はじめに
近年、日系企業の海外進出は増加の一途をたどっており、2018年のジェトロの調査でも約6割の企業が今後の海外進出について拡大方針を取るとしている。
新規に海外拠点を立ち上げる際、「新会社の基幹システムをどうするか?」という課題に直面する企業は多い。本社で使っているシステムをそのまま持って行くのは言語や国固有の法制度の違いもあり現実的ではなく、新たなシステムを導入するにしても、新会社の立ち上げに合わせて短期間で導入を完了することが求められる。
また、すでに海外に拠点を持つ企業でも、各拠点主導でシステムを導入したり、買収時の既存システムを継続利用した結果、海外拠点の販売状況、在庫状況や財務情報等、本社側で知りたい情報を取得するのに時間がかかるといった課題を抱える企業も多い。
筆者のチームでは、SAPが提供するクラウド型ERP「SAP Business ByDesign」の導入支援を行うことで、上述のような課題解決のサポートを行っている。
海外拠点へのシステム展開において留意すべきポイント
ここからは筆者が携わった海外拠点向け基幹システム導入プロジェクトを例に、特に海外の中小規模拠点へのシステム導入において留意すべきポイントを説明したい。
1:本社vs現地ユーザー
海外拠点向けのシステム導入を行う際、本社経営層の視点からシステムを共通化することによる決算早期化、データの見える化や、運用コスト削減を目的とするプロジェクトが多い。それに対して、現地のユーザーにとっては既存の業務プロセス、システムが変更になるだけでなく、本社側で必要な情報をインプットするためにオペレーションがより複雑になるケースもあり、その結果現地ユーザーの反発に遭い、プロジェクトが失敗してしまう例も見られる。
各拠点のユーザー要望に沿った追加開発を行うのも1つの解決方法ではあるが、費用も時間もかかってしまうし、各拠点個別の機能が乱立しシステムの共通化もできない。これでは本来のプロジェクト目的が達成できなくなってしまう。
筆者が携わったプロジェクトでは、本社側から現地メンバーにプロジェクト目的を共有する機会を、キックオフ時だけでなく、フェーズ完了毎に設けている。現地ユーザーにとってはシステム機能が増えて便利になるというわけではないが、現地にプロジェクトの目的を浸透させるための手段として、地味ではあるが効果的であると考える。
また導入プロジェクトの成功に対して、現地プロジェクトメンバーにインセンティブ(昇格や一時金)を用意することも自らが携わったプロジェクトで実際に採用された手段であり、そのプロジェクトも計画通りに本番稼働を迎えることができた。
2:ローカライズ対応
国によっては固有の商習慣や法制度が存在し、システム対応が必要となる場合もある。SAP Business ByDesignを含め、各国ローカライズが実装されたパッケージもあるが、全て制度要件を全自動でシステムから出力するには、相応の追加開発も必要となり、時間もコストもかかってしまう。現状の業務プロセスやアウトプットを正とするのではなく、システム外での運用も含めて、法的に必須な要件のみを正しく判断して実装することも重要なポイントであると考える。判断に際しては、現地のユーザーのみでなく、会計事務所等に確認を取りながらプロジェクト推進することも1つの方法である。
日本と海外の働き方の違い
よく「海外の社員は残業をしない」と言われるが、実際に全員が毎日定時に帰っているのかというと、そんなことは無い。管理職は必要があれば遅くまで残業している姿をよく見るし、上司の命令があれば一般社員も残業する。
国によって多少の違いがあるかもしれないが、筆者が携わったプロジェクト(南アフリカ、シンガポール、中国、香港、インド)では、システム稼働前後の繁忙期は、現地メンバーも含めてプロジェクトメンバー全員が午前0時近くまで残業していることも少なくなかった。(むしろ、日本よりも上司の命令に基づいて残業する、というルールが正しく運用されているとも言える)。
またシステム導入プロジェクトの計画時には、各国の祝日、宗教や文化の違いへの配慮も必要である。大抵の国には日本のお盆や正月に当たる祝日があり、これを無視した計画とすると、現地メンバーのモチベーションにも影響するため、忘れずに計画に盛り込んでおく必要がある。
まとめ
現地ユーザーの反発を抑えつつ個別の追加開発要望を抑えることは、国内の場合であっても同様に重要なポイントではあるが、物理的な距離もあり、かつ言語や文化の違いがある海外拠点においては、特に現地とのコミュニケーションが最も重要な要素であると考える。次回は実際に海外プロジェクトで苦労した点、どのように対応したかを述べていきたい。
著者プロフィール
服部公平(はっとり こうへい)株式会社NTTデータグローバルソリューションズ
ゼネラルビジネス事業部 Business ByDesign Team
NTTデータに入社後、SAP ERP導入プロジェクトに参画し、財務会計、管理会計、連結会計等の導入コンサル、プロジェクトマネージャーを歴任。2013年以降は、主に日系企業の海外拠点向けSAP Business ByDesign導入のプロジェクトマネージャーとして数多くのプロジェクトに従事し現在に至る。
一橋大学 商学部卒。