茶処として名高い愛知県西尾市に店舗を構え、抹茶の製造・販売ひとすじ120余年。「あいや」は、飲むだけに留まらず“食べる”という新しい抹茶のありかたを提案し、いち早く海外法人を立ち上げて認知度アップするなど意欲的だ。そんなバイタリティ旺盛な同社の原動力とは?――その秘密に迫った。
--御社の事業や経営マインドについてお聞かせください。--
当社の主力事業は西尾産の抹茶を使用した「食品加工」です。実に当社の売上全体の95%を占めています。コンビニエンスストアなどに並ぶ菓子類やアイスクリーム、ペットボトル飲料などに用いる「食品素材」としての抹茶製造を主軸とし、残りの5%ほどで一般的に知られる茶道用の抹茶を取り扱っています。
食品加工では味や色あいは勿論、粉末の粒子の大きさに至るまでお客様のニーズは多岐にわたります。西尾ブランドを大切にしながらも、時にそこに固執せず、ニーズにあった製品を提供するため、京都など全国の産地から抹茶を取り寄せブレンドすることも少なくありません。お客様である食品メーカーのご要望を最優先にし、しっかりそれにお応えする――当社はそんな姿勢を貫く会社です。
124年目を迎える抹茶の産地問屋としていつも大切にしているのは、「この西尾という地域を盛りあげていきたい」――そんな思いです。2009年に西尾市や地元農家と共同で取得した「西尾の抹茶」という地域ブランドの確立を、「あいや」という社名のPR以上に重要だと捉え、西尾という土地全体の活性化こそ私たちの使命だと考えています。
--長い社歴の中で転機となった出来事をお聞かせください。--
現社長が40年ほど前に一念発起し着手した食品加工への事業転換は、大きな転機となりました。
限られた道具、決められた作法の中で嗜む茶道としての抹茶だけでは、どうしても世間から敷居が高いものと見られてしまう。もっと抹茶を世間に普及させ、この市場を広げていかなければ――そんな思いを起点にしての事業転換でした。
しかしここからが苦難の連続でした。「抹茶を食品素材に使うとは何ごとか!」と業界内で大きな波紋を呼び異端視され、それにも負けず加工用食品を開発し菓子メーカーに持ち込むも、全く相手にされない状況に陥りました。「食品素材としての安全性」を徹底的に追求する食品メーカーに対し、抹茶業界の考える食品安全基準がそれに応えきれていなかったのです。
そこで当社は、お茶屋としてのマインドを保ちつつ食品素材用の抹茶製造へとシフト。品質管理のためのラボを開設し抹茶の中の菌をコントロールする技術など、今では業界でも当たり前になったノウハウを確立し食品素材として耐えうる商品開発へ注力した結果、40年前に比べ実に10倍もの年商をあげられるまでに成長しました。
もう一つの転機となったのは、海外への進出です。人口減少を辿る日本市場だけに依存せず、より成長の見込める海外で勝負すべく、2001年にアメリカ、翌年にヨーロッパ、そして2004年に中国で現地法人を設立しました。
この海外戦略の鍵になったのが、30年程前から当社で手がけ、業界に先駆けJONA(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)の有機栽培茶認定を受けた「オーガニック抹茶」です。無農薬・有機栽培にこだわった「オーガニック抹茶」は、健康志向の高いアメリカ都市部で脚光を浴び、農業国が多く食品の輸出障壁が高いヨーロッパ諸国にも大きな話題を呼び、多くの人に受け入れられてきました。
そんな中で当社が徹底したのは、抹茶の呼び名です。“Green Tea Powder”とは決して呼ばず、日本語本来の名称を尊重し、「MATCHA」という表記でブランディングを推し進めました。このこだわりの結果、抹茶は世界中の人々から「MATCHA」の愛称で親しまれるようになりました。
--将来のビジョンをお聞かせください。--
欧米はもちろん、中国での展開もさらに注力していきたいですね。 やはり市場の大きさは魅力的ですし、これまで以上に中流~富裕層を取り込むことが出来れば、その伸びしろは計り知れません。また中国には元々茶の文化もありますし、栽培に適した気候、土壌も揃っています。そういう意味でもこの地での市場開拓には大きな期待を寄せています。
もう一つは、近日リリースを予定している「抹茶スイーツ」です。名古屋の有名パティシエとタッグを組んで、ラスクやフォンダンショコラ、パウンドケーキなどに挑戦。これまでのブランドイメージを崩すことなく30代~40代女性など新たなターゲットを開拓し、これからも抹茶の新しい魅力を提案していきたいと思っています。
--未来を創る御社の社員にはどんなことを求めますか?--
「自分の居場所を自分で創れる人」が良いですね。そういった人をしっかり応援出来る風土が整う会社ですから、良いなと思った事をどんどん発信し形にしていってほしいと思います。
社内では積極的に提案出来る社員が重要なポジションを担っています。先ほどのスイーツ開発もそう。コラボレーションするパティシエ選びも現場の声を反映しています。 “成否を考えるのではなく、まずは走り出してみよう!”という考えを大切にする会社なので、遠慮は一切無用。積極的にチャレンジしていってほしいですね。
会社概要
社名:株式会社あいや
設立:明治21年5月
資本金:3,000万円
代表者:代表取締役社長/杉田芳男
事業内容:抹茶をはじめとする茶類の製造・卸販売
事業所:本社/愛知県西尾市上町横町屋敷15番地