中小企業などすべての法人に対して法人番号が指定され通知されてから、すでに2年以上が経過しました。マイナンバーの利用開始に合わせて、法人番号も利用が始まり、税や社会保障で法人が手続きする際の書類には法人番号欄が用意され、中小企業も、これらの手続きに際しては法人番号を記載して提出するなど、法人番号の利用は定着してきました。 では、こうした法人番号の利用によって、中小企業など法人にとって、何らかのメリットを得ることができているのでしょうか。今回は、この法人番号についての新たな動きをみていきましょう。

法人番号の目的を再確認する

法人番号の発番機関である国税庁の法人番号紹介ページの冒頭で、「法人番号は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社会基盤です」としています。そして、法人番号の目的を、以下のように整理しています。

行政の効率化

法人その他の団体に関する情報管理の効率化を図り、法人情報の授受、照合にかかるコストを削減し、行政運営の効率化を図る。

国民の利便性の向上
行政機関での情報連携を図り、添付書類の削減など、各種申請等の手続を簡素化することで、申請者側の業務負担を軽減する。

公平・公正な社会の実現
法人その他の団体に関する情報の共有により、社会保障制度、税制その他の行政分野における給付と負担の適切な関係の維持を可能とする。

新たな価値の創造の創出
法人番号特有の目的として、法人番号の利用範囲に制限がないことから、民間による利活用を促進することにより、番号を活用した新たな価値の創出が期待される。

これらの目的を実現するための動きはどうなっているのでしょうか。

法人番号にかかる現状の動き

法人番号にかかわる法人情報の提供では、国税庁が運営する「法人番号公表サイト」、および経済産業省が運営する「法人インフォメーション」があります。法人名称などで検索して、法人番号や住所などを確認することができますが、それ以上の情報を確認することは難しいのが現状です。法人が自らホームページを開設し、会社情報を提供していれば、そちらの方がより多くの情報が得られます。「法人番号公表サイト」にしても「法人インフォメーション」にしても、何らかの事情で取引先企業などの法人番号を確認する必要があるときなどしか、利用シーンはないのではないでしょうか。

また、「利便性の向上」の項に記載されている法人番号による「行政機関の情報連携」はどのように進んでいるのでしょうか。

政府が、「eガバメント閣僚会議」の決定として1月16日に公表した「デジタル・ガバメント実行計画」では、「利用者中心の行政サービス改革_横断的サービス改革(行政サービスの100%電子化)」のなかに「添付書類の撤廃に向けた取り組み」という項があります。

これまで個人の手続きでは、マイナンバーの行政機関間の情報連携で、住民票など添付省略が実現することが言われてきました。この「添付書類の撤廃に向けた取り組み」でも、個人については「住民票・戸籍謄抄本等の添付省略」が掲げられています。そして、法人については「登記事項証明書(商業法人)の添付省略」が掲げられています。具体的には「登記事項証明書(商業法人)の提出を必要とする全手続について、情報連携の仕組みが構築される2020年度以降、登記事項証明書の提出の原則不要化を実現する。」としています。

マイナンバーにかかわる行政機関間の情報連携については、すでに昨年秋に本格稼働となっています。登記事項証明書の提出の原則不要化を実現するための情報連携については、商業・法人登記の主管官庁である法務省が「2020年度までに、各府省のニーズを踏まえて、情報連携の仕組みを構築する。」としており、2年後には、補助金申請などで必要となる登記事項証明書の提出が不要となることになります。

法人番号は公表されている番号ですから、行政機関間の情報連携システムを構築するのも、マイナンバーの情報連携に比べて、もっと早く進むのではないかと考えていました。しかし、これまで法人番号に関する情報連携が具体的なスケジュールを含めて公表されることはありませんでした。そういう意味では、セキュリティ面への配慮などにより大規模なシステムとなるマイナンバーの行政機関間の情報連携システムへの取り組みが先行し、ようやく今になって、法人番号に関する情報連携への動きが始まったものと思われます。

法人番号を活用して電子申請時の電子署名も不要に

1月30日の日本経済新聞朝刊に「税・社会保険、オンライン一括申請企業の負担軽く」という記事が掲載されました。

税や社会保険の手続きでは、電子申請・申告するシステムは用意されていますが、国税はe-Tax、地方税はeLTAX、社会保険はeGovとシステムはバラバラです。また、これらのシステムを利用して電子申請・申告する際には、必ず電子署名が必要です。

この記事では、このような状況に対して、「政府はこのため、税と社会保険をまとめて申請できる新しいシステムを20年をめどに立ち上げる。電子署名は原則として省略できるようにする。代わりに既に国が通知している法人番号(企業版マイナンバー)とひもづけたIDとパスワードを発行し、税・社会保険のオンライン申請に活用する。IDとパスワードは無料で簡単に取得できるようにする。不正利用や情報漏洩が起きないように、セキュリティを確保することが課題になる。」としています。

また、「加えて書式を見直すことで、企業名や社長名、企業の住所など各申請に共通する情報は一度入力すればいいようにする。」ともしています。

e-TaxやeLTAX、さらにeGovが、一つのシステムに統合され、新しいシステムでは、税や社会保険の手続きが一括して申請できるようになり、かつ、企業名や社長名、企業の住所など各申請に共通する情報は一度入力すればいいようになれば、企業が電子申請・申告する際の利便性は大きく向上します。

