「研究費」と聞いて若手研究者や学生の方が頭に思い浮かべるのは、一番馴染みのある科研費ではないでしょうか。しかしながら、研究費と一口に言っても実はさまざまな種類のものがあります。そこで本連載では、日本国内における各種研究費について紹介していきます。
第1回は、まず科研費について、学振・科研費書類の書き方のコツをまとめたサイト「科研費.com」を運営されている方に解説いただきます。
科研費とは
科学研究費助成事業は文科省およびその外郭団体である日本学術振興会が扱っている研究費であり、人文・社会科学から自然科学まですべての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる学術研究を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」です。研究者の自由な発想で研究を行うことのできる、典型的な「ボトムアップ型」の研究費です。単年度ごとの科学研究費補助金と年度をまたげる学術研究助成基金助成金の2種類がありますが、それらをまとめて科研費と略称されています。
科研費は予算規模や研究期間によっていくつかに分かれます(表1)。多くの人が最もお世話になるもので言えば、大学院生なら特別研究員奨励費(学振)、研究機関に所属する研究者であれば基盤・若手・挑戦的萌芽・新学術領域 公募班あたりでしょう。
ただし、これらの応募にはさまざまな制限があります。日本学術振興会特別研究員(学振)PDでしたら、応募可能なのは学位取得後5年未満ですし、若手研究は(A)(B)併せて2回までしか受給できません。さらに、若手研究(A)と挑戦的萌芽は一緒に応募できるが、若手研究(B)と挑戦的萌芽はできないなどの複雑な重複制限もあります。
得られる研究費の最大化を目指すのであれば、基本的には出せるものはすべて出すという戦略になると思いますが、研究期間や種々の制限をも加味して考えるためには科研費の応募・採択状況を知ることはとても重要です。
学振の応募・採択状況
まず学振の応募者数を見てみましょう(図1)。最新のデータでは、DC2が5000人、DC1とPDが約3000人、海外学振1000人、RPD250人となっています。ここ10年くらいはPD以外では増加傾向、PDでは減少傾向が続いてきましたが、直近では比較的安定して推移しています。
ちなみに、平成24年のデータでは博士課程の大学院生数は約7万5000人ですので、DC2の応募資格のある大学院生は5万人程度と推定されます。応募者数が約5000人ですから、10人に1人が応募している計算になります。
次に採択率を見てみます(図2)。
RPDは30%、DC1・DC2・海外学振は20%程度、PDは10%程度の採択率となっています。RPDは応募者数が少ないため、年によってブレが大きいと考えられますが、政府としても女性の活躍できる社会を目指していることもあり、比較的高い採択率が今後も続くと思われます(RPDは男性も応募できます)。
一方で、DC1・DC2・PD・海外学振などの採択率は突発的な年度を除けば、比較的安定的に推移しています。特別研究員奨励費がかつてより減額されているとは言え、研究奨励金(給与)・採択率はそれほど変わらず、いろいろと厳しい財政の中では比較的守られているように思われます。
ちなみに、22%の採択率でDC1に1回とDC2に2回挑戦すると、単純計算では約半分の人が採択される計算になります。2人に1人と考えると、採択される気がしてきませんか?
科研費の応募・採択状況
科研費の応募者数もだいたい一定または少し右肩あがりです(図3)。平成24年度あたりから基盤研究(C)は増加し若手研究(B)は減少していますが、これは若手研究の受給制限のために若手研究(B)から基盤研究(C)への応募先の変更が起こっているためだと予想されます。
なお、平成28年9月応募分(平成29年度分)より、「新たな学問領域の創成や異分野融合などにつながる挑戦的な研究を促進」するために挑戦的萌芽が拡充されることになっています。これまでは1~3年で500万円でしたが、拡充後は6年以内で2000万円と、より腰を据えた研究を可能にする変更がなされています。新しい挑戦的萌芽についての情報は近々発表されると思われます。
科研費の採択率を見てみると、基盤研究(C)と若手研究(B)が30%、その他が25%弱となっています(図4)。いずれの種目もほぼ同じ採択率になっており、学振よりも採択率を重視している姿勢が鮮明に出ています。政府が策定した第5期科学技術基本計画(平成28~32年度)においては、科研費の新規採択率30%の目標が挙げられていることから、今後も比較的安定した採択率は維持されそうです。
応募者数が増えているにも関わらず採択率が一定であることから予想されるように、科研費の1課題あたりの配分額は年々下がり続けており、「薄く広く」を目指していることが伺えます。十分な研究費を確保するためには、基盤研究(B)と挑戦的萌芽や基盤研究もしくは若手研究に新学術領域を組み合わせるなど、複数の科研費を得る必要がありそうです。
科研費審査システム改革2018
科研費改革の一環として、今年度応募分から科研費審査システム改革2018が実施されます。主な変更点は2つです。
(1) 審査区分の見直し
これまで、最大で432あった審査区分が整理され、11の大区分、65の中区分、304の小区分となります。基盤研究(S)は大区分で、基盤研究(A)と若手研究(A)は中区分で、基盤研究(B) (C)と若手研究(B)、挑戦的萌芽は小区分で審査されます。
特に中区分および大区分の審査において、特定の分野だけでなく関連する分野からの視点を取り入れ多角的に提案内容を見極めることにより、優れた応募研究課題を見出すことを期待しているようです。
(2) 審査方式の変更
これまでの科研費は書面審査(一次審査)と合議審査(二次審査)の二段階審査で、合議審査は主にボーダーライン上の提案についての審査を行うためのものでした。
今回の改革により、基盤研究(B) (C)と若手研究(B)、挑戦的萌芽については電子システム上での書面審査となり、わざわざ集まる必要がなくなり、効率的な審査が可能になります。また、基盤研究(A)と若手研究(A)については合議審査が引き続き行われますが、広い分野の研究者が審査を実施することで、きめ細やかな審査にすることを目指しているようです。
科研費改革は続きます
今年度応募分から挑戦的萌芽が新制度に移行しますが、平成30年度助成(平成29年9月に公募予定)からは「特別推進研究」および「若手研究」について、それぞれ新制度に基づく公募が行われる見込みです。その他、「新学術領域研究」についても、平成31年度以降に新制度に移行することを見据えて検討を進めていくとのことです。
著者プロフィール
生物学系・旧帝大教員
2016年4月より科研費.comを運営。
科研費.comでは、大学院生・応募経験が浅い若手研究者・なかなか採択されない方を対象として、科研費をはじめ、学振や海外学振・奨学金・教員公募書類などの申請書の書き方のコツを解説しています。ちょっとしたコツを学ぶことで、採択の可能性は大きく上昇します。