新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。
オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
第14回となる今回は、「Make New」のアクションワードの下に移転を決めた、パナソニックのオフィスを紹介する。
目黒ビルは「パナソニックらしい働き方」の象徴
今回、パナソニック目黒ビルに入居する部門は、くらしアプライアンス、空質空調、エレクトリックワークス、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション、パナソニック エナジーといった5つの事業会社と、コンシューマーマーケティングジャパン、パナソニック マーケティング ジャパン、海外マーケティング本部、パナソニック補聴器といった4つの流通部門。
これらのパナソニック家電事業の関連部署を一挙にまとめることで、開発・製造・販売の一体経営を実現する家電事業のメイン拠点として、活用していきたい方針だという。
しかし今回の移転は、事業の集約という意味合いにとどまらない。
「弊社は、人々の暮らしを支えるベストパートナーでありたいと考えていますが、その実現の担い手は紛れもない社員自身です。 その社員1人1人が活きる、1人1人が輝く、そのような会社を実現するため、弊社ではさまざまなチャレンジ、制度改革、取り組みを推進しています」(塔之岡氏)
そのような取り組みの中で、特に「パナソニックらしい働き方」の実現の象徴として竣工されたのが、今回オープンしたパナソニック目黒ビルなのだ。
目黒ビルは、若手社員13人をメンバーとして構成される「若手プロジェクト」が主導してコンセプトなどを決定しており、「自然と行きたくなる」「パナソニックらしさがあふれる」職場を具現化するためのフロアが提案された。
加えて、リモートワーク制度などの柔軟な働き方の導入も進めており、職場環境の整備と新しい働き方の両輪で、社員1人1人のウェルビーイングを実現する経営を加速させたい狙いが込められているという。
加えて、塔之岡氏は今回の目黒への移転は、「人材獲得」の面で見ても大きな意味があると語る。
「弊社にとって目黒という経済の中心地に新しい拠点を持つことは、昨今の人材獲得や採用競争の中でも非常に重要なことと認識しております。実際に今年度に入社した社員たちからはポジティブな言葉を多く聞いており、今後より一層、若い人材からの注目度が高まっていくことを予想しています」(塔之岡氏)
社内に人工芝やルームランナーが設置された工夫溢れるオフィス
続いて登壇した若手プロジェクトのメンバーである梶恵理華氏、森脇大貴氏、魚森紬氏の3人は、同プロジェクトが提案および推進を行った、自然と行きたくなる空間や新しい働き方を提供する職場環境を紹介した。
初めに紹介されたのは、10階の「Tsumugu-ba」だ。
このTsumugu-baは、フランクなコミュニケーション空間として設計されており、執務フロアや会議室でのディスカッションとは異なり、気軽な雑談や相談など、自席を離れてさまざまなメンバーとコミュニケーションを取ることができる。
また、この10階には、パナソニックグループの労働組合の事務所なども入居しているため、働くことについて気軽に相談しやすく、目線を合わせてコミュニケーションを取ることができるようにという想いを込めて、背の低い椅子が多く設置されているそうだ。
次に紹介された7階の「しばWORK」は、気分転換しつつ思考に集中できる空間として作られている。
一部のフロアが人工芝に囲まれており、個人作業はもちろんチーム作業もリラックスしながら取り組むことができる空間だ。
加えて、人工芝の隣にはルームランナーも設置されており、マインドチェンジに一役買う、非日常を味わえる工夫も凝らされたフロアとなっている。
また、8階には心身ともに健康で幸せな状態を維持できる空間として、ヘルシーメニューが提供される社員食堂が設置されているほか、4階から7階は階段で部署を跨いだ横断が自由にできる吹き抜け空間になっているなど、さまざまな工夫が盛り込まれたオフィスとなっている。
経営理念を表したアートが点在する目黒ビル
ここまで、さまざまなオフィス内の特徴的なフロアを挙げてきたが、筆者が最もパナソニックらしさを感じたのは、至る所に施された「アート」だ。
前述したTsumugu-baや社員食堂、4階から7階にかけての吹き抜けには、それぞれ異なるアーティストが作成した、経営理念や事業目的・貢献を体現する絵が描かれている。
吹き抜け部分には、パナソニックを家電メーカーとしてではなく「生活を支える大きな1本の樹」として表現した家電と人々の暮らしをテーマにしたアートが描かれているほか、22階の出張者などが多く集う場所であるTsudou-baには、創設者である松下幸之助氏が大切にしていた「物心一如」という言葉をモチーフにしたアートが描かれているなど、さまざまなアートがオフィスに点在しているのだ。
また、アート以外の部分でも、パナソニックらしさを感じることができる。
ビルのエントランスから入って1階の受付奥には、パナソニックの最新家電製品が展示されており、それに加えてIoTを活用した「つながる家電」をまとめた体験コーナーが用意され、社員自身が製品やサービスに触れる機会を創出している。
2階には、創業者の松下幸之助氏の経営哲学を示す展示や、昭和時代に発売した洗濯機やテレビ、エアコンなど同社の沿革で重要な意味を持つ製品の展示なども行っているなど、さまざまな部分で会社の理念や歴史を感じることができる仕掛けが施されている。
最後に、松下理一氏は以下のように今後の展望を述べた。
「私がパナソニック(当時の松下電器産業)に入社した当時では想像できなかったくらい、弊社のオフィス環境は大きな進化を遂げたと思います。この新しいオフィスで、『Make New』というアクションワードの下、お客さまや社会とつながって、ここパナソニック目黒ビルから、未来の暮らしの定番となる 家電製品やサービス、そして新たな発想でのソリューションをどんどん創出していきたいなと思っております」(松下氏)