また、電子署名を省略する代わりに、法人番号と紐づけたIDとパスワードを発行し、これを活用して電子申請・申告できるようにするとしています。

もともと、e-Taxなどでは、法人についても、電子申請・申告についての開始届出を受けて、利用者用のIDとパスワードが発行され、このIDを電子データに設定して電子申告・申請するようになっています。その上で、マイナンバーカードなどで電子署名し、送信するのが、現状の仕組みです。そして、この電子署名については、本人確認の役割もありますが、公開鍵方式による送信データの暗号化を行う役割も担っています。また、大規模法人での法人税等の電子申告義務化に向けた動きでは、電子委任状を活用して、法人代表者が自らのマイナンバーカードで電子署名するのではなく、担当者のマイナンバーカードで電子署名する方法も検討されてきました。

それが、この日本経済新聞の記事では、政府は、一足飛びに電子署名そのものを省略できる仕組みを作るとしています。この記事では、現状の電子署名で行われている送信データの暗号化がどうなるのかまでは示されていません。このことについては、「不正利用や情報漏洩が起きないように、セキュリティを確保することが課題になる。」と触れられているにとどまっています。

先に取り上げた「デジタル・ガバメント実行計画」では、これに関連すると思われる記載があります。「プラットフォーム改革_システム基盤の整備」のなかに、「法人デジタルプラットフォームの構築」という項目があり、そのなかで、「法人共通認証基盤の構築」が掲げられています。具体的には「法人関係の行政手続のワンストップ化と法人の負荷にならない形での認証を実現するため、特に法人との接点の多い経済産業省において、法人が電子的な行政手続を1つのIDで行うための認証システムとして法人共通認証基盤を2018年度に開発する。2019年度から経済産業省の行政手続で試行を実施するとともに、2020年度から他府省の行政手続にも活用できる環境を目指す。」としています。この法人共通認証基盤が、電子署名の代わりに活用されることが想定されているのだと考えられます。

法人番号を活用して法人共通認証基盤が確立され、電子署名不要で、法人が行う税や社会保険の手続きが一元化されていけば、法人がこれらの手続きに要している手間は大幅に削減されます。2020年の実現に向かって、どのように進んでいくのか、注目していきたいと思います。

法人デジタルプラットフォームの構築

「デジタル・ガバメント実行計画」のなかには、先述の通り、「法人デジタルプラットフォームの構築」という項目があります。

ここでは「法人番号と法人インフォメーションの活用を通じて、まずは経済産業省の 産業保安関係法令手続、中小企業向け補助金申請等の主要な行政手続から簡素化・デジタル化を進め、データが官民双方で有効に活用されるデジタルプラットフォームの構築を進める。」とされ、「行政手続における法人番号入力の原則化とデータ連携環境の整備」「法人共通認証基盤の構築」「個人事業主番号に関する検討」といった項目が並んでいます。

「行政手続における法人番号入力の原則化とデータ連携環境の整備」のなかでは、それぞれのデータに法人番号が紐づいていることが前提となることから、「各府省は、法人からの申請を受け付ける際などのフォームにおいて法人番号入力欄を原則設けるとともに、行政手続のオンライン化を徹底し、申請情報を機械判読可能なデータとして取得する。」としています。そして、「特にニーズの高い補助金データの集約を進めるべく、補助金申請に関する手続を官民双方でデジタルに行えるシステムの構築を進める。」としています。 (図1)は、経済産業省が、この「法人デジタルプラットフォーム」について示したイメージ図です。

中小企業向けの補助金などは、個人事業主も対象となるものがあります。法人の場合は、法人の認証基盤も構築され、法人デジタルプラットフォームでワンストップサービスが受けられるようになると、個人事業主にとっては、同じ事業者であるにもかかわらず、法人事業者のようなメリットを受けられなくなります。

そこで、「デジタル・ガバメント実行計画」のなかの「法人デジタルプラットフォームの構築」の項では、「個人事業主番号に関する検討」も課題としています。具体的には「個人事業者に対する番号については、マイナンバーとは別の新たな番号付番への具体的なニーズの洗い出しを行い、法人番号の利用状況等を踏まえ、要否も含めて検討を行う。」といったレベルにとどまっています。しかし、事業にかかわる手続きにおいて、個人事業主にも法人番号と同等な公開可能な番号を付番することが検討課題として取り上げられることは、個人事業主のような小規模事業者の事業を活性化するための第一歩として評価できます。是非、法人番号と同等な個人事業主番号が創設され、個人事業主の事業にかかわる手続きも、法人同様のサービスが受けられるようになることを要望します。

マイナンバー制度では、「国民の利便性向上」といった観点からも、個人にかかわるマイナンバーの活用が先行して整備されてきた感があります。ようやく、ここにきて法人番号の活用が、行政側から本格化してくるようになってきました。「登記事項証明書(商業法人)の添付省略」や、電子申請・申告の税・社会保険の一元化、電子署名の省略が実際に可能になるのはまだ先のことではありますが、ここからの歩みについては、注目していきたいと思います。

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。