前編では、日本企業がDX推進および、そのための要である内製化に苦戦する原因として「データとインサイトに基づく意思決定サイクルの欠如」を指摘しました。本稿では、これを克服し、内製化に成功して真のビジネスアジリティを獲得するための具体的なステップと、その過程でオブザーバビリティが果たす重要な役割について解説します。
内製化の新たなアプローチ:「意思決定の内製化」
内製化を考える上で、重要な視点の違いがあります。それは「開発内製化脳」と「意思決定内製化脳」の決定的な差です。
「開発内製化脳」の企業は、開発工程そのものを内部化することに焦点を当て、エンジニアの採用や最新の開発ツール・フレームワークの導入を優先します。
前編の「内製化の本質と限界」の章でもご紹介した、ウォーターフォールモデルの考え方です。この考え方は一見合理的に思えますが、「開発を内製化すること自体」が目的化してしまうと、採用したエンジニアの活用方法が不明確となり、結果的にせっかく採用した優秀な人材のエンゲージメントが下がり、人材流出という悪循環に陥りがちです。
一方、「意思決定内製化脳」の企業は、ビジネスのアジリティに直結する本質的なアプローチを採用します。すなわち、ビジネスに関わる主体的な意思決定権を自社・自部門に取り戻すことを最優先するのです。
先進的なDX成功企業の多くがこの方向にシフトしており、今後のデジタル競争力を左右する重要な差別化要因となっています。この意思決定内製化を進める上では、必ずしも開発から内製化する必要はありません。何よりもまず、実現に向けた体制を構築するためには、自社のシステム全体を理解して、データに基づいた意思決定ができる環境を整備することが重要なのです。