製品設計は、多岐にわたる項目のさまざまな選択肢を検討して実施されていることでしょう。製品の機能と外観、製造方法に加え、開発予算やスケジュールなどの条件をクリアしていくことも念頭におかれることと思います。今月のDesign Tipsでは、実際の設計者の取り組みをご紹介します。

ご紹介するのは、「Reptangles™」というカラフルなカメの形をしたブロック パズルです。同じ形のカメ ブロックを繋げていくことで、発想の赴くままに、多様で複雑な立体形状に組み立てることができます。このコンセプトは「Multifaceted Nesting Modules」という名称で特許認定されています。

この開発プロジェクトには、設計上の大きな課題が三つありました。一つ目は、1ブロックあたり56個もコネクタがあるプラスチックのカメ形のパーツを設計すること。二つ目は、そのブロックで、多種多様な組み合わせを実現できるようにすること。そして三つ目は、ブロックをシンプルな2方向抜きの金型で成形することでコストを最小限に抑えることでした。

図1:Reptangles のコネクタは、嵌めやすく、外れにくい

コネクタは、この多面体のブロックをさまざまな方向から嵌められるように配置する必要がありました。(図1)そのため、LEGO(R) のようにブロック同士を押して嵌めるという仕組みを採用するわけにはいきませんでした。押して嵌めるコネクタの場合は、非常に厳しい公差が要求され、何度も使っているうちに摩耗してしまい、固定できなくなってしまいます。また、通常LEGO(R)は、地面に対して垂直に積み重ねられるため、重力による固定も可能にします。しかし、Reptanglesは、あらゆる方向からつなげることができ、どのような方向にでも引っ張ることができます。Reptanglesを設計した Jonathan Stapleton氏は、このコネクタに必要な要素は、嵌めやすいが、外れにくく、外したい時には簡単に外せるようにすること、そして、組み立てるときは、面同士を垂直につなげるよりも、斜めにつなげることのほうが多くなることにも気づきました。

成形性を実現する設計もとても難しい課題でした。図2にあるように、ブロックは中身がくり抜かれた3次元形状であるため、二つのパーツに分けて成形する必要がありました。商品としての最終形状は二つのパーツを合体させたカメ形のブロックではありますが、各パーツは2方向抜きの金型で成形する必要があるということです。面は型開き方向に対して45°、90°、135°の位置にあり、コネクタはアンダーカット形状にならないように設計する必要がありました。

図2:上下の部品を組み合わせてプラスチックのカメ形ブロックを形成

CADによるモデリングと試作のプロセスを通して、Stapleton氏は、三角形のアーチ型コネクタを使うことによる解決策を見いだしました。各面にあるアーチ形状が、それと組み合わさる面の溝にはまり、溝の中にある引っかかり形状が、外れを防止する機能を果たします。オスのコネクタを三角形のアーチ形状にすることで、90°の範囲内であれば、どの方向からでもはめ込むことができるようになっています。

図3:アーチ型のコネクタが、相手方の面の溝にはまり込む

この設計で必要とされる樹脂は、ブロックを脱着する際に、溝の中にある引っかかり形状が、微妙に動くだけの柔軟性を備え、一方で意図しない脱落を防ぐ程度にきつく装着できる特性を備えている必要がありました。

コネクタの課題は、解決したので、次に Stapleton氏は、成形性の課題に着手しました。ブロックの最終形状を、上下の二部品に分けることで、金型の固定側と可動側のみの構成でコネクタ形状も成形できるようにしました。オスのコネクタの内側の面は、可動側の金型(凸形状)にて作成し、固定側の金型(凹形状)とのすり合わせにて形成されるようにパーツを設計しました。このことによって図4にあるように、型開き方向に対して直角な面と斜めの面の両方にオスのコネクタを作成することができるようにしました。

図4:コネクタ部分の形状

メスのコネクタについては、オスのコネクタの輪郭に沿ったように設計すると、斜めの面にあるコネクタにアンダーカット形状ができてしまうことに設計者は気がつきました。そこで、アンダーカット形状がないようにするために、コネクタの面を型開き方向に沿わせることにしました。このような設計の調整を行っても、オス側のアーチ型のコネクタがメス側の溝に引っかかり、着脱できるため、当初の仕様どおりのコネクタの機能を実現することもできました。

設計は、複数の工程を経て完成しました。CADでモデリングし、木材で試作した後 Stapleton氏は、確実に成形性を確認できる試作の方法は射出成形しかないと考え、Protomold射出成形を利用することにしました。Protomoldによる最初のトライで、若干の設計変更の必要があることを確認できました。幸い、必要とされた変更は、いくつかのフィーチャーのサイズを大きくする(樹脂を足す)というものだったので、新規に金型を作り直す必要はなく、金型を追加工する方向の修正で済みました。最終製品は、玩具会社にライセンスされて、現在販売中です。また、設計者はこのコネクタの特許を申請しました。 この製品に関する詳細なケーススタディーは、こちら(英文)でご覧いただくことができます。

ご参考:

Protomold 樹脂特性ガイド
樹脂部品設計ガイド
ProtoQuote®無料解析&見積り

本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。