産業技術総合研究所(産総研)は2013年10月31日と11月1日の2日間にわたり、オープンラボ2013を実施。ロボット系のテクノロジーにフォーカスしたそのリポートは、すでに掲載済みだが、その初日には、産総研のロボット系の研究部門である「知能システム研究部門」の責任者クラスの研究者6人による、サービスロボット市場の上市、パーソナルモビリティ、介護・福祉ロボット、産業用ロボット、防災ロボットなどを題材にした講演「次世代ロボット研究開発動向」が行われた。その講演を1つずつスポットを当てて内容をお伝えする。
まずは、今回の講演「次世代ロボット研究開発動向」の総括的な位置づけとして行われた、知能システム研究部門の比留川博久研究部門長(画像1)による同じタイトルの「次世代ロボット研究開発動向」からお伝えしよう。
同氏の講演「次世代ロボット研究開発動向」では、2010年代に産業化・実用化が期待される次世代ロボット、そのために国内外で行われている研究開発が題材の1つとして、また日本のサービスロボット関係者が頭を悩ませる、「サービスロボット市場の形成を阻害している要因」についても触れる。さらに、その阻害要因を取り除くために、どのような取り組みが行われており、また来年度予算で検討されている国家プロジェクトにはどういうものがあるのかということもまずは紹介していく。
講演は、まず産業用(FA)ロボットに関する話からスタート。いうまでもないが、FAロボットの市場は確たるものがあり、中でも日本は非常に強い。近年は海外勢にシェアを奪われて減ってきているものの、それでも世界における稼働台数のシェアの多くを占めている。また稼働台数で見ても、画像2のグラフはリーマンショックの起きた2008年のデータで、日本だけでも34%という具合だ。
なお、一般社団法人日本ロボット工業会の統計データによれば、マニピュレーティングロボットのみではあるが、2012年時点で31万508台となっており、世界における稼働台数の25.1%を占めている。この数に匹敵する国は存在せず(米国・カナダ・メキシコの北米合計でも12年は16%)、どれだけ日本国内でFAロボットが導入されて稼働しているかということもわかるというわけだ(ただし、中国や韓国も急成長で猛追している)。
また出荷額では2008年時点で6498億円(画像3)、全世界における稼働台数も2008年時点で103万5674台(画像4)。稼働台数に関しては、2014年には130万台になるいう予測もある。FAロボットの稼働台数は確実に世界中で年々増加しているというわけだ。
今回の定義でいうところの次世代ロボットは、サービスロボットが含まれるが、中には双腕型のFAロボットも含まれている。これまでのFAロボットが少品種大量生産に向いており、多品種少量生産もしくは多品種変量生産に対応するにはいちいちラインを変更する必要があるなど、向いてなかったわけだが、双腕ロボットは人がこれまで行ってきた作業もこなせるので、それに対応しやすいのが特徴だ。しかし、非常に価格が高いため、なかなか中小企業では導入しにくいという課題がある。また、使いどころがわかりにくいという点もあるという。
日本国内のFAもサービスも含めた、全ロボットの市場規模として、2005年と少々前のものではあるのだが、7601億円という額がある。その内、FAロボットが3895億円(51%)、ボンディングマシン、無人ローラ、AGV、部品実装、食品加工などの自動機械が3433億円(45%)。生産現場用、つまりFAロボット系が96.4%を占めているというわけだ。
そして残りのわずかな4%が、次世代ロボットというわけだ。ここでいう次世代ロボットとは、おおむねサービスロボットのことをいい、清掃、介護、点検、案内などの業務用が229億円(3.0%)、掃除機、ホビー、玩具、見守りなどのコンシューマが43億円(0.6%)となっている。その時から8年経って、掃除ロボットはかなり一般家庭に浸透していることから、2013年現在は、2005年時点よりはサービスロボットの市場が拡大しているものと予想されるが、それ以外の分野のロボットたちはなかなか上市されないのが事実というわけだ。
もっとも、介護や見守りなどに関しては、アザラシ型ロボットの「パロ」が介護施設などで導入されるケースが国内でも増えているという。しかし、それでも大々的に導入されているわけではないし、なかなか個人での購入するまでにはいかない。また介護用でも介護士が装着するための「アシストスーツ」も開発は進んでいて一部では市販が始まっているが、こちらも残念なことに市場を形成しているとはいい難い状況だろう。
こうした現状において、具体的に2010年代に産業化が期待されている次世代ロボットは、大別して5分野があると比留川研究部門長は挙げる(画像5)。まず1つが、製造業の空洞化の抑制を目的とする、両腕型FAロボットの「人間共存型産業用ロボット」だ。次が少子化への対応とする、清掃ロボットや物流センターの搬送ロボットなどが対象の「移動作業型ロボット」。そして、社会インフラ維持を目的とする「防災ロボット」。続いて、高齢化社会への対応の「人間装着型ロボット」で、最後が低炭素社会を実現するための「搭乗型ロボット(パーソナルモビリティ)」というわけだ。