両備システムズは、2030年度に売上高500億円を目指す「長期ビジョン」を打ち出している。得意とする公共ビジネスでは、国内トップシェアのソリューションを軸に事業を加速するとともに、製造や流通、運輸、物流といった領域を中心に民需事業を拡大。さらに、グローバル展開や、生成AIなどを活用した新規事業への挑戦にも取り組む意欲的な成長戦略である。連載「『ともに挑む、ともに創る。』 - 歴史を未来につなぐ両備システムズの60年」の一覧はこちらを参照。
だが、両備システムズの成長はその先も続く。同社では、新たに売上高1000億円という長期的な目標を掲げてみせた。そして、これは「真の西日本ナンバーワンのICT企業を目指す」の地位を確固たるものとすることでもある。
今回は、両備システムズ 代表取締役副社長兼COOの小野田吉孝氏を中心に、次の10年を担うことになる次世代リーダーたちに集まってもらい、両備システムズの未来について、存分に語ってもらった。
参加メンバーは、両備システムズ 常務執行役員 クラウドビジネスカンパニー長の今村剛正氏、常務執行役員 ヘルスケアソリューションカンパニー長の青木勉氏、執行役員 営業本部 公共営業統括部 統括部長の大内博義氏、執行役員 営業本部 民需営業統括部 統括部長の橋本渉氏にモデレーターの小野田氏を加えた5人だ。
両備システムズの現在地
小野田氏(以下、敬称略):2025年6月に両備システムズは、創業60周年を迎えました。老舗の独立系システムインテグレータであるとともに、岡山に根ざしながら、全国にも展開するというユニークな企業でもあります。みなさんは、両備システムズのいまの立ち位置をどう捉えていますか。
今村氏(同):2000年に入社したときには、売上高100億円を目指していました。岡山県内ではある程度は知られた会社でも、東京に行くと「何の会社ですか、釣り具の会社ですか」と言われることの繰り返しだったことを思い出します。
2020年に、分社していたグループ会社が統合したときに、約300億円の規模となり、20年間でここまで成長していたことに驚いた記憶があります。最近は、私たちが目指しているような会社の方々から声をかけていただける機会が増えており、成長し、認知度が高まってきたことを実感しています。
青木氏(同):私は2003年に両備システムズに入社しました。最初に配属された藤崎オフィス(岡山市中区)は、当時は1棟しかありませんでしたが、いまでは4棟まで拡大していますし、東京オフィスの陣容も大きく拡大しました。
コングロマリッド型のグループ企業の1社でありながらも、外のビジネスだけで成長を遂げてきた点はとてもユニークだと言えます。しかし、ここ数年はDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIといった動きのなかで、両備グループ企業からの期待が高まっていることを強く感じています。いよいよグループとしての強みを生かす時期に入ってきたと思っています。
橋本氏(同):私は、外部から両備システムズの子会社に入社しました。2020年にグループ会社6社を統合した際に周りの評価が変わり、開発投資や人材育成の手法が大きく変わったことを覚えています。
いまでは、地方に本社を置く他のシステムインテグレータからも「地域の枠を超えた企業だね」と言われるようになりました。両備グループ内に対するビジネス比率は5%前後でとどまっていますが、両備グループ各社で活用しているシステムを横展開した際に、お客様に強く刺さるという手応えがあります。両備グループの知見を活かしたシステム構築は、これからの両備システムズにとって、大きな強みになると思っています。
大内氏(同):私は2020年5月に入社しました。新型コロナウイルスが広がり始め、東京本社が閉鎖されていた時期ではありましたが、同時に両備システムズにとっては2020年1月にグループ会社6社が統合し、新たな船出のタイミングでもあったわけです。コロナ禍では働き方が大きく変わり、IT活用が進み、同時に私たちの営業スタイルも変化しました。現在、売上高は367億円(2024年度実績)となり、この5年間の大きな変化のなかでも、その流れを捉えて、急成長を遂げることができています。
私自身、いまの両備システムズに感じている強みは、経営層と事業ラインの距離が近い会社であることです。その結果、意思決定が非常に速く、新たなことにも挑戦しやすい環境が整っています。また、日本全国のITベンダーからの認知度が高く、かつては競争関係だったものが、いまは共創する関係へと変わっているケースが多いですね。期待値が大きく変化していることを感じます。
