ここまで4回にわたって、海外を中心に先端的な取り組みを進めているデータセンターの事例を紹介してきた。それらのデータセンターに共通するテーマは、いかに施設全体で持続可能性を高めていくかだ。
海外では、日本で今主眼となっている電力使用効率PUE(Power Usage Effectiveness)以外にも、再生可能エネルギーの導入率を表すREF(Renewable Energy Factor)や、冷却などに使われる水の利用効率を表すWUE(Water Usage Effectiveness)など、様々なKPI指標によってその持続可能性を測ろうとする動きがあり、こうした指標は今後日本でも注視されていく可能性が高い。今回は、日本においても始まりつつある、持続可能性というテーマへの向き合いについて、1つ事例を挙げながらご紹介したい。
再生可能エネルギーの採用や樹木の保護活動などで「環境共生型施設」を目指すデータセンター
福島県に拠点を置くエフコムは、1980年に「福島ファコムセンタ」として計算センター事業を開始。その後、2004年には会津若松に同社初となるデータセンターを開設し、2014年には新たに福島データセンターを開設した。エフコムは、「SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)投資を本質的かつ普遍的な企業価値」ととらえ、持続可能な社会の実現に向けて、社会が求めるソリューションをICT企業として提供し続けており、データセンターの効率化やCO2排出量削減にも注力している。 例えば、屋上に設置したソーラーパネルによるサーバールームへの給電や、水冷式空調機の冷却に東北地方の寒冷な気候を生かした外気温によるフリークーリングシステムの採用などによって、データセンター全体の効率化と安定化に注力し、CO2の排出量を削減する「環境共生型施設」を目指している。
エフコムの取り組みは、データセンター事業における環境負荷低減だけにとどまらない。2016年には会津若松市の磐梯山において、「エフコムの森」と名付けた森林を取得。44.5ヘクタール(東京ドームの9.5倍)という広大な土地で、針葉樹と広葉樹の混合林の維持や整備を進め、いずれは水芭蕉とホタルが飛び交う環境への再生を目指すなど、環境への取り組みも積極的に進めているほか、廃校を活用したオフィス環境の整備と太陽光発電によるオフィス内電力の創出や、使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する枠組み「RE Action」活動への参画を実施している。まさに、地域に密着しながら、持続可能で環境負荷の低いデータセンターを多面的に実現しようとしている企業というわけだ。
365日24時間の監視と分析を行う
では、もう少し具体的にデータセンターの中を見てみよう。地球環境に優しく地域社会のSDGsにも貢献しようとしているエフコムのデータセンター事業のコンセプトは、「災害に強い」「高い可用性」「自然環境にやさしい」の3つだという。これらを海外のデータセンターとも遜色のないレベルで実現するため、シュナイダーエレクトリックの製品が活用されている。
エフコムが2004年に会津若松にデータセンターを開設した当初は、一般的なUPS(無停電電源装置)を採用していた。しかし、事業を拡大していくに当たりUPS容量が不足。そこで、2014年に新たに福島データセンターを開設する際に、シュナイダーエレクトリックのUPSと他社の製品を比較した結果、必要な容量を必要な時に導入できる、モジュラー型UPS「Symmetra PX」の採用を決めた。
さらに、福島データセンターでは電力使用量や発熱量が膨大になることが予見された。そのため、施設全体の稼働状況をリアルタイムモニタリングで把握し、かつ検知したエラーについてアラートが発出できるなど、365日24時間安定した運用が可能になるように、オペレーション面を重視した構築が進められた。
福島データセンターはハイパースケールデータセンターと比べると小規模だが、ラックの配置密度が非常に高い施設になっている。データセンターは密度が高くなると、熱処理が難しくなる。そこで、空調に関しては、ラックの間に置くことで高い空調効率を可能にする水冷式空調機「InRow RC」を採用。高密度のデータセンターにおいても、高いエネルギー効率で運用できるインフラを実現した。さらに、物理監視ソリューションとして「NetBotz」のネットワークカメラを導入し、ラックへの物理的なアクセスを監視するとともに、「NetBotz」の温湿度センサーによって、センター内で発生する熱を365日24時間監視している。
ラック内の機器に電力を供給するPDU(パワーディストリビューションユニット)は、個々のコンセントでどのくらいの電力を使用しているのかを測ることができる「NetShelter Metered Rack PDUs」を導入。これらのシュナイダーエレクトリック製品が検知した全てのデータを、データセンターインフラストラクチャ管理(DCIM)ソフトウェアを活用して収集し、分析とモニタリングを行っている。
データセンターの全体最適を実現するDCIMによるシミュレーション
DCIMによる分析とモニタリングは、緊急時の最適化やバックアップに瞬時に対応できるだけではなく、さまざまなシミュレーション機能も提供している。例えば、PDUで個々の電源コンセントの電力消費を計測すれば、どの区画が必要以上に電力を消費しているかが把握できる。その情報をもとにシミュレーションすれば、電力消費の分散などさまざまな最適化が図れる。
データセンターのような大規模施設になると、一旦構成を変更して効果が見られなかったからといって、簡単に元の構成に戻すことはできない。そのため、部分最適ではなく全体最適を実現するには全てのデータをリアルタイムに把握することが重要であり、事前にフロア全体のシミュレーションがいつでも可能になることが重要なポイントになる。
このように、インフラ全体の温度管理や電力消費の状況を見える化し、シミュレーションを適宜可能にするソリューションの活用は、エフコムでは会津若松のデータセンターでは2.6だったPUE(電力使用効率)の値を、福島のデータセンターでは1.24以下に下げることができたという大きな成果を生んでいる。
エフコムは、こうした取り組みによる実績を評価され、シュナイダーが持続可能性に取り組むリーディングカンパニーと賞すべきパートナー、エンドユーザー企業を表彰する「サステナビリティインパクトアワード」において、「Impact to My Enterprise部門」の2023年度のGlobal Winnerに選出された。
現在、生成AIの台頭によって、大きくデータセンターの在り方が変わろうとしている。コンピューティングの高密度化による電力消費の増加を抑えるため、冷却をはじめとする様々な技術が進化しているが、消費電力の増加とそれに伴う環境負荷をいかに下げるかという課題から、世界のデータセンターは逃れられない。
この連載の第2回で紹介したスウェーデンのEcoDataCenterのように、海外ではその土地の自然環境を上手く活用して、高い電力効率を実現するデータセンターが増えており、日本においても、今回紹介したエフコムのように、持続可能性を戦略の軸に置いたデータセンターが主流となっていくのは疑いようがない。しかし、データセンターは立地や運用条件によって取るべき対策が千差万別であり、その環境に合わせたソリューションが必要となる。その際には、寒冷な気候を生かしたフリークーリングシステムや、地域の再生可能エネルギー活用など、環境負荷を低減するための様々な選択肢を柔軟に取り入れられること、そして実運用の際のシミュレーションが適切に行えることが、これからのデータセンターにとっての大きな利点となる。
こうした課題に対して、エネルギーの調達をはじめとするコンサルティング領域から、省エネ効率の高いハードウェア導入、運用や最適化のためのシミュレーションや管理ソフトウェアの領域まで、1社でトータルにソリューションとして提供できるパートナーとなることをシュナイダーは目指している。サステナビリティの実現と、高密度化に応える最先端技術、この両面から解決策を提供できるユニークな企業となる取り組みに期待してもらいたい。