クラウドをベースとしたシステムを検討する際、プラットフォームとして、大きな注目を集めているOpenStack。さまざまな活用メリットがある一方で、問題点もまだ抱えており、双方を適切に理解しておく必要がある。前回はOpenStackを利用するメリットを紹介したので、今回は、OpenStackを利用する際の注意点を説明する。

OpenStackを利用する際の注意点としては、「短いサポート期間」「導入時の設計・構築が難解」「アップグレードのナレッジが希薄」「ドキュメントの不足」がある。以下、各注意点について紹介しよう。

短いサポート期間

OpenStackのメジャーリリースは半年に1回とスピーディな一方で、コミュニティがサポートするのは直近2つのリリースのみだ。よって、サポートは最長でも1年間しかない。このため、継続してコミュニティのサポートを受けるためには1年に1回はアップグレードする必要がある。

新しい機能が次々と追加されていくのはよいことだが、多くの企業内システムは一度導入されると、少なくとも2~3年はメジャーアップデートされないことを考えると、OpenStackのサポート期間は短すぎる。

この対策として、各種OpenStackディストリビューションが長期間のサポートを提供し始めており、企業でも安心して導入できる下地ができつつある。

導入時の設計・構築が難解

OpenStackは、多くのミドルウェアとOpenStackのソフトウェアが連動する構成となっていることから、インストーラで簡単に導入できるわけではなく、必要なソフトウェアを個別にインストール・設定していくことになる。また、High Availabilityの構成をとる場合も、各ソフトウェアの特性を理解したうえで、周到な準備と設計が必要になる。これらがOpenStackの利用を入り口の時点で難しくしている。

この課題についても、ディストリビューションが用意しているインストーラを利用することで解決可能だ。OpenStack専用/対応のインストーラは、自動的にソフトウェアのインストールと各種パラメータを設定してくれる。ただ、システムデザインが事前に定義されてしまっているために柔軟性が失われるという問題点はあるが、今後、デザインのパターンは増えていくと考えられる。

アップグレードのナレッジが希薄

多くのOpenStackのシステムは導入されてまだ期間が短いため、ごく少数のユーザーしかアップグレードを実施していない。こうした状況から、アップグレードに関するナレッジがまだ蓄積されていない。

加えて、OpenStackがアップグレードが想定されたソ:フトウェアではなかったという事情もある。この点はコミュニティでも大きな問題としてとらえられており、徐々にではあるが対応が進んでいる。特に中核プロジェクトであるNovaは先進的な取り組みを行っており、異なるバージョンのNovaのプロセスが混在することも可能となっている。さらに、Novaではデータベースのスキーマアップデートでのダウンタイムを極力小さくする取り組みも行われている。

ドキュメントの不足

OpenStackは、仕様書がしっかり書かれている部分とまったく記述されていない部分がある。仕様書が不十分な部分について知りたい場合は、OpenStackのコードそのものを読まなければならない。この作業を行う際は、Pythonを理解しているIT担当者やベンダーのコンサルティングサービスの手を借りることになる。

ただし、最新バージョンの「Juno」からは、仕様書を先に書いてからコードを記述するように運用が変更されたため、ある程度の仕様書が整うようになった。

以上、OpenStackを利用するうえでのメリットと注意点について説明してきた。繰り返しになるが、OpenStackはさまざまなメリットを企業にもたらす一方、問題点を抱えている。現在、各種OpenStackディストリビューションやコミュニティが問題点を改善している最中だ。

第1回から3回にわたり、OpenStackの背景・概要およびメリット・問題点を解説してきた。これらを踏まえて、次回はOpenStackのディストリビューションについて解説する。

荒牧 大樹
ネットワンシステムズ株式会社 経営企画本部 第2応用技術部 クラウドソフトウェアチーム
シスコシステムズの認定資格「CCIE #14716」を保持。OpenStackおよびCisco/VMwareなどのさまざまなクラウドソフトウェアを担当している。