西日本ナンバーワンICT企業の定義とは
小野田:2019年に策定した中期経営計画では「真の西日本ナンバーワンのICT企業を目指す」ことを掲げました。現時点では、売上高でみれば西日本で3位のポジションにあります。また、マイナビによると、中国・四国エリアにおける就職企業人気ランキングでは、ICT企業では首位を維持しています。
ただ、現時点では「真の西日本ナンバーワンのICT企業」の実現において、具体的な指標は設定していません。みなさんは「真の西日本ナンバーワン」とは、何を指すと考えていますか。
橋本:私は、あえてKPIを具体化しなかったと捉えています。もちろん、売上高が重要な指標になることはわかっています。ただ、私が重要だと思っている指標の1つに、入社したいと思ってもらえる会社になるということがあります。私は、自分の子供たちが入りたいと言える会社にしたいと思っています。
子供が、この会社に入り、それを自慢できることは素晴らしいことだと思います。また、両備システムズは何をやっている会社であるかということを、もっと知ってもらう活動も必要です。岡山市内にいると、両備(Ryobi)ブランドのバスやタクシーが走っていて、誰もが知っています。
ただ、自治体業務を支えているシステムを担っていると言っても、多くの人たちにはピンときません。タクシーやバスに乗るときに何げなく使っているアプリが、実は両備システムズが作ったものであるということをもっと広げたいですね。
今村:両備システムズが社会貢献をするという観点で考えれば、岡山県や瀬戸内、西日本という範囲で捉えるのではなく、日本全国という視点で捉えるべきだと思っています。岡山県で生まれた企業が、全国のお客様に貢献し、その結果、西日本のICT企業として一番になるということが目指すべき姿ではないでしょうか。
青木:学生を対象にした人気企業ランキングでは、金融やICTなど、入社後にさまざまな業種に関われる分野の企業が上位に入り、そこに魅力を感じるという声があがっています。両備システムズは、まさに幅広い業種に関わる企業だと言えますし、それを通じて、地域や社会に貢献することができる体制が整っています。これを広げていくことが、西日本ナンバーワンにつながると考えています。地域貢献度では負けないという企業を目指したいですね。
大内:優秀な人材が定着する企業であること、外の人から魅力を感じてもらう企業であることが、真の西日本ナンバーワンといえる要素だと思います。この会社にいることがステータスとなり、卒業した人たちに対しても「両備システムズ出身なの?すごいね」と言ってもらえるような企業になりたいですね。
両備システムズの成長戦略、500億円から1000億円へ
小野田:2030年には、売上高500億円を必達の目標に掲げています。そのときには、いまの経営チームからの世代交代が進んでいると想定しています。次の時代を担うみなさんは、どんな両備システムズの姿を描いていますか。
橋本:自治体システム標準化の動きもあり、いまは公共部門が成長を牽引していますが、このビジネスは2025年をピークに減少に転じることになります。そこに向けて民需事業をどう成長させていくかが、2030年の500億円達成に向けた鍵になります。この成長を「ともに挑む、ともに創る。」というブランドコンセプトによって実現することが、両備システムズらしさになると思っています。
私たちのやり方は、全国の地域パートナーや、業種に特化したパートナー、そして、お客様とのリレーションシップによって、課題を解決し、成功につなげ、成長するというものです。これは、両備システムズの長年にわたる実績や、相互の信頼関係によって実現したものであり、大手コンサルティング企業やシステムインテグレータとは異なる部分です。私たちのやり方で、売上高500億円を目指し、さらにその先もより加速し、発展することが大切だと思っています。
民需部門の内部目標は、2030年に売上高200億円を目指しています。公共部門と民需部門がお互いに、500億円の内訳をどうするかといった議論をするのではなく、どちらも計画を上回る形で、成長をさせていく姿勢が大切です。
大内:公共部門では、2030年度に売上高400億円を目指しています。これは長期ビジョンで示したものではなく、内部の目標なのですが自治体システム標準化の動きが終わっても、マイナス成長を見込むのではなく、さらに成長をさせていきたいと考えています。
今村:私たちの世代から見れば、そこから先の2040年までを視野に入れる必要があります。そのときには、売上高1000億円が目標になります。これからソフトウェアの力がますます重要になるのは明らかです。短期間で大きな成長を遂げているソフトウェア企業は世界的にも多く、私たちもそこに挑戦ができると考えています。
