樹脂が金型に注入される過程で、冷めていくことは当然の現象ということはお分かりいただけると思います。このため、金型内を流れる樹脂の先頭は最も冷めやすく、最初に固化します。金型がうまく設計されていれば、通常は特に問題になることはありません。ただし、図1 にあるカバープレートのように、長方形の穴を形成するコアがあるような場合、コアは障害物であるために樹脂が分流し、回り込んだ後で合流することになります。つまり下流で二つの面が接触することになるわけです。理想的には、樹脂が完全に溶融してソリッドが形成されれば良いのですが、樹脂が冷め過ぎた場合には、ウェルドライン(溶接線)ができてしまいます。

図1

ウェルドラインとは、金型を樹脂が流れ、合流したときにできる線のことです。見えない線もウェルドラインと呼びます(図2を参照)。金型の設計方法や注入する樹脂の種類によっては、問題にならないウェルドラインもありますが、外観不良、最悪の場合は構造上の欠陥を引き起こす場合があります。ウェルドラインが形成されやすいかどうかは樹脂の種類によって異なります。そのため、使用する樹脂が重要となります。ABSはウェルドラインができやすい樹脂の一つです。多くの場合、ABS樹脂であれば、ウェルドラインができてもソリッドは形成され、パーツの強度が損なわれることはありません。ただし、パーツに亀裂が入っているように見えるかもしれません。

図2

穴形状の後ろ側にウェルドラインができると、構造上の問題が発生する可能性があります。射出成形で穴形状を形成するにあたっては、金型内にコアピンを立てますが、樹脂はこのピンのまわりに流れます。ウェルドラインは、樹脂がピンの背面で合流したときにできてしまいます。

穴形状付近のウェルドラインは、2つの要因で問題に発展する可能性があります。まず、穴形状がパーツの縁の近くにある場合に短いウェルドラインができるため、2つの面をつなげる面積が小さくなります。ネジ用の穴形状の場合は、「ねじ込み」応力が加わったときに、ウェルドラインが亀裂に転じることがあります。
(Protomold 射出成形では雌ネジを作成できません。雌ネジを必要とする場合は、セルフタッピング ネジを使用する、別処理で加工、またはインサートとして追加するなどしてご対応ください)。

ウェルドラインは、パーツのゲート間にも発生します。ゲートは、樹脂がキャビティ内に充填されるための入り口です。弊社からゲートとエジェクターのレイアウトが届きましたら、位置を良く確認してください。プロトラブズでは複数のゲートを使うことはほとんどありませんが、多点ゲートを使用する場合、2つのゲートの中間あたりに重要な外観または強度に影響する要件がないかを検討してください。

ガラス繊維(グラスファイバー)を含有した樹脂の使用がウェルドラインの原因になります。それは、ガラス繊維が樹脂よりも遅れて流動するからです。樹脂が流動の障害となるコアを回り込んで流れ、合流して固化したときにはガラス繊維が含まれていないという現象によるウェルドラインが発生してしまいます。このことでウェルドラインが脆弱になるとは限りませんが、せっかくのガラス繊維のメリットが行き渡らないことになってしまいます。

問題になるウェルドラインを回避するためには、選択する樹脂を変えるという方法があります。たとえば、スルーホール(貫通穴)などのフィーチャがあるパーツではガラス繊維含有樹脂の使用を避けます。設計上の対策としては、ひけを発生させない程度にまで肉厚を厚くして樹脂の冷却を遅らせる方法もあります。また、デザイン面で許されるのであれば、ウェルドラインを発生させるようなフィーチャは可能な限りパーツの縁から離れた箇所に設けるという対策もあります。

パーツの量産に入る前にウェルドラインに気づくことができれば、プロトラブズで試作する意義もあるわけですが、ウェルドラインの強度に関する要件なども含め、弊社のカスタマーサービスエンジニアにご相談ください。

ご参考:

樹脂部品設計ガイド
Protomold 樹脂特性ガイド
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本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。