前回はOpenStackを利用するうえでのメリットとデメリットについて説明した。今回は、本稿執筆時点において最新版のリリースとなる「Juno」の紹介を行う。
OpenStackの最新版となるJunoは2014年10月にリリースされており、初期バージョンから数えて10番目のリリースとなる。各コンポーネントに新機能が追加されているのはもちろん、新たにビッグデータサービスを提供するコンポーネント 「OpenStack Data Processing(プロジェクト名:Sahara)」 が主要コンポーネントとして追加されている点が大きな変更点となる。本稿ですべてを紹介することは難しいが、以下、新機能の一部について説明しよう。
新機能「分散仮想ルーター」
注目すべき新機能に、ネットワークを管理するNeutronにおいて新たに追加された「分散仮想ルーター」がある。従来のアーキテクチャでは、仮想マシン間の通信はネットワークノードを介して行われ、パフォーマンスや耐障害性の観点から課題があった。これに対し、分散仮想ルーターの機能を利用すると、各コンピュートノードに仮想ルーターの機能を分散することが可能となる。しかし、Junoリリース時点ではSource NAT機能に関してまだ未対応となっており、従来通りネットワークノードを介したNAT処理が行われる点は注意していただきたい。
新コンポーネント「Sahara」
Junoリリースで新たに正式コンポーネントとして追加された「Sahara」は、Apache Hadoop、Cloudera Distribution including ApacheHadoop (CDH)、Hortonworks Data Platform (HDP) といったHadoop環境に加え、インメモリ処理が可能なデータ分析プラットフォーム「Apache Spark」をサポートしている。
これにより、ユーザーはSaharaを利用することで、Hadoopのバージョンやクラスタのトポロジ情報、ハードウェア情報など特定のパラメーターを元にビッグデータ向けのクラスタ環境をOpenStack上に構築・運用することが可能となる。加えて、自動化サービスのための「Heat」と連携することで、急速に上昇した負荷も容易にスケールアウトすることができる。
NFVサポートの強化
Junoにおいて注力されたテーマの1つとして、NFV(Network Virtual Function)が挙げられ、Nova, Neutronにおいて新たにSR-IOV機能のサポートが実装されている。
これにより、Novaによるインスタンス起動時に従来のLinux Bridge、Open vSwitchを利用したネットワークに加え、SR-IOVが有効化されたネットワークを利用することが可能になった。さらに、これらの仮想NICを混在してインスタンスから利用できるため、通常のトラフィックはOpen vSwitchを利用し、パフォーマンスが必要となるトラフィックはSR-IOVを利用した仮想NICを利用するといった柔軟なネットワークの割り当てが実現されている。
そのほか、各コンポーネントにおいて新たなドライバが開発されており、さらなるサードパーティのソフトウェアとの連携の拡充が進められていることが確認できる。こちらの詳細を知りたい場合は、Junoのリリースノートを一読されることを推奨する。
今回は最新版のバージョンとなるJunoに関して、新機能を中心に紹介した。次回は、複数リリースされているOpenStackのディストリビューションについてお伝えしよう。
千葉 豪
ネットワンシステムズ株式会社 経営企画本部 第2応用技術部 クラウドソフトウェアチーム
OpenStackおよびCloudStackなどの主にオープンソースをベースとしたクラウドソフトウェアを担当。
Apache Software Foundationにおいてコミッタ兼PMC(Project Management Committee)としても活動している。