現在、公共分野と民需分野の売上構成比は7対3であり、500億円の達成時には、これが6対4になると想定します。ただ、公共の強みはまだまだ発揮できますし、公共分野においても手つかずの領域があり、すでに新たな領域で少しずつ成果が生まれ始めています。また、より大規模な省庁向けシステムの分野に参入できる体力も備わってきたと考えています。
大内:私も売上高1000億円というのは、目指すべき目標だと思っています。長期ビジョンで打ち出している全社売上高の年平均成長率は5%台ですが、営業部門では7%台を目指しており、2030年の500億円を起点に、これを維持すれば、2040年には1000億円に到達します。業界全体の平均成長率を上回る成長が前提となりますが、達成できない目標ではありません。
青木:一般的な傾向ですが、ICT企業と民需分野のお客様の関係を見たときに、売上高が同等規模の企業同士がお付き合いするということが見受けられます。500億円のICT企業であれば、年商500億円規模のお客様と商談を行うといった具合です。両備システムズが1000億円の規模になれば、より大きなお客様と、ともに挑み、ともに創ることができる環境が整うともいえます。
言い方を変えれば、社会貢献ができる範囲が広がることにもなります。売上成長を追求するということは、より社会に貢献するためにも重要な要素であり、だからこそ、1000億円という数字にはこだわっていきたいですね。
橋本:いまは、500億円へと売上高を拡大させている途中ですが、すでに大手企業との商談が新たに発生したり、大手ベンダーからこの案件を丸ごと引き受けて欲しいという提案をもらったりといったことが増えています。私は将来に向けて、大手ベンダーと連携した開発や提案を継続的に行うという意味でも、1000億円という規模に引き上げていくことは大切な要素だと見ています。
今村:ただ、500億円の事業をそのまま2倍するという意識で1000億円を考えていたら、この大きな目標は達成できないでしょうね。何を継続していくのか、何を新たに伸ばしていくのかを考えなくてはなりませんし、そこには新たなパートナーとの連携も必要になってきます。
また、500億円のときの社員数は2000人を想定していますが、1000億円に倍増したからといって、社員も2倍の4000人にすることはできません。そのためには、自分たちの視座やスキルセットを変えて、全体の生産性をあげていく必要があります。いまの両備システムズとはまったく違う姿になるのは明らかですね。
青木:1000億円の達成に向けては、グローバル事業の拡大や新規事業の拡大も重要な要素となります。グローバルについては、日本の企業が進出して、成功した事例が少ないというのも確かですが、FinTechといった新たな事業領域を含めて、両備システムズとして、どんなアプローチができるのかを考えていかなくてはなりません。
グローバル事業にしろ、新規事業にしろ、当社単独で拡大していくことは困難です。 両備グループ全体で実施しているアクセラレーションプログラムやRyobi AlgoTech Capitalを中心に実施している投資活動等を通じて、他社といかに協業していくかがポイントです。
売上高1000億円に向けた現状の課題感
小野田:売上高1000億円を実現するうえで、両備システムズはもっと大人の会社にならなくてはいけません。私が課題に感じているのは、コンサルティング領域に踏み出せていないこと、両備グループとのシナジーが限定的であること、そして女性管理職が少ないことです。
橋本:コンサルティング領域は、両備システムズが弱い部分です。民需分野では、アパレル領域において、上流コンサルティングからの提案による案件獲得の実績が初めて出てきました。業種を絞り込みながら、その領域において、コンサルティングを含めて、一気通貫で対応できる体制構築を急ぎたいと思っています。さまざまな業種で人材不足が課題となっています。
特に物流業界では待ったなしの状況になっています。両備グループのなかにも物流分野の企業があり、同じ課題を抱えています。まずは、両備システムズがグループ会社に伴走し、成果をあげ、それをもとに横展開をしていくことで、コンサルティングといった領域まで踏み出していくことができるのではないでしょうか。
大内:私はガバナンスをより強化し、全体の効率性を高め、組織力を最大限に発揮できるようにすることが大切だと考えています。いまのリソースでできることをもっと増やしていかなくてはなりません。
