20年近く大手メーカーで3次元ツールによる製品開発の推進をしてきた黒瀬左千夫氏が、2010年の独立と同時に設立したのが株式会社DMS-3D。製造業の3D化を支援するだけではなく自らもユーザニーズに応える製品として作り上げたのがトランペット専用モニタ「TUNO」である。震災後に開発したこの製品のキーワードは三つ。ひとつは「Made in Tohoku」。二つ目が、黒瀬氏が推進する3Dデータの活用。そして小規模で量産可能なProtomoldである
課題
- 3Dデータのみで最終製品を作ることが可能な開発プロセス実現
- 品質と生産コストの要求を満たしながら小ロット生産を実現
- 自社ニーズを理解し素早いレスポンスで対応する製造業者の確保
解決
- 3Dデータのみで製造性の検討から見積もりができるProtoQuote
- 短納期射出成形サービスであるProtomoldの活用
- 迅速に対応するプロトラブズ社のカスタマーサポート
蓄積してきた3Dのノウハウを活かして自ら製品を開発
大手メーカーで3Dによる製品開発を推進してきた株式会社DMS-3D(以降、DMS-3D)の代表取締役である黒瀬左千夫氏は独立後の2010年に3Dデータとそれを活用するソリューション支援のビジネスを立ち上げた。大手企業が次々に離れていく中で、黒瀬氏は、中小企業は自立していかなければならないと考えた。同氏は中小企業の3D化を推進することで、そこから商品開発も進めていけるのではないかと考えた。その際に同氏は人の支援をする前にまず自分で独自の商品を手がけようと考えた。
黒瀬氏が考えたのは、今までになかったもので現場が本当に欲しいものを開発することだった。そこで目をつけたのが、楽器関係の道具だった。黒瀬氏の子息はミュージシャンで、演奏の現場で起きている問題を聞いていたのだ。そのひとつが、前方に音が飛ぶトランペットは、自分の音が聞きにくく結果的にバンドで演奏する際にトランペットだけピッチが合いにくいとう問題だ。プロだけでなく、アマチュアも含めれば日本だけでもトランペットを吹く人口はかなりある。その問題を解決できる製品を作ろうと考えた黒瀬氏はさっそく開発に着手した。商品の開発は最初から3Dで行った。黒瀬氏の協業先も3Dで製品設計をしているため、コラボレーションとなると3Dで行うのは自然な成り行きであった。
改良を重ねながら、10個ほどの光造形による試作品が完成した。試作品をプロのミュージシャンに評価してもらったところ評価が高かったこともあり商品化に踏み込んだ。震災後ということもあり「Made in Tohoku」のもと当初、協力企業はすべて東北の企業でやろうと考えた。ところが、3Dデータに対応でき、かつ黒瀬氏の要求を満たす加工業者が見つからない。困った同氏だが、たまたま訪れた長野県のSWCN(SolidWorks Club of Nagano)のイベントでプロトラブズの短納期射出成形ことを聞き、すぐに見積もりをとった。3Dデータをアップロードすれば、3~4時間後に見積もりがくる。それ以外に図面など必要はない。インタラクティブな見積もりシステムProtoQuoteを使えば、自ら材料や数量を変更して検討できる。また製造性についても3Dの画像で確認できるため、加工のプロでなくてもわかりやすい見積もりに印象を強くした。さらに小ロットでも高コストにならない。サポート技術者と話しをして、これは信用できると考えた黒瀬氏はすぐに発注を決めた。
小ロット、低コスト、納得のいく品質をすべて実現
当初はABSとアクリルでそれぞれ50個発注した。「いざ製品が届いてみると、非常にきれいな仕上りに印象を強くしました。両面磨いてもらったこともありましたが、特にアクリルは透明できれいな仕上りでした。つけていても違和感がありません。プロからも好印象をいただいています」と黒瀬氏は述べています。福島県の業者に依頼して作ったこだわりの箱に入れられて販売されている「TUNO」の主要な販売ルートはAmazonのみだが、現在までに同社へのクレームはまったく無いという。
「TUNO」の販売価格は3,000円を切る価格になっている。楽器関係の練習用器具としてはリーズナブルな値段であり、購入に踏み切り易い。通常、樹脂製品をこの価格で販売するための原価を確保しようとすれば、小ロットでの生産は難しい。しかし、短納期射出成形サービスである「Protomold」を活用することで、小ロットでも売値を3,000円に設定することができる原価にまで下げることが可能になったのだ。
期待を上回るサービス
小ロットでありながら、低コストで高品質という黒瀬氏のニーズを満たしたProtomoldだが、黒瀬氏によれば、さらに評価が高かったのはプロトラブズ社のエンジニアの対応だという。Protomoldは単に3Dデータをアップロードし、よければネット上で発注というだけの無味乾燥なプロセスではない。見積もりを受け取った後に、プロトラブズ社のサポートエンジニアから連絡がくる。そこで、疑問点や不明点を相談することができる。「3Dデータが目の前にありますから、わざわざ対面で会わなくても充分に意思疎通ができるのです」と黒瀬氏は言います。「また、そのサポートの内容も優れていると思います。こちらが質問したことに対して単に回答をもらえただけではなく、こちらのニーズを汲み取った上で提案していただけました」と続けます。
一度製造上で問題が起こったことがあったが、それが信頼を強める理由にもなったという。「ゲートの部分で、傷が目立ってしまったことがあったのです。依頼したもののごく一部だったのですが非常に迅速に誠意をもって普通に考えれば、そこまで対応してくれなくても、というレベルまで私の期待値を超えた対応してくれたことに大変満足しています」と黒瀬氏は言う。現場には、演奏者が欲しがるものがたくさんあるという。「どう発掘し商品化していくのか、それをさらに追求していきたいと思います」と黒瀬氏はさらなる製品開発の意欲を強めている。
株式会社DMS-3D
株式会社DMS-3D 代表取締役 黒瀬 左千夫 氏
株式会社DMS-3Dは、CAD/CAM/CAE/CAT/Viewerソフトの選択・販売、トレーニング・導入運用からフォローまで一貫したソリューションサポート、技術情報管理、品質管理、生産管理、計測管理ソリューション サポートや、商品企画、設計、試作部品製造支援を行いながら、中小の小回りを活かして大手では手掛けられないニッチでユニークなオリジナル製品の開発を合わせて積極的に推進し、先頃開発したトランペット専用モニタ「TUNO」はプロのミュージシャンからも高い評価を受ける。
本連載は、「日経ものづくり」2013年10月号に掲載されたコンテンツを再編集したものです。
プロトラブズおよびProtomold射出成形の詳細:http://go.protolabs.co.jp/