
- LACEチームのチーム定義:LACEチームメンバーを選出し、チーム内でのロールを定義する。その後、ステークホルダーマップと照らし合わせて、繋がりの薄いステークホルダーの洗い出しを行う。関係性が薄い場合には、関係性に影響を与えられるメンバーの追加を検討する。
- LACEのKPIおよび成功指標の定義:「採択」「評価」「成果」の観点でLACEの成功指標を決定する。特に「採択」「成果」のバランスを取ることで、短期/長期の指標を決定する。
- イテレーションの決定およびイベントの決定:LACEのイテレーションイベントの実施予定を決定する。
- LACEの予算計画:LACEの予算計画を立てる。トレーニング、イベント、ツールなどの組織の変革に必要な予算の目途を立てる。
- LACEのコミュニケーション戦略検討:LACEは多様性のある組織であるため、コミュニケーション活性化がより必要になる。活性化のためのイベントやルールなどの検討を行う。
LACEのチーム活動
LACEキャンバスで方針を決定するとSAFe導入の準備および運営活動に入ります。その内容は、PIプランニングなどのSAFe運営については想像が容易かと思います。その他、実際の組織課題の解決のための活動としては何が挙げられるでしょうか。実際の組織課題にもよるのですが、弊社のSAFe導入案件経験から言うと、以下のような組織改革活動が実際に求められます。
組織改革活動 | 内容 |
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人財/組織 デザイン |
SAFe/アジャイルのそれぞれのロールに求められる人財像をレベルごとに定義した人財定義を作成する。開発する機能の要件と開発期間に応じて、どのような人員配置がフィットするのかを検討し、要員計画を作成する。チームごとの役割を定義し、人財定義と要員計画からインプリメンテーションロードマップの適切なタイミングごとに体制図を最新化していく。また、アサイン済みの人財/社員に対して育成計画を策定して、計画に沿った追加研修/OJTを実施する |
環境デザイン | チームの開発力を最大限に発揮させることとSAFeの定義する各種イベントを実施することを目的とし、オフィス環境を整備する。技術者のモチベーションを高めるオフィスレイアウトを採用し、優秀な人財の継続的確保につなげる |
セキュリティデザイン | 法律的な規制や会社ルールに適したセキュリティポリシーを作るため、セキュリティガイドラインを策定する |
これらの活動はSAFeで規定されていないものの、多くの場合、中~大規模な組織変革において実働を求められます。
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LACEはSAFeを推進するチームですが、SAFeの導入手順をなぞるだけではなく、組織の課題を解決するための活動を実施します。SAFe推進および組織課題の解決は、両輪となってビジネスのスピードを加速させ、顧客への新しい価値提供に貢献していきます。