また、育休や産休を終えた女性が、再び働くケースも増えています。そのベースにあるのは、両備システムズで働きたいと思ってもらえる環境があるからだと自負しています。ロールモデルとなる社員も生まれています。女性管理職の増加には、まだ時間はかかりますが、地道に取り組んでいきたいですね。
今村:女性活用に向けては、継続的な育成プログラムのほかに、産休明けの女性社員に対しても、仕事に携われなかった時間を取り戻すためのフォローアップをしっかり行う仕組みを作ることも必要です。一方で、売上高1000億円の実現に向けては、あらゆることを変えていく必要があります。社員に求めるスキルも変化しますし、そのスキルをこれまでよりも短期間で身に着けることも求められるでしょう。
大規模なプロジェクトを動かすことができる人材の育成にも取り組まなくてはなりません。両備グループには幅広い業種の企業があり、それぞれに課題を抱え、その解決に向けて、DXに対する期待が高まっています。言い換えると、さまざまな業種におけるテストの機会が、グループ内にあります。このなかで、しっかりと醸成し、外に展開していくことができます。多くのパートナーとの連携も強化したいですね。
青木:生成AIに代表されるように、IT業界の革新の速度は圧倒的に速いです。これをしっかりとキャッチアップして、うまく活用していくことが大切です。また、エンジニアを中心に受け身の体質が残っている部分があります。
お客様のビジネスに対して、自らプロデュースできる人材の育成にも取り組んでいきます。社内からも、コンサルティングビジネスに踏み出したいという声が現場からあがってきています。こうした自ら提案し、変えていく環境を作りあげたいと思っています。
両備システムズの未来像
小野田:10年後の両備システムズは、どんな会社だと言われたいと思いますか?
青木:両備システムズで、働きたい、働き続けたい、ともに成長し続けたいと社員に思ってもらえる会社にしたいですね。そして、外から見ても、同じことを感じてもらえる会社になりたい。そのためには、成長に向けたマインドセットの転換が必要です。いままで通りのやり方をしたい、それを続けたいという社員の姿があります。
世の中や会社の変化にあわせて、自分が成長するために変化を恐れない社員を増やしていく必要があります。両備グループ全体に、社員の夢の実現をサポートする仕組みがあります。夢を叶えられる会社であり、これからも、それを維持していきたいですね。
今村:私は、後輩に対して、将来を見せることができる会社にしたいと思っています。いま新入社員として入ってきた人たちが、10年後、20年後、あるいは定年になるまでに、自分がどんな成長をするのか、どんな将来があるのかといったことを期待できる会社にしたいですね。そのためには、2030年、2040年に経営陣が変わる際にも双方が全速力で走りながら、バトンを渡せる仕組みが必要だと思っています。疲れ切った状態でバトンを渡してはいけない。そう思っています。
同時に、会社が成長していくことに対して、社員一人ひとりに自覚を持ってもらい、そのために自分たちが、これまで以上にスピードを伴った成長をしていかなくてはなりません。個人の成長が、企業の成長を支えているのはいまも同じですが、その影響度合いが、より大きくなる時代がやってくるのではないでしょうか。
大内:意思決定の速さは、両備システムズの大きな特徴の1つです。やるという判断も、やらないという判断も速い。どんな規模の企業になっても、両備システムズのスピードは失ってはいけないものです。外から見ても、意思決定がいつも速いと言われる企業文化を維持していきたいと思っています。
橋本:60周年を迎えた両備システムズを100周年、150周年を迎えられるように維持していく義務がすべての社員にあります。社会に貢献し続けるために、ともに挑み、ともに創るという姿勢が、ますます重要になります。社会への貢献は、1社ではできません。さまざまなパートナーと組みながら、成長する会社であり続けたいですね。
小野田:“両備システムズらしさとは何か?”ということが改めて重要になりますね。500億円という目標を掲げたときには、はるかかなたの目標だと思っていましたが、言い続けることで、それが現実のものになってきました。
1000億円という目標も現状でははるかかなたの目標です。しかし、少し背伸びをしながらも、着実に成長を積み重ねることが、両備システムズのやり方だとも言えます。2030年の売上高500億円を達成し、さらにその先の売上高1000億円という新たな目標に向けて踏み出していきましょう。